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生きもの歳時記

水中の風情

忍法木の葉隠れ ~アナハゼのカモフラージュ~

 日本沿岸の岩礁や藻場の中の海藻に溶け込み、小魚を狙っている口の大きな魚がカサゴやカジカの仲間です。なかでも、アナハゼ類は日本周辺に固有のカジカの仲間です。ダイバーにも馴染み深く、浅海域で多くの種がみられますが、色彩変異が多く斑紋も複雑で種の判定はなかなか難しいものがあります。

 アナハゼ類が生息する場所には、緑藻・褐藻・紅藻など多くの海藻類が繁茂しています。彼らは周辺に生育する海藻にカモフラージュして完ぺきに背景に溶け込んでしまいます。色彩や斑紋だけでなく、頭や背中にある大小の房状・羽状の突起(皮弁と呼びます)までが効果を発揮しています。

 本州中南部の太平洋や日本海沿岸の磯では、アナハゼ、アサヒアナハゼ、アヤアナハゼ、オビアナハゼ、キヌカジカ、サラサカジカ、イダテンカジカ、スイ、ヒメスイなどがよくみられます。

 キヌカジカ、サラサカジカ、イダテンカジカは小型のアナハゼ類で体長4~8cm程度、大型のものはアナハゼで体長18cm程度になります。色彩変異の幅はいろいろですが、おもにアナハゼは黄褐色系でホンダワラ場やアラメ・カジメ場に多く、アヤアナハゼは赤褐色系でテングサ場や石灰藻のところ、オビアナハゼはやや深場で紅藻のほかヤギ類やウミトサカ類などの腔腸動物がみられるところに多いといったように、それぞれ得意とするカモフラージュがあるようです。とくにスイはホンダワラ場に、ヒメスイはアラメ・カジメ場に特化した隠れ身の術を修得しています。


紅藻に溶け込んだアサヒアナハゼ

ホンダワラ類にとまって獲物を狙うアナハゼ

オビアナハゼの後頭部のピンク色は
岩に付着する石灰藻とまぎらわしい

ヒメスイはカジメ葉の切れ端のように
動きまでもあわせて波に揺られる

アヤアナハゼの眼上皮弁は
隠れているテングサ類のようだ

小型のサラサカジカも海底で
見つけにくい色彩と斑紋を持つ

 アナハゼ類の特徴をもう一つ、生殖行動のためにオスは体に不釣合いな程の大きな交接器をもっています。しかし、体内受精して仔を産むのではなくメスが受け取った精子をしばらくたくわえ、産卵はメスが産卵管を伸ばして海底の岩の隙間や岩に付着するホヤ、カイメンなどの体内に卵を産みつけます。この卵が生み出されるときに受精するのです。

 アナハゼ類は、ダイバーが近寄ってもあまり逃げません。カモフラージュに関して自負があるのでしょう。小魚や小エビを狙って飛びついたり、オス同士ヒレを全開にして争ったり、メスに交尾しようとする様は、水中でじっくりと観察する価値があります。

■参考文献
・ 岡村、尼岡 編・監修,1997 山渓カラー名鑑 日本の海水魚,山と渓谷社,783pp.
・ 日高敏隆 監修,1998 日本動物大百科 第6巻 魚類,平凡社,204pp.


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