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異常気象時代のサバイバル

No.14

2014.07.23

吉野正敏

複合異常気象災害

複合異常気象とは何か

 複合大気汚染と言う言葉は聞いたことがあろう。この語はすでに定着し、対策も立てられている。しかし、複合異常気象という語はまだないように思う。フィリピンのピナツボ火山がかつて爆発し、その直後に強大な台風が襲来し、それがもたらした豪雨によって噴出・堆積していた火山灰が泥流化して山麓地域に大きな災害が発生したことがある。これなどは、気象以外の原因による災害と異常気象による災害が複合した場合の代表的な例である。最近の日本の例では、2011年3月11日の東日本大震災による地震・津波の直後に被災地を襲った異常な低温・多雪による災害がある。
 これらは、地球物理学的にみて、地震・津波・火山活動のような岩石圏・水圏の活動と、気圏における異常な活動現象が、同時か、ほとんど同時に連続して、一定の地域内で発生した場合である。 
 今回、複合異常気象というのは、二つ以上の複数の異常気象が、同時か、ほとんど同時に連続して、ある範囲の地域内で発生した場合である。こう定義すると簡単のようだが、実はそうでない。その理由は、同時とか、ほとんど同時とか、連続とかは、実際には何時間か、何日か、何週か、何ヶ月か、1季節内か、1年間か。。。。 そして、対象とする地域は何百km2か、何千km2か、何万km2か、何十万km2か、はっきりしない。また、地域範囲を災害統計や気象観測値収集の都合上、行政単位、国単位にまとめることが多いが、異常気象は自然現象だから行政または政治的な地域区分とは関係ない。したがって、これでは、ほんとうはよくない。しかし、災害対策、避難予警報の発令・伝達・実行は行政単位で行わねばならないので、その目的に役立てるためには、最終的には行政単位で地域を把握しなければ意味がない。つまり、簡単な話ではない。

2014年初夏から盛夏へかけての複合異常気象

 日本の2014年の夏は5月末の猛暑から始まった。その異常高温の6月初めのクロ二クルは(表1)のとおりである。 

(表1)2014年5月末から6月初めの異常高温

日付気圧配置・大気の流れなど最高気温観測値、被害、生活影響など

5月27日中国付近から暖気が西日本から中央日本へ進入 
5月30日西日本を移動性高気圧となって覆う 
5月31日移動性高気圧の速度遅く20km/h 
6月1日異常高温猛暑日観測地点:館林36.3℃、岐阜揖斐川36.3℃、京都36.0℃、甲府・勝沼35.8℃、栃木佐野35.6、埼玉鳩山・秩父35.3℃、岡山高梁35.1℃。
熱中症:長野県、新潟県、広島県、京都府、山梨県、東京都など全国各地で発生。
エアコンなど2013年同期の2倍以上売れた。
6月3日異常高温連続 

(種々のデータから作表)


 この表から、最高が37℃には達しなかったが、6月の初旬としては36℃を越え、しかも全国各地に出現した。35℃以上(猛暑日)は全国927観測地点中27地点、30℃以上(真夏日)は404地点に及んだ。異常気象と言ってよいだろう。 

台風8号による異常気象と被害

台風8号による異常気象と被害

 気象庁は7月7日宮古島地方に暴風と波浪、沖縄本島地方に波浪の特別警報を出した。その時発表された予想図が(図1)(左)である。特別警報とは“異常気象や地震・津波・噴火で数十年に1度の災害が予想され、ただちに命を守る行動をとる必要があると気象庁が判断した場合”に発表される。まさに異常事態を気象庁は予想したと考えられる。


(図1)2014年台風8号の経路と発達の予想。
(左)7月7日21時時、(右上)8日21時、(右中)9日21時、(右下)10日21時。
(気象庁による予報円と暴風警戒域、朝日新聞による)

 (図1)の右側(上)は8日、(中)は9日、(下)は10日の実況および予想である。この4枚の図から言えることは以下のとおりである。 

(1)移動経路・速度・発達の程度(予想円、暴風警戒域など)の予想はかなり高い精度で適中し、テレビ・新聞・その他のメディアで伝わった。
(2)移動速度は非常に遅かった。
(3)西南日本から東北日本まで縦断する経路をとった。
(4)上記のような状態の台風が襲来する場合、台風が九州・本州・四国からまだ離れた位置にある時から、上空に南よりの気流が侵入し、日本列島上にある梅雨前線(停滞前線)に沿い非常に強い、多量の降水もたらす。その典型例で、しかも活動が活発であった。
(5)その結果、洪水・氾濫・土砂崩れ・斜面崩壊・地すべりなどの災害が日本各地で発生した。
(6)このような3日先までの精度の高い予報図は、警戒体制・避難・交通機関・インフラなどの態勢確立に役立った。一方では、警報発表・解除・その伝達などの問題点も明らかになり、さらなる整備・発展につながった。

 

(表2)2014年7月に襲来した台風8号のクロニクル

日付中心位置・気圧など時速降水・最大風速・波浪など

7日22時宮古島SSE290km,930hPa20km50m/sec
8日22時沖縄久米島NNW220km、945hPa25㎞九州天草227.5㎜/24時間
久米島・宮古島55m/sec
9日9時沖縄読谷村386.5㎜/24時間(観測1位)
9日22時長崎福江島SW150km, 970hPa最大風速30m/sec
10日鹿児島上陸、後、和歌山再上陸  
10日20時三重熊野ESE30㎞、990hPa最大風速25m/sec
10日22時宮崎えびの 337.5㎜ /24時間
10日22時徳島上勝 303㎜/24時間
10日22時新潟県佐渡 242㎜/24時間(観測1位)
11日6時30分岩手県花巻119㎜/24時間(7月の記録としては2003年来1位)
11日11時岩手県雫石・遠野134㎜/24時間

(種々のデータから作表)


 この(表2)からわかることは以下の事実である。 

(1)台風8号による日本における強風・豪雨地域は沖縄から東北地方までほぼ4日かかった。(図1)からわかったこととほぼ一致する。
(2)経路は(図1)に示されていた予報とほぼ同様であった。
(3)24時間雨量は過去の観測値で第1位の記録が多数発生した。
(4)(表2)には、山形県新幹線32本運休、土石流災害(9日6時、長野県南木曽町ほか)・死者(総計17名)、建物全壊・半壊、航空各社運休状況、停電などの台風による被害を省いた。別途述べたい。
(5)結論として、台風は毎年日本に襲来するが、2014年7月の台風8号は数々の異常気象をもたらしたと言ってよいと思う。

7月11日・12日の異常高温

 台風8号は11日、関東地方東の太平洋上に去った。その後に、台風が残した暖気があり、さらに、晴天で太陽放射によって地面付近の空気は暖められ、異常な高温が発生した。日本全国で、35℃以上(猛暑日)は20地点、30℃以上(真夏日)は351地点に達した。熱中症が全国的に発生した。14都道府県の合計174人に達した。宮城・岩手・秋田などの本州東北地方まで熱中症が出た。
 7月12日も高温は継続した。35℃以上は4地点、30℃以上は434地点に及んだ。関東平野の諸都市でヒートアイランドの影響も加わり36℃を越えた。
 結局、この高温の出現も異常気象と言わねばなるまい。5月末から6月を経て、7月中旬の初めまでの約50日間に、3異常気象が発生したことになる。複合異常気象の好例と言えよう。


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