| 鶴(たづ)
| 
雪裡川のタンチョウの塒(ねぐら)
|
寒い冬が近づくと、日本の北と南から、ツルの便りが届きます。北は釧路周辺のタンチョウの話題、そして、南は九州の出水や、山口県の八代などに集まるツルの話題です。ツルは古来から日本人に馴染みの深い鳥です。「鶴は千年、亀は万年」といいますが、動物園で40年近く生きたタンチョウの記録はあるものの、野外での寿命はせいぜい20〜30年程度といわれています。
若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして 鶴鳴き渡る
(山部赤人 万葉集 巻六 九一九)
和歌の浦に潮が満ちて来ると干潟が無くなるので、葦のほとりを目ざして鶴の群れが鳴き渡ることよ。
万葉集には、ツル類の古名である「たづ」が使われた歌が46首あります。そのうち「鶴」の文字を使っているのは21首で、残りは「多豆」「多頭」「多津」「多都」などの文字が使われています。なおこの時代、「たづ」と呼ばれるものには、コウノトリやハクチョウなどの白い大きな水鳥も含まれていたようです。
ツルは全国で越冬していたようですが、室町時代まではあまり細かく区別はせず、“くろづる”、“しろづる”、“まなづる“という名前が見られるのみでした。江戸時代に入ると、5種類(タンチョウ、ナベヅル、ソデグロヅル、マナヅル、アネハヅル)に区別されるようになります。江戸時代にはタンチョウや、今では稀に渡来するのみのソデグロヅルやアネハヅルも、全国で見られていたようです。
ツルは雑食性で、植物の新芽や葉、種子、根茎、穀類などのほか、昆虫や魚類、甲殻類やカエルなど、様々な水辺の動物を食べます。日本の他の地域に来なくなった理由としては、冬の餌となる水田の落ち穂や根茎が減った事とともに、ねぐらとなる安全な水辺が減少したこともあるようです。
|
タンチョウの夫婦 |

カナダヅル(左1羽)、マナヅル(右2羽)
|
世界には、4属15種類のツルが生息しています。そのうち、日本で見られるのは7種類です(タンチョウ、ナベヅル、マナヅル、クロヅル、ソデグロヅル、カナダヅル、アネハヅル)。日本で数が最も多いのはナベヅルで、出水では2005年冬に、なんと1万羽以上も確認されています。次いで数が多いのがマナヅルで、出水では例年2〜3千羽前後が飛来します。そして次に多いのがタンチョウで、北海道では冬に860羽(2004年12月)の生息が確認されています。 |
タンチョウ以外のツルは、ロシアや中国北東部の湿原で繁殖し、越冬のために朝鮮半島を経由して日本に渡ってきます。10月中旬〜12月末に越冬のために渡来し、北帰行は2月中旬頃から4月上旬まで続きます。
近年、ツルに発信器を取り付け、その移動経路を衛星で追跡することで、どこで繁殖し、どこを経由して渡りをしているのか少しずつ明らかになってきました。そして、今まで観察できなかった地域の調査も可能になりました。その一つの成果として、それまで研究者が立ち入れなかった朝鮮半島の非武装地帯の湿地帯が、渡りの中継地として重要な場所であることが確認されています。
マナヅルとナベヅルの群れ |
日本へのツルの渡来数は年々増えています。しかし喜んでばかりはいられず、その裏で色々な問題が生じています。
まず、東アジアでツルの個体数が増えているのではなく、他の越冬地が減少しているために、日本への集中が起きている可能性があることです。また、渡りの中継地の湿地も減少傾向にあり、そのままにしておくと、日本に辿り着くルート自体が寸断されてしまうかもしれません。そして繁殖場所の調査や保全も、なかなか進まない現状にあります。
さらに、密集して越冬しているツルの群れで、例えば病気が蔓延したらどうなるでしょう? 集中しているということは、非常に危険な状態なのです。
北海道のタンチョウには、別の問題も生じています。個体数の増加は800〜900羽前後で頭打ちになっていますが、個体数は増えても繁殖できる湿地は増えていないために、繁殖地の過密化という問題が起きているのです。
ツルは日本人に愛され親しまれ、手厚く保護されてきました。しかし、日本国内だけではなく世界の国々と共に、まだまだやらなくてはならないことが沢山あります。
|