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連載エッセイ [17]
異常気象時代のサバイバル
吉野正敏

 
風車の歴史 ― オランダの例から ―
風車の歴史

 風車というとオランダ、オランダというと風車。。。。というイメージが日本人には強い。しかし、これは世界的には、かなり偏った地域認識である。確かにそのような時代はあったが、歴史的には近世のほんの一時代に過ぎない。地中海沿岸では、風車による風力の利用はギリシャ・ローマ時代にさかのぼる。古代すでにかなり発達した風車によって風エネルギーを利用していた。中国でも古代、風車の記述があるという。オランダだけを特色付けるものではないのである。
 このような風車の歴史は20年以上前に記述した(吉野、1989)。“火の昔”以来、水力・風力・蒸気力、さらには、原子力など、人類生存の歴史は新エネルギーの利用開発にあったといっても過言ではない。今、“原発は可か非か”議論されているが、まったく関係のない風力の利用を再考してみることは、サバイバルの観点からは回り道ではなかろう。

さまざまな風車

 排水用風車:
 風向に応じて頭部の向きを変えるようになっていて、底部は普通8角形である。風車のエネルギーで水かき車を廻す。水かき車の大きさは得られるエネルギーによって決定される。水かき車の大きさ(直径)は排水する水位差(排水する水量)を決定する。したがって、ポルダー(干拓地)の面積が広い場合、排水しなければならない水量は多くなり、たくさんの風車を林立させる結果となる。アムステルダム近くのキンダーダイクはその好例である。
 製粉用風車:
 おそらく、古代・中世以来、人類がもっとも利用した風力は製粉用の風車であろう。水車によってエネルギーを得られないところ、いいかえれば、広い平原とか、丘陵の上などで、小川もなく、たとえあっても、乾季には水が十分には流れないようなところでは風力を利用することが生活の条件であった。より高度な技術によるトウモロコシ・ムギの製粉量がその地域社会の人間のサバイバルの条件であった。イベリア半島から、南ヨーロッパの地中海沿岸を経てギリシャ・東欧諸国まで、および、北・北西ヨーロッパの北海沿岸に近い地方などがこの地域であった。数十年前までは現役であったものが多数あり、今日でも、使用しなくなって、放置されたものは各地にある。オランダもその1例である。

(写真1)オランダの丘陵地に見られる製粉用の“築山風車”
(1962年、アムステルダムの風車協会による)

 (写真1)はオランダの南東部の丘陵地域に見られる製粉用風車である。築山の上に立っているので“築山風車(Bergmolen)”とも呼ばれる。築山の部分には馬車とか、自動車とかが出入りでき、穀物を搬入したり、また、挽いた穀物を搬出したりする出入り口がある。その大きさで、風車の高さ、築山の規模が推定できよう。
 工業用風車:風力を工場で使用するエネルギー源としていた。およそ考えられる工業製品の製造工程すべてといって差し支えないほどである。ザーンダムにおける1850年頃の最盛期の集計では、総計1,165あった工業用風車の製品は、油204、米121、嗅ぎタバコ83、紙60、染材50、カカオ(家畜用)33、木綿・麻・果実それぞれ24、コショウ17、その他、10以下がそれぞれ染色・せっけん・ペーストガラス・カカオ・皮なめし・火薬・香料・飼料・セメント・グラインダー・石切り・石磨きなどであった。しかし、19世紀末には総計で174、品目は数種類に激減した。

(写真2)北オランダのザーンダムにおけるカラシ製造工場の風車
(1962年、アムステルダムの風車協会による)

 (写真2)はザーンダムにあるカラシ製造工場の屋根にのっているステージつき風車の例である。工場の大きさと風車を比較すれば、風車のおおよその大きさは推定できよう。一つの工場内では、風車で回転する歯車は、ちょうど自動車のクラッチを切り替えるように、目的に応じた歯車に切り替えられ、それぞれの工程の歯車が回転するようになっていた。そのからくりは驚くほどである。例えば、木工用の風車では、工場敷地の運河の岸に運んできた船から木材を吊り上げ工場内に搬入する過程、木材を製材・加工する工程、製材済みの木材を出荷する過程など、すべてに風力が歯車によって伝えられ、使用されていた。
 その他の風車:風車のタイプだけでも多数ある。時代とともに発展し、また、地域的にも特徴がある。例えば、布の帆を使った風車は地中海沿岸地方に多い、木製箱型の風車はヨーロッパ内陸部に多い、(写真1)のような立派なものはオランダなどの北海沿岸地方に多い。これは、それぞれの地域の経済的発展の歴史と風車の工学的発展の歴史との組み合わせの結果として理解できる。

オランダのポルダーの風車

 得られる風力エネルギーは気候的に地域ごとにほぼ決まっている。したがって、風車の構造によって利用可能なエネルギーの限界も決まってくる。地域的にたくさんのエネルギーを必要とする場合は風車をたくさん建てるほかない。
 オランダ海岸地帯の干拓事業は、低湿地を干拓する悲願の反映でもあった。『神は人をつくり、人は土地をつくる』とこの地方では昔から言われてきた。海岸堤防を築いても、冬の強いアイスランド低気圧の風波で壊される。夏用の堤防、冬用の堤防が幾重にも海岸の放牧地を守る。。。。壊される。。。。造り直す。その繰り返しの歴史であった。
 オランダでは干拓事業は国がやるのではなく個人が行うことになっていた。オランダは海外の植民地からの貿易で蓄積した富が豊富であった時代と、風力利用による排水用風車の構造・能力が頂点に達した時代が一致したために、オランダ海岸のポルダーに風車が林立する結果になったのである。
 しかも、この時代の風車は風力エネルギーを獲得したその地点で利用・消費した点を認識すべきである。タービンを廻し、電力に変換し、送電し、遠隔地でエネルギーとして蓄積・消費するという今日の利用方法とは根本的に異なる。筆者はこの利用形態の差が風車の歴史、風力利用の歴史一つの画期と思っている。

風力利用とサバイバル

 日本のように発送電の問題が複雑な地域は、独自の利用方法を開拓しないと、自然エネルギーの一つをただ開拓・利用するという諸外国の方法を参考にしていても不十分であろう。サバイバルに役立てる独自の結果を期待する。
文献:吉野正敏 1989 風の世界、東京大学出版会、224ページ


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