生きもの歳時記
万葉の生きものたち / 秋の動物
鳰鳥(におとり)
カイツブリの番い
そろそろ北国からカモが訪れ、寂しかった水面が賑やかになり始める季節です。
群れで水面を泳ぎ回るカモ類の隙間に、時々現れてはさっと消えてしまう、小さなカイツブリの姿も見られます。いつの間にか現れ、気がつくと消えて、別のところにまた現れ、まるで忍者のように群れの隙間に出没します。潜ってから数十秒以上は出てきませんし、思わぬところに浮いてきてはすぐ潜ってしまいますから、じっくりと観察するのはとても大変です。
群れで水面を泳ぎ回るカモ類の隙間に、時々現れてはさっと消えてしまう、小さなカイツブリの姿も見られます。いつの間にか現れ、気がつくと消えて、別のところにまた現れ、まるで忍者のように群れの隙間に出没します。潜ってから数十秒以上は出てきませんし、思わぬところに浮いてきてはすぐ潜ってしまいますから、じっくりと観察するのはとても大変です。
「にほとり(におとり)」は、カイツブリの古名です。語源はよく判っていませんが、平安時代には「にほ(にお)」と呼ばれることもありました。「かいつぶり」と呼ばれ始めたのは室町時代に入ってからで、江戸時代になると「かいつぶり」が主に用いられるようになりました。
万葉集の中では、九首で「にほとり」が詠まれています。カイツブリは潜水が得意なことから、「潜る(隠れる)」、「浮かぶ」、「息長川(息が長い)」などの枕詞として用いられていたようです。
にほ鳥の 潜く池水 こころあらば 君に我が恋ふる 情示さね
(大伴坂上郎女 万葉集 巻四 七二五)
にほ鳥が潜る池の水よ、お前にこころがあるなら、私の恋い慕う気持ちを(水面に)示しておくれ。
にほ鳥の 息長川は 絶えぬとも 君に語らむ 言尽きめやも
(馬史国人 万葉集 巻二十 四四五八)
息長川はたとえ絶えてしまうことがあるとしても、あなたに語りたい言葉は決して尽きることはありません。
水に浮いているとわかりませんが、カイツブリの足は、体のかなり後ろの方に付いています。水中では体の後ろで水を掻くのにとても適した位置なのですが、逆に陸地ではとても歩きにくく、巣の上以外では水から上がっている姿を見ることは滅多にありません。そのような水中で魚などを追うのに特化した体で、カイツブリは水の中をすばやく自在に泳ぎ回ります。
カイツブリ科は世界に22種類生息しており、日本で見られるのは5種類です。このうち、カイツブリは一年を通じてみられます。カンムリカイツブリ、アカエリカイツブリは主に冬鳥ですが、少数が日本で繁殖しています。ハジロカイツブリ、ミミカイツブリは冬鳥です。

カンムリカイツブリ(冬羽)

アカエリカイツブリ(夏羽)

ハジロカイツブリ(冬羽)

ミミカイツブリ(冬羽)
カイツブリは1年中見られる留鳥です。2月から10月にかけて年2~3回繁殖し、巣は主にヨシ原の中に造り、水面に水草などで皿形の浮巣を造ります。水面上には皿形の巣が見えるだけですが、水面下はその5~6倍の厚みがあります。水位変動に備えて5~14個もの補助巣を作ることもあります。
アカエリカイツブリの多くは冬鳥で、全国各地で1~数羽ずつ見られます。繁殖は国内では北海道の湖沼など限られた場所で確認されているのみです。
カンムリカイツブリの多くも冬鳥ですが、近年越冬する個体が増え、東京湾では数千羽を越える群れが見られることもあります。1972年に下北半島の小川原湖で初めて繁殖が確認されましたが(環境省のレッドデータブックで「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されています)、1991年には琵琶湖でも少数の繁殖が確認されています。
カイツブリは、雌雄交代で5~6個の卵を抱卵しますが、両方が巣を離れるときは、卵を水草で覆って隠す習性があります。カイツブリの雛は孵化後すぐに泳ぎだします。小さいうちは親が背中に乗せることもあり、歌舞伎の隈取り模様のような小さな顔を、親の羽根の間から覗かせている姿がよく見られます。餌とする魚類や甲殻類はとても動きがすばやいことから自力ではなかなか餌が獲れず、2~3ヶ月は親鳥から餌をもらいます。

水上で一息つくカイツブリ
体が小さく目立たないカイツブリは、ヨシ原で浮巣を造れるような場所が減っていることから、個体数は減少しており、千葉県、東京都、京都府、山口県、沖縄県の各県のレッドデータブックでは準絶滅危惧種に指定されています。減少の原因は営巣場所の減少だけではなく、ブラックバスやブルーギルの増加で、カイツブリが主に食べていた小魚が激減してしまったこととの関連性も指摘されています。

水上で一息つくカイツブリ
ごく普通に見られていた鳥が、気がついたら滅多に見られなくなっていたということは、最近よくある話です。小さなカイツブリも、カモの隙間を探しても見つけられなくなる日が来てしまうのでしょうか・・・。
■参考文献
中村登流・中村雅弘 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑(水鳥編) 保育社.
菅原浩・柿沢亮三 (1993) 図説日本鳥名由来辞典 柏書房.
環境省編 (2002) 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-2.鳥類
日高敏隆ほか (1996) 日本動物大百科 鳥類Ⅰ 平凡社.
佐竹ら校注 (1999) 新日本古典文学大系1 萬葉集一 岩波書店.
佐竹ら校注 (2003) 新日本古典文学大系4 萬葉集四 岩波書店.