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生きもの歳時記

沖縄の海辺から

春は求愛のジャンプ ~トカゲハゼ~

 穏やかな春の干潟で盛んに立ち上がるようなジャンプを繰り返すのは、繁殖期をむかえたトカゲハゼのオス。ムツゴロウに似た半陸生の生活をするハゼの一種です。平坦な干潟で目立つようにジャンプをして、周囲のメスに求愛します。お腹に卵を抱えたメスは、気に入ったオスとペアになり泥の中に掘られた巣穴の中で産卵します。


トカゲハゼはオス・メスのペアで産卵し、卵が孵化するまで
保護する。

トカゲハゼのオスは繁殖期に 立ち上
がるような求愛ジャンプを繰り返す。

 トカゲハゼは日本で沖縄島だけに生息する希少な魚で、沖縄島東海岸中南部の中城湾が最大の生息場になっています。国外では東南アジア中心にインドやオーストラリアの熱帯・亜熱帯地方に分布しています。トカゲハゼがすむ干潟は内湾の奥で泥が堆積したところであり、市街地や集落にも隣接して生活排水やゴミの不法投棄などで汚れやすく、生息環境の悪化が問題になっています。また、沿岸の開発による埋立で生息場が失われてきたことから、沖縄県ではトカゲハゼの保全対策として、生息地を残すだけでなく、新たな生息場を造成し、生息数の減った場所にはトカゲハゼを人工的に増やして放流することなどが行われてきています。環境省や沖縄県のいわゆるレッドデータブックで絶滅危惧ⅠA類にランクされた貴重なトカゲハゼは、環境保全の象徴的存在の一つであり、新聞やテレビで紹介される機会も多くなっています。中城湾には現在2,000尾程度が生息していますが、今後も注意深く見守っていく必要があります。


中城湾で人工的に整備されたトカゲハゼの生息環境、
手前はマングローブ帯で浅い水溜りのところが生息場。

 巣穴の中に産卵されたトカゲハゼの卵は親に守られ1週間ほどで孵化し、子供は湾の中央部で浮遊しながら育ち、1ヶ月ほどすると干潟に帰ってきて親と同じような半陸生の生活をするようになります。


生後3週間を経過したトカゲハゼの
浮遊仔魚、全長1cm程度で透明な
体、立ち泳ぎをしている。

浮遊生活を終えたトカゲハゼの稚魚は、変態して干潟に着底する。

 トカゲハゼのすむ泥干潟には、同じ半陸生ハゼのトビハゼやミナミトビハゼ、ヒメヤマトオサガニやヒメシオマネキなどのカニ類、ヘナタリやイボウミニナなどの巻貝類をはじめ多くの生きものがみられます。陸側にはマングローブも形成されて自然観察をするにはもってこいの場所です。しっかりと保全して、後世に伝えながら、自然学習に役立ててもらいたいものです。

 干潟は生態系を理解するための題材としてわかりやすく、手近なものです。トカゲハゼは泥の表面を盛んにもぐもぐと食んでいます。これは、栄養が豊富な泥の表面に発生した藻類などの微小生物を食べている様子で、周辺ではヒメヤマトオサガニもハサミで泥を口に運んでいます。トカゲハゼは巣穴に近づくカニや別の住人であるトカゲハゼを大きく口を開けて追い払います。なわばりを守る行動です。オス同士は近づくと激しく争うこともあります。口を大きく開け、背びれを立て、体を反らして互いに体の大きさや力強さを競い合います。


オス同士のなわばり争い。まずは、口の大きさ比べ。

トカゲハゼのなわばりに侵入した
ヒメシオマネキを追い払う。

 干潟の上では目だって活発なトカゲハゼですが、人が近づくとすぐに巣穴に隠れてしまいます。とても敏感に反応し、敵に襲われても大丈夫そうですが、時にはサギなどの鳥につかまって食べられてしまうのを見ることがあります。やはり食物連鎖の一端は逃れられないようです。夏の干潟は絶えられないほどの暑さと日射ですが、トカゲハゼの繁殖期である3月から沖縄の梅雨が明ける6月下旬までは、雨の日や風の強い日を避ければ干潟の観察も楽しいものです。

■参考文献
・ 社)日本水産資源保護協会,1997 日本の希少な野生水生生物に関するデータブック(水産庁編),pp.96‐97
・ 細谷誠一,1998 ムツゴロウ・トビハゼ・トカゲハゼ,日本動物大百科 6魚類 pp.166‐171 平凡社
・ 沖縄県,2000 トカゲハゼのはなし 12pp.沖縄県商工労働部企業立地推進課
・ 環境省,2003 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブック 汽水・淡水魚類 pp.86-87 財)自然環境研究センター
・ 沖縄県,2005 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp.152‐153


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