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生きもの歳時記

万葉の生きものたち / 冬の植物

梅(うめ)

 梅は我々にとってなじみ深い花であるのと同様、いえ、それ以上に万葉の人々にとって思い入れの深い花であったようです。実際、万葉集には梅に関する歌が119首も詠まれています。これほどなじみ深い梅ですが、実は日本原産ではなく中国中部原産の移入種です。遣唐使により紅梅、白梅もたらされたという説が最も有力ですが、弥生時代の遺跡から梅の種子が見つかっていることからイネと一緒に渡来したという説もあります。また、九州に元々自生していたという説もあるようですが、現在各地で栽培されている梅は中国からの移入種であるとするのが正しいようです。


紅梅、白梅

 梅は、バラ科サクラ属スモモ亜属に属する落葉高木です。スモモ亜属は果実に縦方向の深い溝があるという特徴によってサクラ亜属と分類されています。梅の実とサクラ亜属であるサクランボの実を比較すると違いがよく分かります。
 花は2~3月、新葉の展開前に咲き、主に観賞用に栽培されるほか、果実は梅干しや梅酒などの食用、烏梅(健胃・
下痢止め)として薬用に利用されます。また、材は器物・櫛・そろばんの珠などに、皮は染料として用いられます。
 梅の名所といえば、太宰府天満宮、北野天満宮、湯島天神など各地の天神様が有名です。また、各社の社紋も太宰府天満宮は「梅紋」、北野天満宮は「星梅鉢」、湯島天神が「梅鉢」ですべて梅にちなむものです。これは天満宮にまつられている天神様(菅原道真公)の梅好きに由来するようです。


紅梅、白梅

「梅紋」

「星梅鉢」

「梅鉢(加賀梅鉢)」

 天神様と梅といえば飛梅(とびうめ)伝説がよく知られています。道真公が無実の罪で太宰府に流される際、愛でていた紅梅との別れを惜しみ、こう詠みました。

東風(こち)吹かば にほひおこせよ 梅の花 (あるじ)なしとて 春を忘るな

(拾遺和歌集 巻十六 雑春)

もし東風が吹いたならば、筑紫にいる私に、風に託して匂いを送って寄こせ、梅の花よ。たとえ家の主人がいなくなったとしても花の咲く春を忘れるな。

 主を失った梅の木は、道真公を慕い一夜のうちに京都から太宰府に飛来したという伝説です。太宰府に現存する飛梅は伝説と花の色こそ異なり白梅ですが、今も訪れる人が絶えません。
 万葉の昔、人々の春を待ちわびる心は現在よりも大層強いものでした。万葉集には梅の開花と共に春を愛でる歌が多く詠まれています。

年のはに 春の来たらば かくしこそ 梅をかざして 楽しく飲まめ

(大令史野氏宿奈麻呂 万葉集 巻五 八三三)

年ごとに春がやってきたら、こうして梅を髪に()して、楽しく飲みましょう。

梅の花 今盛りなり 百鳥(ももとり)の 声の(こほ)しき 春来たるらし

(小令史田氏肥人 万葉集 巻五 八三四)

梅の花が今を盛りと咲いています。いろいろな鳥の声の恋しい春が来たのですね。


紅梅近景

いずれの歌も長い冬が終わり、梅の開花に春の訪れを感じる喜びに満ちあふれています。それにしても花が咲くとお酒を飲みたくなるのは今も昔も変わらないようですね。皆さんも梅を愛でながら一献傾けてみては?もっとも、暖かさに慣れた現代の私たちには梅の咲く頃はまだまだ熱燗が恋しい季節ですが。


紅梅近景

■参考文献
佐竹ら校注 (1999) 新日本古典文学大系1 萬葉集一 岩波書店.
木村陽二郎 (1991) 図説植物草木名彙辞典 柏書房.
石井英美ほか (1989) 山系ハンディ図鑑3樹に咲く花 離弁花1 山と渓谷社.
小町谷照彦校注 (1990) 新日本古典文学大系7 拾遺和歌集 岩波書店.


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