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連載エッセイ [35]
異常気象時代のサバイバル
吉野正敏

 
アメリカの異常気象とサバイバル
サバイバル:アメリカ合衆国の場合

 アメリカ合衆国における異常気象とそれによる大被害は、最近では、メディアを通じて日本にもよく伝わっている。合衆国南部や東部を襲うハリケーンによる強風・豪雨・洪水・高潮などの災害、中西部における竜巻・乾燥・旱魃などの被害、北東部における冬の寒波・ブリザード、強風雪などによる交通や除雪問題など、この連続エッセイでも何回か取り上げてきた。
 アメリカではナショナルジオグラフィック(National Geographic)協会が1888年に設立され、機関誌としてナショナルジオグラフィックという写真をふんだんに取り入れた美しい雑誌が刊行されている。日本語版は1995年4月以来発行されており、一般の読者も多いだろうと思う。関連した出版事業の一つとして、「異常気象サバイバル術」という本が最近刊行された(コスティジェン、2015)。この本はきわめて多数の編集協力者によって検討され完成したものなので、いわばアメリカ社会におけるサバイバル術の現状の総括と捉えてよかろう。
 今回の連続エッセイ[35]ではこの本をアメリカ合衆国における現状とし、日本の場合と比較してみたい。面積・緯度・地形スケールなどにおいて、また、人口数・人種の多様性など、住んでいる人びとの生活・文化において、アメリカ合衆国と日本では非常に異なる。このことは、別の面から見れば、日本のわれわれのサバイバルの特色をより深く捉えることに役立つと思う。

対象となる異常気象

 まず異常気象の項目を検討してみよう。この本の構成から推察すると、アメリカ合衆国における異常気象の重要性は(表1)の左列とされよう。もっとも、異常気象の重要性は何で決まるのか、はっきりした基準はない。経済的な損害額か、死者数か、被害者数か、影響を受けた人数か、気象観測値の記録的値か、影響を受ける地域の面積か、影響を受ける産業の種類数か、被害を受けた住宅の戸数か、保険金額かなど、さまざまの対象・項目がある。個々の被害結果は質・単位がそれぞれ異なるのだから足し算することができない。また、都市と農村でも対象や基準は異なるであろう。平野部と山間部でも違うであろう。結局、国単位で異常気象の重要性の順位は主観的にしか決められない。
 (表1)の左の列はアメリカ合衆国、右の列は日本における私が考える重要性1位からの順位別の対象である。

(表1)サバイバルにかかわる異常気象の重要性の順位と対象について、アメリカと日本の比較

順位 対象

アメリカ* 日本**

1 猛暑
1.1 雷雨 1.1 気温上昇
1.2 洪水 1.2 熱波
1.3 ハリケーン 1.3 暖候季
1.4 竜巻  

2 乾燥 低温と雪
2.1 旱魃 2.1 寒波
2.2 山火事 2.2 降雪とふぶき
  2.3 積雪量・根雪期間

3 猛暑
3.1 気温上昇 3.1 台風
3.2 熱波 3.2 強風
  3.3 突風・竜巻

4 寒さ・雪
4.1 寒波 4.1 短時間降雨
4.2 ブリザード 4.2 雨季(梅雨)
  4.3 豪雨
  4.4 洪水

5 乾燥
  5.1 旱魃・無降水日数
  5.2 火災

*コスティジェン(2015)による。
**吉野による。

 この表に見られる最も大きな差は、アメリカ合衆国では風がまとまって対象になっていないことである。これはやはり台風による災害は日本では大きいので異常気象として見逃せないためである。対照的にアメリカ合衆国では乾燥の異常気象が重要だが、日本では5番目となる。
 日本では熱帯低気圧の台風の襲来、夏の暑さと冬の寒さ、冬の降雪量・積雪量が異常気象の重要性の度合いが強い。日本では豪雨・洪水の異常気象は狭い国土の中でさらに局地的である。アメリカでは雷雨・洪水が第1番というのと対照的である。

間髪を入れぬサバイバル術

 次に、サバイバルの内容・方法・考え方を紹介しておきたい。アメリカ合衆国における第1位が雨というのは、気象学的には、適切な表現でない。この第1位に入っている気象要素のうち、短時間雨量は異常に発達した雷雲(雷雨現象)の状態を示す一つの要素だが、放電・落雷・突風なども異常気象の重要な要素と考えられる。サバイバル術もより詳しく明らかにされている。また、ハリケーンが雨に分類されるのも、日本ではあてはまらない。日本では雨台風・風台風という分類・認識があるように雨量よりも風速に異常気象の特徴が強い場合がある。アメリカ合衆国では強い大きな竜巻の規模、発生数、瞬間最大風速などが異常気象の要素と考えられる。しかし、雨に分類されるのは適当でないように思う。
 しかしながら、順位1に含まれる異常気象をよく考えると、現象が発生してから人間の生死(サバイバル)に至る時間が短いものが多く、サバイバル術は「個人がどう行動すべきか」という観点でアメリカ合衆国では詳しくまとめられている。地域社会のサバイバルの論述が無い。雷雨ではなく雷電現象一般、竜巻も風の特徴の精確な把握を可能な限り敏速に行なうことがサバイバル術の最大の要点と捉える立場で本をまとめてある。地域の総被害額・面積・人口の問題よりも、個人個人が生き残ることが重要というサバイバルの基本原則によっている点、アメリカ合衆国におけるサバイバルにかかわる異常気象の重要性の順位付けは(表1)の左列のようになるのであろう。この点で極めてよい参考になる。
 洪水は大河川と中小河川で異常気象がサバイバルに及ぼす影響は非常に異なる。場合によっては瞬時に流される。サバイバルに至る時間の考慮が重要である点を参考にしたい。
 乾燥・猛暑・寒冷・雪は時間的に多少のゆとりがある。アメリカ合衆国では降雪・積雪・吹雪は順位としては下部にくる。日本より順位は低い。

アメリカ合衆国におけるサバイバル

 結局、アメリカ合衆国におけるサバイバルは個々の人間が生き残ることをより強く意識している。個人かせいぜい家族単位で異常気象災害を乗り切り、生き残ることを目指す。これには現象発生からなるべく早く、場合によっては間髪を入れず対処しなければならない。一方、日本の場合は都道府県から市町村のスケールの地域社会、職場社会・同業者社会などが生き延びることを強く意識している。当然、現象発生からサバイバルの目標達成には時間がかかる。異常気象の重要性の順位もアメリカ合衆国と違ってくる。  

[文献]
コスティジェン、T. M. (2015): 世界のどこでも生き残る異常気象サバイバル術。日経ナショナルジオグラフィック社、東京、383ページ[Thomas M. Kostigen(2014); Extreme Weather Survival Guideの日本語訳]


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