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生きもの歳時記

万葉の生きものたち / 秋の動物

鮪(まぐろ)


黄色く長い背鰭が鮮やかなキハダ

 マグロ類は分類学的にはサバ科に属し、広く言えばサバやカツオなどの仲間になります。沿岸から外洋まで大海原を広範囲に回遊することから、高度回遊性魚種とも言われます。現在地球上のマグロ類は、クロマグロ、ミナミマグロ、ビンナガ、メバチ、キハダ、コシナガ及びタイセイヨウマグロの7種に分けられています。機会がありましたらスーパーマーケット、魚屋そして寿司屋などで注意してみてみて下さい。既に切り身の状態でしょうが、これらのうち幾つかはみつけられるのではないでしょうか。今日では、世界中の様々な所からいろいろなマグロが日本に持ち込まれ消費されています。


黄色く長い背鰭が鮮やかなキハダ

長い胸鰭がトンボのようなビンナガ

南半球に棲むミナミマグロ(冷凍)

 縄文時代、人々が食用としていた貝殻などを捨て、やがてそれらが堆積してできた貝塚から、希ですがマグロの骨が発見されることがあるそうです。マグロというと、とても大きくなり沖にいる魚というイメージがありますが、その頃の船や釣り針などの道具でどうやって捕まえたのでしょう。はっきりとしたことは分かりませんが、自然が豊かであった当時、マグロは餌を追い求め、時には歯クジラなどの天敵に追われ、岸近くの浅場まで現れることがきっと多かったのでしょう。

 マグロは古くはシビと呼ばれ、万葉集の中にもみることが出来ます。

やすみしし 我がおほきみの かむながら たからせる なみの 大海おふみの原の あらたへの 藤井の浦に しび釣ると 海人あま船騒ぎ 塩焼くと 人そさはにある 浦を良み うべも釣はす 浜を良み うべも塩焼く あり通ひ さくもしるし 清き白浜

(山部赤人 万葉集 巻六 九三八)

わが大君が神として立派にお治めになる印南野の大海の原の、藤井の浦に、鮪を釣ろうとして漁師の舟はせわしなく動きみだれ、塩を焼こうとして人が満ちている。浦が豊かなので釣りをするのももっともなこと、浜がよいので塩を焼くのももっともなこと。たびたび通われご覧になるわけもはっきりしている。この清い白浜よ。

しび突くと 海人のともせる いざり火の ほにか出でなむ 我が下思したもひを

(大伴家持 万葉集 巻十九 四二一八)

鮪を突くとて海人が灯している漁り火のように、表に出してしまおうか、私の秘めた心を。

 マグロを釣りや銛で突いて獲っていた様子がうかがえます。ここでみられる「藤井の浦」とは、現在の兵庫県明石市の播磨灘に面した海岸のことです。

 ところが、今日ではちょっと考えられないようなことですが、「シビ」という呼称は「死日」という言葉を思い起こさせ不吉だ、縁起が悪いということであまり食べられなかった時代もあったそうです。一方、シビとよく似ていて同時に漁獲されることも多かったカツオは、「勝つうお」として験(げん)がいいとされ、特に鎌倉時代以降、武士達に珍重されたそうで、その扱いは天と地ほども違っていたようです。ものの名前は大切だ、といういい例かもしれません。


漁獲されると長い上顎は切り落とされる カジキ

 トローリング釣りの対象魚として人気があり、時々テレビでも取り上げられるカジキ類。針掛かりしてから海面で繰り返される豪快なジャンプ、派手なファイトが釣り人のみならず見る人を熱くさせます。これらカジキ類のことも「カジキマグロ」と呼ぶことがあります。まるでマグロの仲間みたいですよね。

 どちらも大型の回遊魚で外洋を回遊し、同じ漁法で漁獲され、肉質まで似ていることからこのように呼ばれ、扱われてきたようです。しかし、分類上ではカジキ類はマカジキ科とメカジキ科に含まれ、特にマグロに近い魚というわけではありません。確かにカジキは見た目も上顎がくちばしのように長く伸び、体形も細長く、あまり似ていません・・・。


漁獲されると長い上顎は切り落とされる カジキ

 マグロとカジキ、どちらも種類によっては体長数m、重さ数百kgにもなり、海の生態系の高位に君臨する巨漢ですが、生まれた時は非常に小さくその卵はせいぜい直径1mm前後、孵化した仔魚も3mm程のか弱く小さなもので、海中をふわふわと漂っています。

マグロ(左)とカジキ(右)の孵化数日後の仔魚 この見た目から親の姿は想像できませんね・・・

 しかし産卵数は多く、例えば体重270kg程のクロマグロで一産卵シーズンに1,000万粒産卵するとされています。これが順調に成長を続けると、クロマグロは1歳で約0.5m・3kg、3歳で約1m・21kg・・・、13歳で約2.4m、260kgに、クロカジキだと1歳で約0.8m、3歳で約2.1m・・・、8歳(雌)で4m程度までになるそうです。もちろん、大きくなるまで生き残っていられる個体はごくごく一部のものだけです、生存競争はたいへんなんです。

■参考文献
小野征一郎 編著 (2004) マグロの科学 その生産から消費まで 成山堂書店.
大森 徹 (1993) まぐろ随談 成山堂書店.
佐竹ら校注 (2000) 新日本古典文学大系2 萬葉集二 岩波書店.
佐竹ら校注 (2003) 新日本古典文学大系4 萬葉集四 岩波書店.


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