梅は我々にとってなじみ深い花であるのと同様、いえ、それ以上に万葉の人々にとって思い入れの深い花であったようです。実際、万葉集には梅に関する歌が119首も詠まれています。これほどなじみ深い梅ですが、実は日本原産ではなく中国中部原産の移入種です。遣唐使によりもたらされたという説が最も有力ですが、弥生時代の遺跡から梅の種子が見つかっていることからイネと一緒に渡来したという説もあります。また、九州に元々自生していたという説もあるようですが、現在各地で栽培されている梅は中国からの移入種であるとするのが正しいようです。
梅の名所といえば、太宰府天満宮、北野天満宮、湯島天神など各地の天神様が有名です。また、各社の社紋も太宰府天満宮は「梅紋」、北野天満宮は「星梅鉢」、湯島天神が「梅鉢」ですべて梅にちなむものです。これは天満宮にまつられている天神様(菅原道真公)の梅好きに由来するようです。
東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな
(拾遺和歌集 巻十六 雑春)
もし東風が吹いたならば、筑紫にいる私に、風に託して匂いを送って寄こせ、梅の花よ。たとえ家の主人がいなくなったとしても花の咲く春を忘れるな。
主を失った梅の木は、道真公を慕い一夜のうちに京都から太宰府に飛来したという伝説です。太宰府に現存する飛梅は伝説と花の色こそ異なり白梅ですが、今も訪れる人が絶えません。
万葉の昔、人々の春を待ちわびる心は現在よりも大層強いものでした。万葉集には梅の開花と共に春を愛でる歌が多く詠まれています。
年のはに 春の来たらば かくしこそ 梅をかざして 楽しく飲まめ
(大令史野氏宿奈麻呂 万葉集 巻五 八三三)
年ごとに春がやってきたら、こうして梅を髪に挿して、楽しく飲みましょう。
梅の花 今盛りなり 百鳥の 声の恋しき 春来たるらし
(小令史田氏肥人 万葉集 巻五 八三四)
梅の花が今を盛りと咲いています。いろいろな鳥の声の恋しい春が来たのですね。