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生きもの歳時記

水中の風情

初冬の岩場に繰り広げられるひたむきな父性本能 ~アイナメの卵保護 ~

 北風が強くなり水温が18~19℃に低下してくる頃、東京湾に面した埋立地の護岸の下で、アイナメの産卵を見ることができます。
 アイナメは九州から北海道の沿岸に広く生息し、釣りの対象としても人気があり、専用の仕掛けも考案されています。もちろん食用としても煮付け、からあげ等の惣菜魚として、大きさが手ごろで食味が良いことから価値が高い魚となっています。
 成長すると50cm以上65cmになることが知られていますが、東京湾では30~40cmあれば大きいほうで20cm程度から繁殖を行っているようです。産卵期は晩秋から初冬、岩場や護岸下の捨石の上、海に捨てられた自転車等も産卵場となります。アイナメのオスは、産卵場を守り、複数のメスを呼び込んで産卵させます。産み出されたばかりの卵塊の色は、卵塊によってピンクや空色、紫色、白色等さまざまで、やがて卵内で発達が進むと銀色っぽくなってきます。よく見ると仔魚の形ができてきて眼がキョロキョロ動くのがわかります。1尾のオスが保護している卵塊の色や発生段階から何尾のメスによって産卵されたかがわかります。
  卵塊を守るオスは辛抱強く他の魚やカニを追い払い、ダイバーが近づくと触れる直前ではさすがに逃げますが、近くではじっと横目でにらんでいます。父性本能なのでしょうが、孵化まで保護する忍耐はかなりのものです。


埋立地護岸の捨石の上で、複数の卵塊を保護する
アイナメのオス、黄色い体色は繁殖時期特有の婚姻色。

新しい卵塊は、きれいな色で
真珠や宝石のように輝いている。

  孵化まで1ヶ月程度かかります。産卵時期がずれた卵塊を保護するオスは、もっとがんばらなければなりません。やがて、孵化した仔魚は波間で育ち、春にはピカピカと銀色に光る体で背側が青緑色の稚魚をみることができます。その後成長にしたがって住み場は海底に落ち着き、海藻や岩場に溶け込む保護色の褐色系の色に変化していきます。


繁殖期以外は海底に溶け込むような色彩をしている。

  産卵期にかけては成魚が岸近くに現れ、産卵・孵化が終わると体力の回復のため、食欲が旺盛になります。釣り用語で「のっこみ」と呼ばれ、大物ねらいの時期です。関東では太りはじめた春から初夏がアイナメの旬と言われます。
  餌に騙されず釣られずに残った賢者のオスだけが、また翌年卵保護の光栄に預かれるのです。卵を守るオスの姿は、はたから見ると大変そうですが、ほんとうは至福の極みなのではないでしょうか。


繁殖期以外は海底に溶け込むような色彩をしている。

■参考文献
・ 落合、田中,1986 新版 魚類学(下),恒星社厚生閣,1140pp.
・ 尼岡、仲谷、矢部,1995 北日本魚類大図鑑,(株)北日本海洋センター,390pp.
・ 岡村、尼岡 編・監修,1997 山渓カラー名鑑 日本の海水魚,山と渓谷社,783pp.
・ 日高敏隆 監修,1998 日本動物大百科 第6巻 魚類,平凡社,204pp.


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