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生きもの歳時記

万葉の生きものたち / 夏の動物

蝉(せみ)


クマゼミ

 気象庁の「梅雨明け」とともに始まる蝉時雨。とはいうものの、ハルゼミなど種類によっては 4 月頃から鳴き始めるものもいます。
 セミは、日本で 35 種、世界で約 1600 種が知られています『虫の博物誌』。このうち、国内で分布範囲が広く、一般によく知られているセミはハルゼミ、エゾハルゼミ、ニイニイゼミ、アブラゼミ、クマゼミ、ヒグラシ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシなどでしょうか。多くのセミの羽は大部分が透明ですが、アブラゼミやニイニイゼミの羽は透明ではなく、こういった意味では世界的にも珍しい種類です。
 万葉集でセミを詠んだ歌は十首ありますが、そのほとんどは、 ” ひぐらし ” を詠んだものです 。


クマゼミ

ひぐらしは 時と鳴けども 恋ふらくに たわやめあれは 定まらず泣く

(作者不明 万葉集 巻十 一九八二)

 ヒグラシは時を決めて鳴くけれども、恋のせいでか弱い私は、時を定めず泣いてばかりいます。

 ヒグラシは日暮れの頃に、よく鳴くことが名前の由来だそうです。実際には早朝や、日中でも薄暗いときには鳴き出します。オスの鳴き声は「カナカナカナ・・・」とか「ケケケケケッ・・・」と聞こえ、聞く人に涼感や物悲しさなどを感じさせます。
  また、セミを詠んだ俳句として、松尾芭蕉の

閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声

(松尾芭蕉 奥の細道より)

がありますが、これは山形県の立石寺で詠まれたものです。この句に詠まれたセミについて、斎藤茂吉はアブラゼミと主張、一方、小宮豊隆はニイニイゼミと主張し論争になったとのことです。『セミの自然史』によると「芭蕉が立石寺を訪れたのは太陽暦の 7 月 13 日である。この頃山形に出る可能性のあるセミはエゾハルゼミ( 5 月~ 7 月上旬)、ニイニイゼミ( 6 月下旬~ 8 月下旬)、ヒグラシ( 7 月上旬~ 8 月下旬)、アブラゼミ( 7 月中旬~ 8 月下旬)であろう。 7 月 13 日というと、ヒグラシ、アブラゼミは初鳴きがぎりぎりのところ、エゾハルゼミは終鳴期で共に出現期に難がある。また鳴き声からいっても、エゾハルゼミ、ヒグラシ、アブラゼミ共に句にそぐわない。つまるところ“芭蕉の立石寺の蝉”はニイニイゼミ以外にはないと云うことになる。」とあり、この論争は小宮豊隆が主張したニイニイゼミで決着したようです。
 セミが鳴くのは繁殖のため、すなわちオスがメスを呼び寄せるためで、オスだけが鳴き、メスは鳴きません。オスの腹部には発音する膜があって、それを震動させ、共鳴箱のように空洞になっている腹部で音を増幅しています。腹部を伸び縮みさせたり、発音膜の外側にあるフタ(腹弁)とのすき間を変えたりすることで音の調子を変化させます。


アブラゼミ

アブラゼミの幼虫

 卵は木の枯れ枝や、樹皮などに産み付けられます。産み付けられた卵はその年の秋、または年を越して翌年の初夏に孵化します。卵から孵った幼虫は地上に降り、すぐに土の中へ潜って木の根にとりつきます。幼虫は数年間、針のような口を木の根に差し込んで樹液を吸いながら過ごし、数年後、夏の夕方頃、地上に出て木に登り、脱皮して成虫(羽化)になります。土の中ですごすセミの幼虫の期間は、正直なところ、まだ十分に解明されていないようです。
 卵から孵化して成虫になるまでの期間は、ニイニイゼミで 4 ~ 5 年、ツクツクボウシで 1 ~ 2 年、アブラゼミで 3 ~ 4 年、ミンミンゼミで 2 ~ 4 年、クマゼミで 2 ~ 5 年といわれています。また、ヒグラシの幼虫期間は分っていないようです。セミはトンボやバッタ類と同じで、サナギにならず幼虫から直接成虫になります。これを不完全変態といいます。
 幼虫が地上に出てくるのは、ヒグラシ、クマゼミ、ニイニイゼミ、アブラゼミなどは日没の1時間半前頃、ツクツクボウシはそれよりやや遅く、暗くなってからが多いようです。ヒメハルゼミは日没後 30 分以内が多いようです。ゼミの羽化の時間は林の暗さや天候に左右されます。また、午前中雨が降り、昼過ぎから雨が上がった日などは羽化する数が増えるようです。
 セミの成虫の寿命は、よく1週間程度と言われているようですが、実際はもっと長いと考えられています。飼育によると1ヶ月以上生きた記録もあるようですし、羽化してから鳴けるようになるまでに数日かかるのが普通なので、配偶行動の時間を考えると、 2 ~ 3 週間から1か月近く生きるのと考えられています。
 都心では、最近ニイニイゼミが減少し、ミンミンゼミが増加したと言われています。この原因についてはまだよくわかっていないようですが、ニイニイゼミの幼虫は乾燥した土壌が苦手で、都市化によりコンクリートやアスファルトで覆われた場所が増加し、それに伴う気温の上昇によって土壌の乾燥化が進んだことにより生息環境が失われたためと言われています。このように、都市のヒートアイランド化、地球温暖化がセミの生態や分布にも影響を与えているのかもしれません。

■参考文献
中尾舜一 (1990) セミの自然史 一鳴き声に聞く種分化のドラマー 中公新書 .
小西正泰 (1993) 虫の博物誌 朝日新聞社 .
佐竹ら校注 (2000) 新日本古典文学大系2 萬葉集二 岩波書店


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