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連載エッセイ [17]
風を歩く
吉野正敏

 
ヨーロッパの冷たいおろし風、「ボラ」
 
 冬を中心とした寒い季節、アドリア海岸では、背後のディナールアルプスの斜面を吹き降りてくる冷たいおろし風「ボラ」が吹く。“ボレアス”はギリシャ・ローマ時代から知られている北風の神様の名前である。英語の“ボレアル、boreal”は“北の、北方の”と言う意味の形容詞で、例えば、ボレアル・フォレストとはシベリアのタイガなどの寒帯針葉樹林(北方森林)のことである。
 旧ユーゴスラヴィアのアドリア海岸は北西から南東方向に走る。背後のディナールアルプスのヴェレヴィット山脈(1,500-1,600m)も、この海岸線に沿って走る。この山脈のところどころに鞍部(800-1,000m)があり、ヨーロッパの大陸内部から、冷たい空気がここを通り、北東の気流となって比較的暖い低圧部のアドリア海上に吹き出す。ちょうど、シベリアからの冬の季節風が日本の脊梁山脈の鞍部である上越国境を越えて関東平野に吹き降りてきて、冷たい空っ風になるのと似ている。
 ボラは非常に強く、風速は毎秒47.5mに、1929年2月、トリエステで達したという記録もある。普通は、最大で毎秒25mまで、平均では7-9mであるが、幾日も連続し低温なので体感として強い。また突風をともなうことが多い。この突風にも名前があり、シュテーセ、または、レフォーリという。この突風で、鉄道脱線事故、自動車ハンドル操作事故、自転車転倒、歩行者特に小中学生の海への転落(風は山から海に向かって吹く)などが起こる。
 ボラには高気圧性と低気圧性と二つある。同じ北東の風でも気圧配置からみて、高気圧の影響が強いか、低気圧の影響が強いかによる。ボラが吹いているときの雲量にも差がある。前者を白い(明るい)ボラ、後者を黒い(暗い)ボラと、土地の人びとは呼ぶ。ボラが吹きだすと気温は吹く前よりも1-2℃低下し、冷たい体感温度に拍車をかける。
 このあたりの人びとの挨拶で、“変わりないかネ”と聞かれたら、“海は岸まであるヨ”と言うのがある。山から海の方向へ強いボラが幾日も連続し、海の水は沖へ押し返されるように感じる。海の水が海岸にはなくなるのではないかと思われてくるのがボラに吹かれて過ごす人たちの実感である。だから、“変わりないヨ”と言うことは、“海の水が岸まであるヨ”で、表現されるのである。
 クロアチアのアドリア海岸でも、最も強いところは、セーニという小さな港町である。ここはヴェレヴィット山脈にある峠の風下に位置する。峠の地形で風が集まってきて風下に吹き下りる。ちょうど堰止められた水が、堰を越して流れ落ちジャンプするように、空気も同じように風下のある場所に流れ落ち、ジャンプする。その流れ落ちた部分にセーニが位置する。セーニの街の石造りの家でも風上側には窓がなく、あっても小さい。人が歩く街の道路で、どうしてもボラの強風を横切らねばならないようなところには鎖が渡してあって、人びとはこれを頼って横断するようになっている。
 (写真1)は、セーニ港で強いボラのあと、海水のしぶきが凍結した様子をしめす。船の出入りができる状態でないことは、容易に想像つくだろう。

(写真1)強いボラの後、凍てついたアドリア海岸セーニ港。
 (写真2)は、同じくセーニ港の秋のボラ風景。気温は0℃以上なので氷は着かないが、強いボラが吹いているときには、海面近くはしぶきで遠くはかすんで見えなくなる。海面は強風で白波が岸近くから立つ。向かい側の島は強風がまともにぶつかるので植生はなく、白い石灰岩がむきだしである。一見、幻想的な風景だが、生活者には厳しい風環境である。

(写真2)ボラが吹いているときの海面のしらなみ、しぶきで遠くの島はかすむ。
1972年10月31日、セーニにて。吉野撮影
 ボラは海岸ばかりでなく、内陸でも地形条件では強く発達する。スロヴェニアのアイドフシチナという町も非常に強い。近年、地球温暖化のせいか、寒波の吹きだしが弱くなってきたので、強いボラが少なくなってきたと言われるが、それでも、しばしば吹く。家の屋根には石を置いて瓦が飛ぶのをおさえている。(写真3)は30年ほど前に撮影したものである。最近建築された家では石の代わりにレンガを置くが、ボラ対策が必要なことは変わりない。(写真3)(下)の家では、たくさんの石が屋根いっぱいに置いてあり、見事である。(上)の家ではやや少ない。(中)の家では煙出しの小さい屋根の上にも石が置いてある。風に対する完全武装という感じである。
(写真3)スロヴェ二アのアイドフシチナの民家の石置き屋根。
(上)屋根の下に近いところほど瓦がとばされやすいので石が多い。
(中)煙出しの屋根の上まで、石を置く。
(下)アイドフシチナの盆地内でボラが最も強いところの家の屋根。
吉野撮影

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