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生きもの歳時記

万葉の生きものたち / 夏の動物

蚊(か)

 皆さん想像してみてください。夏の寝苦しい夜、なかなか寝付けなかったところでようやくうとうととまどろみかけた頃、耳元に聞こえてくる甲高い嫌な羽音・・・、本当に鬱陶しいですよね。仕方がないので私の場合は電気をつけ、蚊の大捜索を始めることがしばしばです。己の狩猟本能を大いに駆り立てた挙げく、ようやく蚊一匹を退治した頃にはアドレナリン過多のため目が冴えてしまい、またしばらくの間寝付けない。こんなことを毎晩のように繰り返す季節がやってきました。


蚊(雌)が吸血のため、筆者の足首に
口吻を根本まで差し込んだ様

吸血して飛び立つ寸前

世の中に蚊ほどうるさきものはなし ぶんぶといふて夜も寝られず

(詠み人知らず)

世の中に、蚊ほどうるさいものはない。ブンブン(文武)と飛びまわり夜も眠れない。

 これは文武を奨励する松平定信の寛政改革を皮肉る狂歌です。江戸時代中期の文人、大田蜀山人が作ったとされた有名な歌ですが、本人はそのように政治を皮肉る歌を幕臣の自分がつくるはずがない、と否定したようで、誰が詠んだ歌なのか曖昧としています。しかし何はともあれ、江戸時代の人たちも政治と蚊にはつくづく悩まされていたようですね。

六月みなづきのころころ、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣火かやりびふすぶるもあはれなり。六月祓みなづきばらへまたおかし。

(吉田兼好 徒然草 第十九段)

六月頃、質素な家の辺りに夕顔が咲いているのが白く見えて、蚊遣火がくすぶっている様も、しみじみとした感がある。夏の終わりを告げる六月祓もまた趣があるものだ。

 これは有名な徒然草の一節ですが、蚊取り線香のようなものが昔からあったことがわかります。今では煙たくならないタイプの蚊除けが普通に売り出されているようです。私は使ったことがありませんが、きっと冒頭に記した様な鬱陶しさから解放されて便利なんでしょうね。とは言え私はどうも日常の変化を嫌う人間の様なので、恐らくこの先も江戸時代の人たちと同様の悩みを抱え続けることでしょう。
 蚊は全世界に分布しており、これまでに3,200種以上が報告されています。日本では111種が報告され、昆虫の仲間としては分類、生理、生態などの様々な面から良く研究されています。


写真中央右が蚊(雌)の口吻先端
この口吻で人の皮膚を貫くとは・・・
(周りに散らばるのは鱗片)

 吸血するのは雌の成虫だけで口の形があのように針状なのも雌だけです。雄の成虫は花の蜜や果汁、アブラムシが出す甘露、樹液などを吸って生きており、口の形も針状ではなく蜜などを舐めるのに適した形をしています。蚊が花の蜜を吸っている姿なんてあまり見たことないですからちょっとイメージが湧きませんね。幼虫は棒を振るような動きをすることから一般にボウフラなどと呼ばれており、水中の緑藻類などの単細胞の微生物や腐敗した有機物を食すものがほとんどですが、一部の種の幼虫ではイトミミズやユスリカの幼虫などを食べる捕食者もいるようです。その蛹はオニボウフラとも呼ばれ、頭胸部背面の呼吸角が鬼のツノの様にみえることから由来した名前と考えられます。


写真中央右が蚊(雌)の口吻先端
この口吻で人の皮膚を貫くとは・・・
(周りに散らばるのは鱗片)

 最近は地球温暖化のために熱帯性の蚊の分布が拡大しているという問題が起こりつつあります。蚊はマラリア、フィラリア、黄熱病、デング熱、日本脳炎など数々の伝染病を媒介するため、熱帯性の蚊の分布拡大は伝染病の拡大にも繋がり非常に困った問題です。寝苦しい夜が続くだけでなく伝染病が広がったり、他にも様々な自然災害を引き起こす地球温暖化、人ごとではなく自分のためにその進行を阻止するための対策が必要です。自動車を使用している人は、通勤通学や近所の買い物などの時に、出来る限り自転車で移動して健康増進に励むなど、地球にも自分にも利益が出るような簡単に出来ることを、少しずつでも取り組んでいけたらいいですね。

早くも2月下旬に我が家(静岡県)に出現した蚊
(同じ個体を撮影モードを変えて撮影)

■参考文献
田中和夫 (2005) カ科 Culicidae. pp.757-1005 川合禎次・谷田一三 (編) 日本産水生昆虫 東海大学出版会.
吉田 兼好・西尾実・安良岡康作 (1985) 新訂 徒然草 岩波書店
■ 参考ウェブサイト
日本文学電子図書館 蜀山家集 http://www.j-texts.com/kinsei/shokuskah.html


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