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連載エッセイ [23]
風を歩く
吉野正敏

 
鯉のぼり
 
 大正時代の初めころに作られた文部省唱歌に、
   ・・・・・中空に、高く泳ぐや、鯉のぼり・・・・・
というのがある。戦前にはよく歌われ、今日でも忘れられていない。青空のもと、新しい長い丸太棒の高いところに、吹流し、その下に真鯉、緋鯉がはためく姿は、5月5日の端午の節句ころ、日本の代表的風景の一つである。
 端午の節句(節供とも書く)の行事は中国から日本に渡来した。元来は旧暦の5月5日である。“端”とは“初”の意味で、月の最初の午の日が端午である。十二支の寅を正月とする古い中国の夏時代(紀元前約21世紀‐約16世紀)の暦では5月は午の月になり、“午”は“五”に通じることから、3世紀、魏・晋時代以降、5月5日を<重午><重五>などと呼び祭礼の行事を行うようになったという。これが、日本に伝わった。
 日本の農村で行われているのは、男の子の初節句を祝う、労働を避けて家に忌みこもる、いろいろな競技をする、などの行事である。都会では、このなかで、男の子の節句を祝う行事がほとんどであろう。団地のベランダからでた棒の先に鯉がぶらさがっている風景はほほ笑ましく、心が暖まる。

(写真1)風になびく鯉のぼり。“端午の節句”の日本を代表する風景。福島県滝根町にて。
1994年5月5日、吉野撮影
 鯉のぼりは、やはり、広い空間がないと鯉が充分に泳げない。小学唱歌の「・・・・・中空(なかぞら)に・・・・・」とは、屋根より高い空間を歌っている。「天翔る(あまかける)大空(おおぞら)」という表現があるように、大空とは巻雲が浮かぶ5,000-6,000mの高さの広い空間である。これに対し、中空(なかぞら)とは本来は数十mから200-300mの雨雲が飛びかう空間である。鯉のぼりの高さよりは高いが、鯉のぼりの鯉が泳ぐには青空の舞台装置が必要だから、鯉のぼりの歌では“中空”の表現があっている。
 あるとき、ヨーロッパから来た友人が日本の鯉のぼりを見て、「魚が空を泳ぐという発想はおもしろい」と感心した。確かに、魚は水の中を泳ぐ動物である。しかし、日本人にとっては奇抜な発想ではなく、鯉のぼりが日本の風土にはぐくまれ、定着した理由が歴史的にも気候的にもあると私は思う。少し、考えてみた。
 5月5日は、上に述べたように、もとは旧暦であったが、新暦の4月下旬から6月初めは移動性高気圧に覆われる頻度が高い季節である。青空とおだやかな風が一番よく吹く時期で、鯉のぼりには最適である。
これが、気候的な理由である。 (写真1)は昨今ではめずらしく立派な鯉のぼりである。旗指物もみごとである。元来、のぼりとは忌みこもりをしていることの標識か、神の依代(よりしろ)に起源をもつのではないかとされている。のぼり竿の頂に髯籠(ひげこ)をつけたり、杉の葉をつけるのはその名残といわれる(→)。

 では、どうして鯉なのか。文化史的には、中国における鯉のイメージがある。中国では鯉魚(リーユー)は利余と同音で、鯉は縁起のよい魚と古くからされた。また、鯉は竜が身を変じたものと考えられていたから、鯉が黄河を遡って河南の竜門の滝を越えると竜に変化する・・・・・「登竜門」の滝を越えると竜になる・・・・・という説があった。これが日本に中国から伝わった。つまり、このような鯉に関する文化基盤があったのである。
 江戸時代中期以降、武士が端午の節句を尚武の日として、旗指物などの武家かざりを門口に立てたのに対し、町人が滝を登る出世魚の鯉をのぼりとして立て対抗した。初めは紙製で40-50cmの大きさだったが、明治以降は大型となって、10m以上のものが作られるようになった。以上のような気候的・歴史的背景が考えられる。だから、青空に鯉のぼりなのだと思う。
 しかし、風が吹かないときは、せっかくの鯉のぼりも泳がない。
   ・・・・・青葉の間に鯉幟(こいのぼり)が
       ばさばさと翻ってはぐだりと成って・・・・・
 と、長塚節が「土」(1910)の中に書いた。風には息があって、強くなったり弱くなったりするさまを、鯉のぼりをとうしてよくとらえている。
 近年、“鯉のぼりわたし”が観光名所となっている。川をまたいで張ったロープにたくさんの鯉がぶらさがってなびき、泳ぐさまは、壮観である。(写真2)は岩手県雫石町の雫石川の風景。

(写真2)川をまたぐ鯉のぼりわたし。地域全体で節句を盛り上げる比較的新しい風景。岩手県雫石川にて。
2000年5月5日、吉野撮影
 岩手県の一関市では、川幅170mの磐井川に張られたロープに100匹の鯉が泳ぐという。もとは、1947、1948年と一関市を襲った台風による水害の犠牲者の追悼を目的に市民が作ったという。事の起こりはやはり地域社会と関係がある。しかし、端午の節句と、それに加えて、そのころ見頃となるサクラの季節が重なると祭りはいっそうもりあがる。だから、鯉のぼりわたしは、サクラの見頃が4月下旬から5月初めになる中央日本の山地から東北地方にかけて多い。それに、谷に沿う風が適度に吹くところでないといけない。山岳地帯の深く狭い谷間や、逆に、川幅の広い平野部では適しない。季節の進行、風が吹く条件など、微妙に関係している。
 

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