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連載エッセイ [16]
異常気象を追う
吉野正敏

 
盆地の霧
 
霧は異常気象になるか

 霧はあたりの汚いものを隠してしまう。その先、なにがあるのか、期待を人びとにもたせる。かつて、ドイツ人の友人と秋霧の中の南ドイツをドライブしていたとき、“霧はロマンチックだなァ”と私がつぶやいた。そうしたら、“何がロマンチックだ”とその友人がまくしたてたのには、驚いた。いわく、“湿っぽい”、“交通事故の原因になる”、“美しい紅葉や黄葉も見えなくする”。。。。私は議論するのを放棄した記憶がある。
 気象庁は1971年から「異常気象報告」として府県単位で気象災害を報告させ、資料を整理してきた。「異常気象レポート」(気象庁、1989)として刊行され、その後も、資料の収集は充実してきた。詳しいことはここでは省略するが、この中で、霧はどう扱われているだろうか。霧は「濃霧・濃煙霧」という異常気象の分類で扱われ、気象災害の総称名では視程不良害、細分名では陸上視程不良害、海上視程不良害である。これらは、いわゆるシノプティックスケールの大気現象、すなわち、高気圧・低気圧・前線などに関連して発生する霧による現象である。したがって、盆地というような局地スケール・小スケールの冷気湖に関連して発生する霧については分類の対象とされてない。
 霧がロマンチックであるかないかは別として、どうも身の回りの現象としては災害というような大げさなことにはならないというのが、一般的なとらえかたのようである。

霧に悩む盆地の空港

 大きな空港の出発便の表示板をみていると、朝、7時から8時ころには、まったくの同時刻に3便も4便も出発するようになっている。滑走路が何本もあるのかしら、秒単位で作られている時刻表を略して書いてあるのかしら、駐機場から滑走路末端までの距離は異なるから離陸の順番は自然にきまるのかしら、などなど、つい考えてしまう。
 ロンドンの空港など朝の出発便はたいてい遅れる。地上の作業が間に会わないために生じる慢性的な現象のように思える。そこへ、秋になって霧の季節がくれば、発着便の遅れは極めて深刻で、朝の出発便のラッシュアワーは昼を過ぎて午後にまで及ぶ。そして、成田空港までその影響が及ぶ場合があることを考えておかねばならない。。
 中国でも揚子江から南では、盆地の中にある空港がほとんどである。中国で飛行機をよく利用していたころ、空港で“霧のために遅れます”と聞くと、“秋が来たなァ”と逆に季節感を味わったものである。しかし、ヨーロッパでも、アジアでも、霧で遅れることに怒り出す乗客が居ないのは私にとっては不思議である。昨今のテクノロジーの時代でも、雨の中、雲の中、霧の中になると、飛行機の離陸・着陸は計器だけではできないのだろうか。不可能だというならば、秋になれば霧がでることは気候学的に知られているのだから、それに対応したスケジュールをあらかじめ立てるのが、航空会社の役目ではなかろうか。霧は早朝最も濃くなる。朝のそのころ、3便も4便も同時に離陸できないのはわかっているのだから。
 霧で飛行機が遅れても、死者がでるわけではない、建物が壊れるわけではない。いわゆる災害にはならない。しかし、2時間、3時間と空港で時間を浪費した乗客の可能生産コストを計算したら、莫大な経済損失額になると思う。将来、空港の数や便数が増せば、その額はさらに大きくなる。1年間に盆地霧の発生日数は多いところでは100日に達し、後で述べるように日数は減少化傾向にあるとはいえ、年間数十日は見込まれる。しかも、その影響はそこの1空港だけでなく、航空路で繋がっている極めて遠距離の、大げさにいえば、地球の裏側の空港まで及ぶのである。新しい形の災害といわねばならない。

霧―わがまちの自慢

 兵庫県が71の市と町における“わがまちの自慢”をまとめた。その結果を私なりに対象の内容別に分類すると、(表1)に示すようになる。

(表1)兵庫県内71の市と町の“わがまちの自慢”の分類とその件数

内 容 文化的遺産
歴史的建造物
など
食品
食堂など
リクリエーション
スポーツ
イベント
物産 地理
地形など
動植物 運輸
発電施設
など
高齢者の
比率

件数 35 32 26 15 14 11 8 2 2

(注:一つの市・町で複数件の自慢項目をあげているので、合計件数は145となる。)


 ここで私が最も興味をもったのは、霧を“わがまちの自慢”とした2件である。それは豊岡市と佐用町で、拍手を送りたい気持ちである。豊岡市は「盆地霧の年間発生数は日本一(年間100日程度)」と登録し、佐用町は「佐用盆地一帯は全国有数の朝霧の濃い地帯」と登録している。自然を自慢にしている項目では、地理的緯度・経度、滝、干潟などがあるが、霧の他に、気象は一つもない。霧はここの人たちの生活の場に入り込んでいる日本一を誇るに足る現象だという考え方には大賛成である。
 飛騨の高山(たかやま)の朝市は有名だが、その舞台装置としての朝霧はかかせない。朝10時ころになって霧が晴れて現れる青空もまさに観光資源である。よい演劇ほど開演前の舞台に下りている幕が立派でないといけない。霧は舞台の幕のようなものである。

盆地霧の研究

 20世紀後半、わが国の盆地霧の研究は、三次盆地・豊岡盆地・上野盆地・京都盆地・恵那地方の盆地・会津盆地などについて進んだ。特に1990年代に宮田賢二は三次盆地の霧を集中的に調べた(宮田、1994、広島女子大学地域研究所叢書15)。20世紀末から21世紀初めにかけて、盆地霧の発生とその動態・維持機構・局地循環との関係が田中正昭らによるプロジェクト研究で解明され、1999年から2002年にかけて京大防災研究所年報などに発表された。
 3次元領域数値モデルで水蒸気の輸送過程を再現した結果(大橋ほか、2004、天気、51、509−523)、以下のことが明らかになった。すなわち、三次盆地の秋、夕刻以降の数時間、水蒸気は盆地周辺斜面の高度500−600m以下付近から盆地内に運ばれ、水蒸気量は数時間後に最大に達する。相対湿度にして10−15%上昇する。この水蒸気は日中、盆地周辺の山地斜面の土壌・森林から供給されたものである。この研究結果は、盆地の大きさ、周辺の山やまの平均高度、盆地周辺斜面の植生、日中から夜間にかけた高気圧性の天気の持続が条件であることを物語っている。
 小気候団体研究会(1990、天気、41, 23−25)によると、恵那地方の盆地霧は木曽川沿いの盆地によく出現し、前日と当日の朝晴れの場合にみられるという。これは上記の三次盆地と同じである。そして単純な放射霧でなく、放射冷却の影響が強い混合霧であるという。確かに言葉を正確に使うならば、この結論は正しかろう。
 盆地霧の日数は最近減少の傾向にある。大分県西部の日田盆地の霧も有名である。お茶の水大学の卒論(お茶の水地理、44)によると、最近の30年間に、年霧日数は70−80日から30日くらいに減少した。そして、この減少は10・11月、特に明らかという。この減少傾向は、移動性高気圧の出現回数の減少ではなく、日最低気温が弱いながら上昇傾向にあることに関係しているようだ。
 (表2)に豊岡と京都における1930年代から近年までの霧日数の変化を示す。豊岡では1980年代、京都では1960年代以降の減少傾向はきわめて顕著である。


(表2)豊岡と京都における霧日数の10年平均値の推移

年代 豊岡 
秋*

年**

京都
秋*

年**


1931-40 45 119 27

82

1941-50 49 133 14

47

1951-60 45 126 13

53

1961-70 44 124 6

27

1971-80 45 123 1

4

1981-90 46 115 1

2

1991-2000 38 104 0

1

2001-05*** 29 70 0

0


*)9月―11月  **)3月―翌年2月  ***)5年平均値


これらの盆地霧の日数の減少化はいずれも都市化の影響で地表面から供給される水分量の減少、日最低気温の上昇などの影響で起きていると考えられる。豊岡では数十年間に3分の2以下の日数減、京都では近年の30年間にほとんど0になった。ゆるやかな減少とみるか、急激な減少とみるかは、立場によって異なろうが、もし、霧を観光資源に関わる現象としてみるならば、対応を検討しなければならない。

中国、雲南省の盆地霧

 盆地の霧は条件さえ整えば、世界中どこでも発生する。オーストリア・スロベニアや南ドイツ・スイスなどヨーロッパアルプスや、その周辺地域にあるたくさんの盆地では、秋から冬にかけて典型的な盆地霧をみる。ここでは、中国の例を紹介しておく。
 中国の南部、雲南省は山また山の地形だから、当然たくさんの盆地がある。雲南省の中でも南部を占める西双版納(シーシャンバンナ)は“霧州”の綽名をもつくらい霧の宝庫である。1980年代の初め、私らは日中共同でこの地域の熱帯作物栽培・土地利用と気候条件の研究をした。その際、盆地の霧も観測した。例えば、1984年12月16日の午前9時から11時にかけて、景洪盆地の盆地底(海抜約500m)は視程約200m、斜面を上がるにつれて濃くなり、海抜1,000mで視程は60−70m、最も濃くなった。海抜1,100mで霧の層の上限となり、それ以上は快晴であった。近接するやや小さい盆地では霧が最も濃い高度は約1,100mで、霧の層の上限は1,150mくらいで、やや高かった。また、この地域でも霧日数は1960年代から減少し始め、森林面積の減少との関係が明らかであった。水蒸気源の減少と考えられる。
 その後、野元世紀(岐阜大学)は研究を継続し、似た地形・気候条件をもつ北部タイの盆地・谷間にまで調査範囲を広げた。北部タイのチェンライでも霧日数の減少は明らかである。都市化の影響が大きく、寒候季の月平均気温は30年間に約1℃上昇がみられる。北部タイも森林面積の減少、観測所付近の都市化による最低気温の上昇など、おなじ原因が考えられた。
 最後に、今年1月に撮影した西双版納の景洪盆地の霧の写真を紹介する。(写真1)は盆地底に位置する空港の霧の状態、(写真2)(上)は斜面上部、(下)は斜面下部の状態、そして、(写真3)は霧の層の上限付近で上空の青空がわかる。

(図1)東京における3月の月平均気温と開花日の関係。(写真1)
中国の雲南省、西双版納(シーシャンバンナ)の景洪空港の朝霧。視程400m。
2008年1月11日、午前9時5分、空港駐車場にて。
(図1)東京における3月の月平均気温と開花日の関係。
(写真2)
(上)景洪盆地の斜面上部の霧。茶畑と防風林。視程300m。
2008年1月10日、10時20分。
(下)同じく斜面下部の霧。水田。視程300m。
同日、9時10分。
(図1)東京における3月の月平均気温と開花日の関係。 (写真3)
景洪盆地の霧の上限付近。上空の青空がみえる。
2008年1月10日、9時20分。

(以上、いずれも吉野撮影


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