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連載エッセイ [09]
異常気象時代のサバイバル
吉野正敏

 
ポーランドのサバイバル
ポーランドの熱波の気候学

 西ヨーロッパと東ヨーロッパに挟まれたポーランドの位置は、時代によって政治的な影響を受ける方向が変わった。その変化の過程は、学問の立場からは戦禍とも呼ばれようが、学問の発展に大きなマイナス効果をもたらした。気候学の発展においても苦難の歴史をたどった。すぐれた気候学研究者が19世紀以来成果をあげたが、一生をこの苦難を味わわずに過ごした人はまれと言ってもよかろう。
 このような状況下で、最近の数十年は比較的安定してポーランドの気候学は発展している。コぺルニクスを生んだ土壌はきわめて豊かである。地球温暖化の研究も進んでいる。その成果の中から、今回は熱波に関連したサバイバルの話題を中心に紹介する。

ヨーロッパの熱波:ポーランドの背景

 21世紀末、北ヨーロッパは2.3〜5.3℃、東ヨーロッパは2.2〜5.1℃気温は上昇するだろうと2007年発表のIPPCレポートは言っている。実際、熱波は最近よく発生するようになっている。熱波による死亡率も高まっている。
 1994年7月末から8月初めの中央ヨーロッパ・ベネルックス諸国は熱波に襲われ、死亡率が急増した。この時、ポーランドでは死亡率は約64%増大した。サバイバルの観点からはゆゆしき問題である。翌1995年にはイギリスを中心に熱波が襲い、ロンドンでは5日間に渡り死亡率が平均23%増加した。死者は“85才以上の女性、低所得者、一人暮らし”の人が多く、このような状態にある女性全体の約33%であった。
 この傾向は2003年の熱波の時にも認められた。イタリアでは約1,000人の死者が出たがその57%が84才以上で、78%が女性であった。フランスでは1947年以来の暑さで、15,000〜20,000人が死亡したという。しかし、どうして、十数倍の差が生じたのか、今なお充分な解明はされていない。フランスでは、a)熱波は40℃の高温で、平年との差が大で異常性が深刻であった、b)生活文化の差で、イタリアより家族間の親密の度合いが弱く異常事態への対応力が弱かった。このようなことが指摘されているが、さらなる研究が必要であろう。
 ヨーロッパ全体では20,000〜35,000人が熱波により死亡した。そうして、定性的ではあるが、次のような事がまとめられた。すなわち、
(1) 女性が多い。
(2) 84〜85才以上の高齢者が多い。
(3) 死者はもともと重病人の場合が多い。
(4) 独り暮らしの場合が多い。
(5) 学歴がなく、低所得者が多い。
(6) 熱波から逃れるため居住環境(家屋・部屋・冷房など)を変えることができない状況下で生活している。
 これらは、いわゆる災害弱者で、熱波による死者に限った話ではなかろう。しかし、ヨーロッパにおける熱波による死者数の記録をまとめると、a)国・地域くらいの空間スケールで、生活文化の差が影響する、b)これまで発生しなかった高緯度地域でかえって熱波の影響が大きくなるなど、新しい課題が出てきた。特にこれらの背景が死亡率の大小にかかわるならば、定量的な詳しい解明が急務である。

熱波影響の知識

 1930年代、アメリカ合衆国のシカゴで、熱波が人体生理に及ぼす影響の研究が進んだ。それらの研究結果から、ポーランドの人たちは20世紀半ばには、脱水症状・極度の疲労・日射病をもたらすことを知っていた。そして、20世紀末には上記のようなヨーロッパ諸国の実態を学んでいた。ユーロ・ヒート・プロジェクト(EuroHEAT-Project)は1990年〜2004年のヨーロッパ9都市における熱波の影響についてまとめ、2010年に発表した。これも、大きな参考になった。
 首都ワルシャワにおける最近30年間の10年毎の熱波発生状況を(表1)に示す。

(表1)ワルシャワにおける熱波の発生回数*

期間 熱波(3日)
回数
 
熱波(5日)
回数
 

1981−1990年 3 7〜8 0
1991−2000年 11 6〜8 2 7〜8
2001−2010年 12 5〜8 4 7

*データは Kuchcik(2013)による

 この表からわかることは、a)30年間、最近になるほど熱波の回数は増えている。b)発生する月が昔は7〜8月だったが、最近は3日連続熱波が5月から発生するようになり、4ヶ月間も熱波の可能性があるようになった。c)5日連続熱波は昔はなかったが、最近は10年間に4回も発生した。
 以上のa)、b)、c)の傾向は、地球温暖化のため今後強化するであろうと考えられる。

モデルによる将来予測

 ポーランドの気候の将来予測を2種類のモデルで計算した結果を(図1)(上)(下)に示す。1971−1980年、1981−1990年。。。。。2091−2100年までの10年毎に、各5℃(図の右側にその範囲が色分けして示してある)の範囲の最高気温が何回発生するか頻度%(棒グラフ)で示した。
(図1)1971−1980年の10年から、2091−2100年の10年までの各10年のワルシャワにおける日最高気温の階級別(図の右側に示す)の発生頻度(%)を二つのモデル(上)(下)で計算した結果 (Kuchcik, 2013)。
(上)は、MPI-M-RMO-ECHAMS モデル、(下)はDMI-HIRHAMS-ARPEGE モデル。詳しくは文献を参照されたい。

 複雑な表現ではあるが、21世紀末までの推移をよく捉えている。例えば、(上)の図で、黄色(25〜30℃の日最高気温)は10年毎の統計で2051−2060年以降、非常に発生頻度の増加傾向が強い。約8%から10%への増加である。ダイダイ色(30〜35℃の日最高気温)も同じく増加傾向がみられるが頻度は1%から2%強への増加である。熱波発生の将来予測として、かなり詳しい情報である。
 (図1)(下)は別のモデルで計算した結果を示す。黄色(25〜30℃の日最高気温)はこの100年間に10%から12%へ緩やかに増加する。そして、ダイダイ色(30〜35℃の日最高気温)は約4%から8%にまで増加する。さらに、濃いエビ茶色(35〜40℃の日最高気温)は今世紀中に2%まで明瞭に増加する。
 (図1)(上)でも(下)でも共通しているが、水色(−5℃の寒い日最高気温)は今世紀初めの6〜7%から今世紀末の2〜3%へ減少する。言い換えれば、寒い冬の日が少なくなる。  これらは、僅かの差と思われるかも知れないが、例え1〜2%でも発生するかしないかはサバイバルにとって、決定的な条件となる。もちろん、よりよいモデルの構築・開発は必要である。

[文献] M. Kuchcik (2013) The attempt to validate the applicability of two climate models for the evaluation of heat wave related mortality in Warsaw in the 21st Century. Geographia Polonica, Vol. 86 (4), 295-311.


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