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生きもの歳時記

沖縄の海辺から

冬の干潟に現れる緑玉 ~クビレミドロ~

 沖縄で最も寒い時期となる12月から2月にかけて、沖縄本島の内湾に広がる砂泥質の干潟に緑色の玉のような海藻が現れます。一見干潟にばらまかれたような直径1~3cmの緑玉は、クビレミドロという名の植物です。海藻は緑藻、褐藻、紅藻と分けられるのが一般的ですが、このクビレミドロは黄緑色藻というあまりなじみのないグループに分類されます。緑藻と同じように緑色をしていますが、色素の種類が違うだけでなく、分類学的に進化の過程では、離れた系統にあるようです。


糸状の海藻体が集まって球形になっている。

球形のクビレミドロは、一見マリモのように
転がっていると思われる。

  緑の玉は、細い糸状の海藻体が集まって形作られています。この糸状体と呼ばれる海藻体の1本1本をみると何段かにくびれていることからクビレミドロと名づけられたようです。緑の玉は、干潟に転がっているのではありません。玉の下からは仮根と呼ばれる赤褐色で糸状の塊が砂泥の中にしっかりと入っており、潮の満ち引きで流されないように生育しています。


クビレミドロは、小型の海草が生える砂泥質の
干潟が安定した生育場になっている。

 干潟の中で密集してみられる場所は、毎年ほぼ同じで地盤の高さも一定の幅にあります。干潟の環境に適応した特異な植物なのです。最近になってやっとその生態が少しずつわかってきました。冬から春にかけて生長したクビレミドロの緑玉は大きくなりすぎると隣同士いっしょになってマット状に広がります。春も終わる頃には糸状体に卵ができて受精し、やがて海底に落ちて砂粒にまぎれます。直径0.2mmの卵は夏の間砂の中で休眠し、沖縄でも幾分涼しくなるような季節の変化を感じると発芽して生長し、最初は小さな糸状の体がやがてきれいな緑の玉を形成していきます。


クビレミドロは、小型の海草が生える砂泥質の
干潟が安定した生育場になっている。

 全世界でクビレミドロがみられるのは、沖縄島だけ。さらに1属1種であり、学術的にも藻類の系統と進化を探る上できわめて貴重な種であるとされています。いわば生きた化石と言っても良いでしょう。しかし、埋立や海岸域の開発で干潟が消滅し、生育場所が少なくなって、規模の大きな生育地は現在3ヵ所のみ。環境省のレッドデータブックでも絶滅危惧Ⅰ類にランクされており、残された生育地の保全が課題となっています。

  これまで沖縄の干潟で冬から春にかけてクビレミドロの緑玉が現れても、あまり人に知られることはありませんでした。もしかして何億年もの間、同じような情景を演出してきたのではないでしょうか。緑色の海藻体は梅雨が明ける頃までには卵をたくさん放出して枯れ、干潟から消滅します。次の冬にかけて緑玉になろうとしているクビレミドロは沖縄らしい海の情景が広がる暑い夏の間、砂の中で休眠のカプセルに入っており、やがて来る季節の移り変わりをひたすら待っているのです。

■参考文献
・ 沖縄県,1996 沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータおきなわ-,479pp.
・ 社)日本水産資源保護協会,1997 日本の希少な野生水生生物に関するデータブック(水産庁編),437pp.
・ 財)自然環境研究センター,2000 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-9 植物Ⅱ(維管束植物以外),429pp.


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