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連載エッセイ [26]
風を歩く
吉野正敏

 
沙漠の暴風と建築
 
 沙漠の砂塵あらしのすさまじいさまは、“筆舌に尽くしがたい”というのが、正しい。地上のすべてのものを巻き込み、舞い上げ、砂塵で覆い、そして埋め尽くす。
 中国の西北地区、すなわち、甘粛や新疆を中心とした地域における1977年から2000年までの統計によると、特別に強い砂塵あらしは合計14回あった。そのうち視程(どこまで見えるか)が0mの場合が11回、5m以下が1回、50m以下が2回であった。しかも、その時、同時に風も強く、風速は毎秒21-30mが3回、31-40mが8回、41-50mが3回というすさまじさである。これに加えて、やや強い場合は合計8回あった。すなわち、視程100m以下の場合が5回、200m以下が3回で、その時の風速は毎秒21-30mが7回、31-40mが1回であった。
 われわれ日本人は台風が来たとき、このくらいの風速と同時に強い雨に見舞われることにはなれている。雨と砂塵とどちらが大変かと比較しても答えは難しいだろうが、筆者の考えでは砂塵のほうが厄介なのではなかろうか。視程が0mというのは、周囲がまったく見えないということで、その心理的影響は経験してみないと想像がつかない。どんなに強い台風が来ても、視程が0mになることはない。また、雨は吹き込みとか、雨漏れを防ぎさえすれば、室内環境は保たれる。しかし、細かい砂塵は室内に入り込み、健康にも悪いし、さまざまの人間生活をおびやかす。
 さて、沙漠のこのようなすさまじい砂塵あらしの中で、倒れず、飛ばされず、かと言って、砂に埋まることもなく、建ち続ける建物はあるのだろうか。
 甘粛省の敦煌市の南に東西約40km、南北約20kmの沙漠がある。その沙漠の中、敦煌市から南約6kmのところに、高さ数十mくらいの鳴沙山(めいさざん、ミンシャーシャン)と呼ばれる砂の山がある。付近は同じような砂の山やまである。風で砂が流される時に音がするとか、踏みしめるときに音がするとか言われ、鳴沙山の名がついたとされる。歴史書の中には、「砂の中から楽器を奏でる音が聞こえる」とか、「古代、大将軍が兵を率いて出征し、ここに宿営したが、ある晩ひどい砂塵あらしが起こり、黄砂が天を覆い全軍が砂に埋まった。それ以降、山体の中から太鼓の音がする」とか、書いてあるのもあるそうだが、どれがこの山名の本当の由来だかわからない。しかし、砂塵あらしや風による砂の移動と関係しているのが、ほんとうのように、私には思えてくる。最近では、敦煌の莫高窟とともに観光名所になっているので、日本人の観光客も多い。
 その鳴沙山の北側の麓で、連続する砂の山がとり囲む小さい盆地のような地形の中央部に月牙泉(げつがせん、ユエヤーチュァン)と言う名の三日月形の小さい湖がある。周囲は砂ばかりなのに、ここには泉があり、砂に埋まることがないという。(写真1)はその周囲の砂の山と湖と廟である。

(写真1)敦煌の南南西約5kmにある鳴沙山の横にある月牙泉(げつがせん)(画面右)とその横にある廟(びょう)。中国語では宙宇(ミャオユー)。
2002年8月9日、吉野撮影
 湖(池と言うべきか)は長さ218m、幅54m、深さ2mだから、けっして大きくはないが、砂また砂の山やまが連続する沙漠の中だから貴重である。どうして何百年、何千年とこのような湖を保ち続けられるのであろうか。風で周囲から吹き飛ばされてきて、この湖のあたりに堆積する量は少ないのだという“風に対する微地形の影響”で説明する人もいるが、あまりなっとくはいかない。
 最初に“特強”・“強”の砂塵あらしの回数が多いことを述べたが、これは広い面積の甘粛・新疆をまとめての統計である。ある1地点でみれば、そのような確率で見舞われるわけではない。私はこれらの点からもいろいろ考えて見たがやはりよくはわからない。この月牙泉のある場所のような地形のところでは、周辺の砂山の頂部分より風速はやや弱いかも知れない。しかし、このような条件をさし引いても、非常に強い砂塵あらしにさらされることがあると、どうしても思われる。(写真2)はその湖の横にある廟の屋根を近くから見たところで、風対策はがっちりしている。この建物は特に歴史的に意義のあるものではないらしく、中国で刊行されている「名勝詞典」などには何もふれていない。したがって、暴風地域におけるごく一般的な廟建築と考えてよかろう。

(写真2)
(上)廟(宙宇)の塔の部分。風対策の粋をこらした設計・建築である。
(下)正面の門の屋根。棟が大きく、破風板は重厚である。
2002年8月9日、吉野撮影 
 この建物を見て、気がついた点を箇条書きにすると、次のようになる。
(1) 屋根が二重になっている。日本でも中国でも、三重の塔、五重の塔などはたくさんあるが、これらはいわば、三階建て、五階建ての塔建築である。(写真2)(上)に見るように、この塔の場合は、帽子を重ねてかぶったような形式、あるいは、ひさしを瓦で完全に屋根と同じに葺いた形式と見なされ、屋根の重量増を追求した結果であろう。
(2) 高い塔の部分は8角である。風に対する抵抗を小さくするには、円形が最適であろうが、瓦葺き木造建築としては、8角形が最良の選択であろう。
(3) 瓦の部分の面積に対して、棟の厚さ、高さ、長さが非常に大きい。しかも8方向に延ばしているから棟全体の体積を増加し、“重し”としての効果をあげることが可能である。
(4)
(写真2)(下)で特にはっきり認められるが、屋根瓦の末端の部分は、のこぎりの歯のように小さい瓦をだしている。これは風が屋根を吹きこすとき、風によって屋根の背後に生じる渦を小さいものをたくさんにして、瓦をめくりあげるような力を弱め、屋根瓦がはがされるのをなるべくよく防ぐために有効な形と思われる。この形式は中国のここだけに見られるわけではないが、暴風地域の環境に適している。
(5)
工学的ではなく、民俗学的なことであるが、主棟の上には何もかざりがない。湿潤地域ならば、水と関係がある「しゃちほこ」・「竜」などがのることが多い。また、破風板が交わるところには、湿潤地域ならば、懸魚(けぎょ)、雲、波、竜など、水に関係する模様が刻まれた飾りがあるが、沙漠の中のこの建築物では、何を意味するのかわからない模様の飾りがさがっている。まさか、砂塵あらしのイメージではないだろうが、沙漠ならではだと思う。何の表現なのか知りたい。

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