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生きもの歳時記 万葉の生きものたち


都鳥(みやこどり)


ユリカモメの群飛

  「都鳥(みやこどり)」と聞くと、鳥を知っている方なら、「本当のミヤコドリか、ユリカモメか?」と考え、古典の知識のある方でしたら「ああ、ユリカモメの事だろう。」と思うでしょう。
伊勢物語では「都鳥」のことを「白き鳥の嘴と脚と赤き、しぎの大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。」と説明していて、大きさや体の特徴、水面を泳ぎながら魚を食べている事などから、この鳥はユリカモメと推定されています。ちなみに、「都鳥=都の鳥」ということから、ユリカモメが1965年に東京都の鳥に指定されています(混乱を助長している気もしますが・・・)。

名にしおわば いざ事問はむ 都鳥 わが想う人は 在りや亡しやと

(在原業平 伊勢物語 第九段)

都という名を背に負っているならば、いざ質問しよう都鳥、「私が思う人はそこに健在でいるのかどうか。」と。

“本物”のミヤコドリ(左)とユリカモメ冬羽(右)

 ところが、江戸時代より前の「都鳥」は、特徴からカモメ科のユリカモメを指している事もあれば、ミヤコドリ科のミヤコドリを指しているものもあり、どちらなのか判らない場合の方が多いのです。

舟競ふ 堀江の川の 水際に 来居つつ鳴くは 都鳥かも

(大伴家持 万葉集 巻二十 四四六二)

たくさんの船が行き交う、堀江川の水際にやってきて鳴いているのは、みやこどりなのでしょうか。

 万葉集に出てくるこの「都鳥」も、ミヤコドリである可能性があります。この歌と同時に詠まれた歌がホトトギスの初鳴きを題材にしていることと(初鳴きは5月中旬頃)、水際に降りて鳴いているという仕草からです(ちなみに堀江は、今は埋め立てられて内陸ですが、当時は海辺に近い河港でした)。もちろん、ユリカモメが5月まで残り川辺で鳴くこともありえますが、どちらとしても決め手になるものはありません。

 どちらの話をすればいいか少し悩みましたが、公平にミヤコドリとユリカモメの両方を紹介しましょう。

 ミヤコドリ科は、全世界に11種(絶滅種含む)いて、世界中の海岸地帯に生息する中型の水鳥です。その特徴はほぼ共通して、赤い嘴と足と眼、そして黒い顔です。体の模様は白黒のツートンカラーが基本で、全身が真っ黒な種もいます。日本にはそのうちの一種が、カムチャッカ半島などから越冬のためにやってきます。


水辺で採餌するミヤコドリの群れ
英名は「Oystercatcher」といいますが、その名の通りカキ(Oyster)などの二枚貝に、長くて縦に薄い丈夫な嘴を差し込み、嘴の先で貝柱を切り裂いて中身を食べます。嘴は殻を叩いて割ったり、岩場に貼りついた貝をそぎ落とすためにタガネのように使うこともあり、とても丈夫です。ヨーロッパでは二枚貝を食べる割合が多く、日本ではカニやエビ、ゴカイなどもよく食べます。

 その昔は全国に冬鳥として渡来していたと考えられていますが、今では福岡や東京湾などに定期的に群れが越冬にくる以外はとても稀な冬鳥です。なぜ全国的に減ったのかは判っていませんが、海岸や砂浜、干潟から二枚貝が減少したことが関係しているのでしょうか。

 ユリカモメは、カムチャッカ半島やユーラシア大陸の中緯度地方で、水辺の草地に数百〜数千単位のコロニー(集団営巣地)を作って繁殖し、日本には冬鳥として渡来します。

 雑食性でゴミも含めて何でも食べますが、その採食方法は実に多彩です。干潟ではゴカイや甲殻類、魚や貝の死体などをついばむほか、シギ・チドリ類などが泥中から引っ張り出した餌を横取りすることもあります。そして飛びながら水面近くの小魚を捕えることもあります。空中に投げたパンをフライングキャッチする光景をよく見ますが、繁殖地では飛びまわる昆虫を器用に空中で捕まえるそうですので、パンを空中でくわえるのは造作もないことなのでしょう。

浅瀬で休息するユリカモメ


空中から餌を探すユリカモメ
 数十年前までは海辺や河口に多く大きな河川の中流域までしか見られませんでしたが、最近は川をどんどん遡りかなり上流でも見られるようになりました。都市河川でも餌をやる人が増えたために数を増やしています。早朝に上流に向かって餌を漁りながら群れで移動し、途中の広い水面や堰で休息したのち、午後には下流へ向かって戻っていくという行動を毎日繰り返します。ねぐらは海上にとることが多く、まるでそこから毎日通勤しているかのようです。

 しかし、ここまで姿形も食べている餌も違う鳥を、大昔の人はなぜどちらも「都鳥」と呼んでいたのでしょう? ユリカモメの夏羽であれば、頭が黒くて嘴も赤く、脚も赤いという共通点はありますが、並べてみれば似ても似つかない鳥です。

 「都鳥」の語源も諸説ありますが、いずれも説得力が弱く、そもそも京都と結びつく根拠も乏しいようです。いまは京都の鴨川に沢山群れていますが、1974年以前にはユリカモメは京都にいませんでした。伊勢物語もよく読むと、「(京)都では見かけない鳥」と記述されていますから、都にいる鳥、ということから付いた名前ではないようです。なお、ミヤコドリ科のミヤコドリについては、どうやら江戸時代の学者が命名したものが、そのまま標準和名に採用されてしまったという説があるようです。

ユリカモメ 夏羽

 これは余談ですが、貝類にも「ミヤコドリ」という和名のものがいます。直径1cm程度の小さな貝で河口干潟の石の裏側などに貼りついています。小さい上に特殊な場所にしかいませんから、ミヤコドリがミヤコドリを食べてしまう可能性は多分ないと思いますが・・・。


■参考文献
石川勉 (1993) 東京湾の渡り鳥 晶文社.
川内博 (1997) 大都会を生きる野鳥たち 都市鳥が語る ヒト・街・緑・水 地人書館.
唐沢孝一 (1987) マン・ウォッチする都市の鳥たち 草思社.
唐沢孝一・藪内正幸 (1992) 都市鳥ウォッチング 講談社.
中村登流・中村雅弘 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑(水鳥編) 保育社.
松田道生 (2003) 大江戸花鳥風月名所めぐり 平凡社.
菅原浩・柿沢亮三 (1993) 図説日本鳥名由来辞典 柏書房.
佐竹ら校注 (2003) 新日本古典文学大系4 萬葉集四 岩波書店.

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