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連載エッセイ [00]
異常気象時代のサバイバル
吉野正敏

 
新・連続エッセイ「異常気象時代のサバイバル」
異常気象時代

 夏は猛暑・酷暑、しかもそれが5月・6月から来る。秋は豪雨、しとやかな秋雨はもう昔のことか。冬は温暖化して暖かいかと思えば大雪・豪雪に見舞われる。春は強風・竜巻などなど、次から次と異常気象が発生する。それが半端ではない。多数の死者まで出るのだ。日本ばかりでなく、ヨーロッパやアメリカなどでも同様である。アジア諸国も例外でない。日本の産業は部品工場・生産工場・販売先をこのような外国に持っていて、成り立っているのだから、仮に日本の国内で異常気象が発生しなくても、地球上のどこかの地域で異常気象が発生すれば、日本の産業は手痛い損害を受けることになる。つい最近起こったタイの大水害などそのよい例である。
 “これまで経験したことがないような値”、あるいは、“観測開始以来、初めて(第1位)の記録的値”などは異常な値の一つの経験的な表現である。統計学的には標準偏差の±2倍を越えた値とか、極値理論的に導かれた値とか、何十年・何百年に1回発生する値とか、種々の“異常”の定義がある。とにかく、このような値が、しかも、気温・風・雨・雪・雷・霧など、いろいろな気象要素に起きるのが異常気象時代である。

サバイバル

 “成長の限界”というテーマで1972年スイスのヴィンタートゥールに本部を置くローマクラブが国際会議を開き、資源の有限性、人口の増加、急速な工業化、地球環境の悪化などのため、21世紀の世界は成長の限界に達すると指摘した。このメドウズ(D. H. Meadows)の「人類の危機」レポートは大来佐武郎によって訳(ダイヤモンド社、1972年)され、われわれがこの問題を考えるきっかけを作った。変化する環境を生き抜いて行くには、われわれはどう対処しなければならないか、このグループはその後も問題を追及し、数々の報告書をまとめている。21世紀をどう生き抜くか、どうしたらサバイバルできるかを考えている。
 一方、気候変化に関する国際会議が、世界気象機関(WMO)、国際学術連合(ICUS)などが共催して1961年ローマで開催された。さらにその10年後の1980年に第1回世界気候会議が開かれた。1990年には第2回世界気候会議が開催され、“気候変化に関する政府間会議”(Inter-governmental Panel for Climate Change, IPCC)が動き出した。なお、climate change は気候変化と訳し、climate fluctuation は気候変動と訳すのが気候学的には正しい。したがって、日本語でIPCCを“気候変動に関する政府間会議”と訳すのは間違いであり、同様に、例えば、“気候変動枠組み条約”と言うのも間違いと言わざるを得ない。残念ながら、30年ほど前の日本は、気候学ではすでに明確な違いを認識し、国際的にも認知されていた“気候変化”と“気候変動”の違いを認識できていなかった。
 それはともかく、異常気象時代の生存(サバイバル)の議論も、20世紀末までは活発な反応は起きなかった。言いかえれば、やっと21世紀の最近になって強い関心が払われるようになった。
 1990年代になって地球温暖化が進み、特に、90年代後半に温暖化の傾向が酷くなってきた。異常気象は21世紀になって頻発し、死者数も増加し、成長はもちろん、生存さえも脅かすようになった。
 この連続エッセイではこのような背景を考えつつ、日本に重点を置き、世界の人びとの“サバイバルには、どう対処しなければならないか”を述べたい。

この連続エッセイで取り上げる異常気象

 これまで、連続エッセイ「異常気象を追う」・「暮らしの中のバイオクリマ」のテーマでそれぞれ約50回掲載した中で、かなりの回数で異常気象に触れた。今回の連続エッセイも約50回を考えているが、それらの延長線上の議論が多い。詳しい内容はその時々に発生した異常気象を取り上げるので、現在の段階で構成・計画を述べるのは残念ながら困難である。しかし、順不同で上げるならば、次のような現象である。
 酷暑・猛暑と熱中症
 局地的な日最高気温の高温と熱波指数
 ヒートアイランドとその対策
 異常季節、開花・紅葉・黄葉・落葉の異常
 強風・竜巻の発生回数・強度
 夏の豪雨・落雷
 盛夏の雨季、停滞前線
 暖冬の豪雪、局地性と最深積雪深・短時間降雪量
 台風・洪水・局地的豪雨、山地崩壊・地すべり
 里山・中山間地域の気候変化による大型動物の活動・生息域などの変化
 渡り鳥の時期・経路・経由地
 取り上げる地域は日本のほか、ヨーロッパ・南北アメリカ、中国・韓国を主とする東アジア、東南アジア・南アジア・地中海沿岸地域など、可能な限り世界各地の実例に触れたい。
 異常気象の取り上げ方は次のようにしたい。サバイバルに関係する異常気象であるから、極端に異常な場合を取り上げることは言うまでもない。その取り上げ方はこれまでの連続エッセイと同じくなるべく数字で表にして示したい。読者によっては表から現象を読み取るより、文章を読む方がよい方もおられようが、表のほうが限られた紙面の中では多くの事柄を示せると筆者は考える。
 実例は可能な限り古い時代からとりたい。“過去は現在を解く鍵”といわれるが、異常気象の発生が現在進行中の地球温暖化の結果と考えられるので、温暖化以前の過去の状態を捉える必要があるためである。次に3例をあげたい。

極端異常気象の例

  第1の例はクロアチアのアドリア海岸の小さな港町セーニにおける古い写真である。現地の写真家が撮影した。強い北東のおろし風「ボラ」が吹いて、海岸の飛沫が凍結し、うず高くできあがった風景である。強い風は海岸線にほぼ直角に山から海に向かって吹くので、登下校の小学生が海に飛ばされたり、交通機関への重大な障害をもたらす。

(写真1)クロアチア海岸セーニにおける強いボラ吹き出しのあと(Ivan Stella 撮影)。
撮影日時は不詳だが1963年1月(近年の最寒冷月)のある日と推定される。

 (写真1)の撮影日時は不明だが、1963年1月と推定される。この時は北半球が非常に低温で、日本では“三八豪雪”が起こった。現地の人達はこのような風景は最近は見られないという。
 第2の例として、(写真2)に1902年の千葉県で発生した強風による山林の被害状況を示す。今から約110年前の森林災害の写真は貴重なので紹介しておきたい。撮影地点・日は非常に正確に記載されており、「山武郡源村大字極楽寺字原392番地の内東南部、明治35年9月28日暴風被害景況」とある。森林被害の状況ばかりでなく林業者の服装もわかる。小氷期の林木の被害状況のビジュアルな記録は、温暖化した現在を考えるのに役立ち林業のサバイバル考察を助ける。

(写真2)明治35年(1902年)9月28日千葉県山武郡の山林の暴風被害(猪野重之助 提供)

 第3の例を(写真3)に示す。今から45年前の1968年7月12日の西ドイツのボンの新聞(Bonner Rundschau)の記事である。新聞紙が変色してしまい読みにくいが、充分判読できる。風速は28m/secに達したという。日本ではこの値は日常的に出現し珍しくないが北西ヨーロッパの内陸部としては非常な強風である。この地域でも最近はさらに強い風速の竜巻などが発生しているが当時のドイツ人には想定出来なかったであろう。最近の異常強風を捉えるためにも古い記述が大切なことが理解出来よう。

(写真3)1968年6月11日、西ドイツのケルンを襲った竜巻の被害あと。死者2人、樹齢150年のシラカバが多数倒れ、1945年2月23日のデュッセルドルフ空襲(死者17,000人)以来の被害であった(Bonner Rundschauによる)

 このような資料を生かしながら、現在の地球温暖化のもとに発生した異常気象時代のサバイバルの問題を「連続エッセイ」で記述をしたい。


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