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連載エッセイ [47]
を歩く
吉野正敏

 
季節風
 
 外国語では季節風を、発音やスペリングが多少異なるが“モンスーン”に近い語でよぶ。それほど、季節風は世界中の人びとが知っている風なのである。アジアの中で夏と冬で違った方向から風が吹くところをモンスーン・アジアという。その範囲は研究者によって少し違うが、西はパキスタンから北限はチベット高原の東部をかすめて、華北から中国の東北部に至り、日本の本州・北海道を含む南アジア・東南アジア・東アジアとするのが一般的である。南限はインドネシアを含む。これだけの広い範囲だから、当然、地域によって内容も程度も性格も違ってくる。
 モンスーンというと、東アジアの人びとは冬の風を中心にとらえる。今年は異常な暖冬であったが、3月に入って急に低温の日が続いた。これは冬の季節風が弱くて温暖であったのが、急に季節風が強くなり低温をもたらしたためである。
 一方、南アジアの人びとにとっては、モンスーンとは夏の雨のことである。「風」ではなく、「雨」である。少し正確にいえば「雨季」として捉える。インドでは“モンスーンの失敗(monsoon failure)”という語があるが、これは季節風が正常に吹かないこと、すなわち、“雨不足”のことである。だから、毎年、爆発的に始まるモンスーンの開始は、“雨季来る”の小説の表題にピタリとなる。

(写真1)南西季節風が始まる直前。インドのボンベイにて。
1986年4月 吉野撮影
 (写真1)は雨季の始まりのころ、太陽はまだ出ているが近くまでモンスーンの雲が迫っている。路面は日差しで光っているがすでに雨季の様相が濃い。
 乾季から雨季になるころの季節感の変化は想像以上である。教科書には「温帯には春夏秋冬の変化があるが、熱帯にはなくて季節の変化にとぼしい」とよく書いてあるが、これは気温だけを見た場合である。私に言わせれば、乾季・雨季による熱帯の季節感の変化は非常に大きい。もちろん動植物の生活への影響も大きい。
 (写真2)はスリランカのコロンボの南東約8kmの地点のゴム園が、乾季から雨季へかけて、どのようにその遠望を変化させてゆくかをしめす。

(写真2)スリランカのコロンボ南東約8km、ポルワッテカラのゴム園の季節変化、1981年。
(上)あたかも冬景色、ゴムの樹は葉を落としている。2月1日。
(中)新緑の候の景色。2月25日。
(下)緑は濃くなり、ゴムの樹は最成長の季節。7月4日。
いずれも吉野撮影
 (写真2)(上)は2月1日の乾季の風景である。ゴムは常緑樹だが、乾季には葉を落とす。遠望したところでは日本で冬山を見ているように茶褐色のくすんだ色である。(中)は2月25日で乾季が終わりに近くなり雨季が始まるころ、ゴム園は“新緑の候”となった。若みどりに全山包まれた感じは、日本の4−5月の風景に似ている。(下)は7月4日で、雨季の最中、緑は濃くなり、ゴムの樹は成長の真っ盛りである。この3枚の写真を比較すれば、熱帯の季節感がどのくらいはっきりしているか、われわれにインパクトがあるか、おわかりいただけるだろう。もとをただせば、モンスーンのなせるわざである。

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2年間にわたって2週目毎に「風を歩く」を書いてきた。ちょうどこの3月で2006年度も終わりになるので、ここで、「風を歩く」をいったん閉じたい。4月からは、テーマを少し変えて「異常気象」をとりあげたい。特に世界に目をむけ、異常気象を“データによる解析”でとらえるばかりでなく、“異常気象と人びとの生活”や“異常気象と風土形成のかかわり”などにもふれたい。「風を歩く」に御声援をいただいた方々に厚く御礼するとともに、4月からのこのコラム欄をぜひお読みいただくよう、お願いしたいと思う。


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