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生きもの歳時記

万葉の生きものたち / 春の植物

椎(しい)

 皆さんはシイの木と言われて、どのような木だかピンとくるでしょうか?名前は知っているけれどもどんな木だか、どんな葉をしているのか、どんな実をつけるのか全くわからないという方がほとんどではないでしょうか。それほどに目立たないシイですが、万葉の人々は非常に鋭敏な感覚でシイの木を捉え、幾首かの歌を残しています。


5月はシイの花で山がクリーム色になります

 日本にはブナ科シイ属に属する種はツブラジイ(コジイ)とスダジイ(イタジイ)が知られています。ツブラジイは関東以西、スダジイは福島県および佐渡島以南に分布します。  いずれの種も常緑性(じょうりょくせい)(一年中緑色の葉をつけている)で、大きなものは高さ25m、直径1.5mにもなります。葉は厚くて、縁が滑らかで、裏面は毛が密生するため金色に見えます。


5月はシイの花で山がクリーム色になります

 果実はいわゆる「どんぐり」ですが、殻斗(かくと)と呼ばれる部分が帽子状ではなく、果実の全体を包みます。果実はアクがなく、食べることができます。

(いへ)にあれば ()に盛る(いひ)を 草まくら 旅にしあれば (しひ)の葉に盛る

(有間皇子 万葉集 巻二 一四二)

家にあれば器に盛るべき飯を、旅の中にあるので、椎の葉に盛ることよ。

片岡の この(むか)()に (しひ)()かば 今年の夏の 陰にならむか

(作者不詳 万葉集 巻七 一〇九九)

片岡のこの向こうの峯に椎を蒔いたならば、今年の夏は木陰になるだろうか。


やんばる(沖縄)のシイの原生林

 シイの木はもちろん種を蒔いたその年の内に、木陰を作るほど成長の早い木ではありません。しかし、万葉の人々にとって、如何にシイの木が馴染みのある種であったかは伝わってきます。  それほどに馴染み深かったシイの木ですが、現在はずいぶんと目立たない存在に成り果てています。その一因は、かつてはシイの木が優占していた林が伐採を受け、シイの木が少ない落葉樹林になってしまったことが考えられます。


やんばる(沖縄)のシイの原生林

鎮守の森(社寺林)

 とはいえ、シイ林の残っている場所は身近なところにあります。そのひとつが鎮守(ちんじゅ)の森とも呼ばれる社寺林です。歌の中の片岡(現在の奈良県北葛城郡王寺町から香芝市にかけての丘陵地帯)でも、シイ林は志(し)都(ず)美(み)神社の社寺林に残っています。  これからシイの木は新緑の季節を迎えます。落葉樹とは一味違った美しさの芽吹きをぜひ探してみてください。社寺林にはきっとシイの木が残っているはずです。

 そうして運良くシイの木を見つけたなら、秋になったらもう一度出かけてみてください。シイの木はたくさんの実を落としているでしょう。


鎮守の森(社寺林)

■参考文献
沼田眞・岩瀬徹 (2002) 図説日本の植生 講談社.
北村四郎・村田源 (1979) 原色日本植物図鑑 木本編[Ⅱ] 保育社.
佐竹ら校注 (1999) 新日本古典文学大系1 萬葉集一 岩波書店.
佐竹ら校注 (2000) 新日本古典文学大系2 萬葉集二 岩波書店.
中西進編 (1985) 万葉集辞典 万葉集 全訳注原文付 別巻 講談社.


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