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連載エッセイ [30]
風を歩く
吉野正敏

 
植物と風の微気侯
 
 地球上で植物の分布を大きくきめるものは、言うまでもなく、気温と降水量である。背の高い樹が密に繁茂する熱帯雨林と、高緯度地方に見られるシラカバがまじるトドマツ・エゾマツを主とする北方林, タイガを比べて考えれば、明らかであろう。これに対して、風はもう少し小さい地域スケールの状態が影響する。このエッセイで何度もふれた偏形樹・耕地の防風林・宅地の防風垣などは、数十kmくらいの地域スケールに集中してよく見られる現象である。場合によっては数kmくらいの地域にだけ限られていることもある。
 さらに、風の場合は、植物体周辺のごく狭い範囲の状態が非常に強い影響を及ぼす。特に高温や低温の限界に近い温度条件の地域や、生育の限界に近い乾燥の条件の地域では、風があるかないか、強いか弱いかによって、生死がきまってしまう。数十cmから数十mくらいの狭い空間の気候を微気侯とよび、植物の生育には、特に風の微気候が大切な条件となる。今回は、このテーマをとりあげて、2―3の例を紹介したい。
 まず、乾燥地域の植物の生育に関連した風の微気候の例を見よう。南オーストラリアの沙漠でみた植生限界付近の様子の1例を(写真1)に示す。乾燥の限界でも、寒冷の限界でも、限界付近になると植生は円形になることが多い。植生が1面に分布する地域とまったくなくなる地域との境界は大きく見れば線で画かれるが、細かくみればスポット状に飛び地が丸くなって分布する。専門用語では植生島(vegetation island)と言う。この島の大きさはさまざまだが、(写真1)の場合は数十cmから1mくらいであった。島ができるところはスポット状といっても確率的にきまるのではなく、少しでも生育条件がよい微地形のところにできる。わずかの凹凸でできる風かげとか、水が流れたあとのわずかの湿り気があるところとかである。(写真1)をよく見ると、すでに島ができあがって、花が咲き、実をむすんだ島とこれからできあがってゆく途上のものがある。できあがりそこねて、おそらくこれから消え去ると思われる小さなものもある。また、島は平面的ばかりでなく、垂直的に断面をみても半円形である。

(写真1)乾燥地域における分布限界付近の草の生活形。
南オーストラリア沙漠の南東部にて 1988年8月16日吉野撮影
 (写真1)では穂が右へなびいた形になっている。これは、撮影したのが8月で現地では冬なので、その前の夏から秋へ、穂が出て花が咲き実を結ぶ季節(期間)の卓越風の方向(画面では左から右へ)を示している。画面には、遠くにも同じような植生島がいくつかみられる。
 もう一つ違った沙漠の植物の微気候を述べたい。(写真2)は南オーストラリアの沙漠で撮った。南海岸のアデレードでさえ年降水量は523mmだから、さらに内陸の沙漠は乾燥している。(写真2)はすでに枯れた草の幹の形だが、風の微気候をよく反映している。卓越風は画面右下から左上方向に吹いた。根元がこの植生島の右下にあるのでそれがわかる。そして島の上面が半円形をしていて風に対する抵抗を小さくしている。

(写真2)沙漠で卓越風(画面で右下から左上に吹く)に身をまかせて一生を終えた草。この後まだ仕事をする。枯れた茎がボール状の籠のようになり、風にころがされながら、自分の種子をまいてゆく。
(写真1)の近くで吉野撮影
 沙漠の草がこのような形に枯れあがるのは、めずらしくない。この写真のような状態がさらに進むと、風上側の根元の砂がとばされ、砂から浮きあがる。つまり、根は砂の表面にでてしまい、枯れた草全体が風で吹きとばされ、砂地の上をころがってゆく。そのうちに、全体の形は丸くなり、ボールが転がってゆくのと同じようになる。広大な沙獏の表面を、このようなボールがいくつも転がってゆくさまは壮観である。私が見た場合、ボールの直径は数十cmであった。おそらく、あまり大きいものも、小さいものも、ありえないと思う。
 さらに興味があるのは、この枯れた草には種子がついていることである。この草は沙漠の表面を転がりながら、種子をまいているわけである。これほど沙漠で子孫を残すのによい方法はないと、感心する。沙漠には鳥や動物がいないから、草は自分の種子の運搬をまかせるものがない。したがって、自分がボールの形の籠になって風に運搬をまかせ、途中、少しずつ籠から種子をだしてまいてゆくのが、子孫を残すための最良の適応策である。風の微気候を生かした傑作と言えよう。
 次に石灰岩地域の1例を紹介したい。このエッセイでも以前述べたイギリスのヨークシャでみたもので、(写真3)に示すように、地表に石灰岩の地層がむきだしにでている。地表を覆う一面の石灰岩の中にも割れ目があり、それに沿って侵食が進み、僅かの土がたまり、そこに植物が生育する。
 岩の割れ目の狭い空間は外界とはまったく違った微気候である。日中は岩石からもらう放射熱の増加、日照時間の短縮、夜間は放射冷却の減少、晴夜の明け方は冷気がたまりやすいなど、いろいろの条件がよく指摘される。しかし、私が強調したいのは風の作用がまったく異なることである。すなわち、割れ目の狭い空間は風が弱いので、植物体からの蒸散が少なく、植物体の体温をあまりうばわない。割れ目内の暖まった空気、あるいは、冷却した空気は、外界の空気と風でかきまぜられにくいので、割れ目の中では1日内の温度変化はかなり大きい。これらは、ヨークシャの一般的な気候とはかなり違ったものではなかろうか。
 写真に示した場合は割れ目の土壌面まで20―30cmの深さであったが、70―80cm以上が多く、なかには腕をのばしても届かない割れ目もあった。しかし、そこには植物が育っていた。
(写真3)石灰岩の中の割れ目に沿って侵食が進み、僅かの土がたまり、そこに植物が生育する。植物は、風が作りだした割れ目の微気候をたよりに生きて行く。 (上)シダのなかま。(下)可憐な花。
イギリス、ヨークシャにて 1988年8月1日、吉野撮影

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