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生きもの歳時記

万葉の生きものたち / 夏の動物

鳥(からす)


水辺のハシボソガラス

 一年を通じて見られるカラス類は、いま子育てが終わり、雛が巣立つ時期です。
 カラスの繁殖期には、街中の街路樹や電柱に巣を造るハシブトガラスが、通行人を襲ったといった話をよく聞きます。ハシブトガラスは、巣から十数m以内に人が近づくと攻撃してきます。勿論近づかなければ襲ってはきませんが、住宅密集地や街中ではそういうわけにもいきません。その場合には、有害鳥獣駆除の名目で、巣を撤去せざるをえないのが実状です。

からすとふ おほをそどりの まさでにも まさぬ君を ころくとそ鳴く

(作者不明 万葉集 巻十四 三五二一)

烏が 確証もないのに、本当はお出でにならないあなたが来るよと大声で鳴いています。

あさがらす 早くな鳴きそ わが背子せこが あさの姿 見れば悲しも

(作者不明 万葉集 巻十ニ 三〇九五)

朝烏よ、愛しい人が朝帰ってしまう姿を見たくないので、早くに鳴かないでおくれ。

 奈良時代には、カラスといえばハシボソガラス、ハシブトガラス、ミヤマガラス、コクマルガラスなどを総称していたと考えられていて、区別はされていませんでした。当時は、不吉であるとか忌み嫌われるような扱いはされておらず、ごく普通の鳥として、親しみすら感じられていたようです。日本書紀や古事記では、カラスは神聖視されており、サッカーで有名な三本足の八咫烏(やたがらす)は、神の使いとされていました。

 ヨーロッパでも、ローマではカラスを戦争の神オージンを表す聖鳥としており、その他にも賢さや嘴の破壊力、情報収集力がある鳥として、軍神のシンボルとして扱う地域がありました。イソップ寓話などでもカラスを題材としたものは多く、賢くとも奢るなかれといった教訓が込められています。

 このように、日本でも海外でも、カラスは賢くて強いというイメージの方が強かったようです。
 現在のような不吉、死の象徴、忌み嫌われるようなイメージは、中国に端を発すると言われています。中国では古くから、カラスは不吉な鳥とされてきました。

 そしてそこに、ゴミなどに群がり、数が非常に多い、死を表す黒い羽根といったイメージが重なって、嫌われもの扱いされ始めたのかもしれませんが、本当のところは判りません。
 日本では5種類の黒いカラス類が見られます。一年中見られ、日本で繁殖するハシブトガラスとハシボソガラスのほか、冬季に主に日本海側で見られるミヤマガラス、コクマルガラス、北海道の一部に少数が渡来するワタリガラスです。この中ではワタリガラスがもっとも大型で、コクマルガラスが一番小さいです。生息環境はそれぞれ違っていて、ハシブトガラスは都市部や森林帯など、比較的乾燥した地域にも生息し、ハシボソガラスは河川沿いや水田地帯など、水辺に主に生息しています。

 ミヤマガラスは、冬季に畑地などの田園地帯に飛来して、時に数十~数百羽の大きな群れになります。コクマルガラスもその群れに混じっていますが、数はミヤマガラスより少ないようです。ミヤマガラスは、時に農作物を荒らすなど、害鳥として扱われることもあります。ワタリガラスは、凍てついた北海道の海岸や山中で動物の死体などをついばみます。近年は特に道北で渡来数が増加しています。
 カラスの巣は、いろいろな樹木や電柱、人工物に造られます。日本で繁殖するハシブトガラスは4~5個、ハシボソガラスは3~6個の卵を、1日に1個ずつ産み、産卵と同時に抱卵を始めるので、雛は1羽ずつ順番に孵化していきます。雛は約3~4週間ほどで巣立ちますが、餌が少ないと後から生まれた雛は兄弟に餌を取られてしまうので餓死してしまい、巣立ちまで生き残るのは半分程度とも言われています。そして無事巣立っても、若いうちに死んでしまう個体も多いようです。

 本来、自然は厳しいものですが、後述する豊富なゴミを利用することにより、カラスの繁殖成功率は高くなり、冬季の若鳥の生存率も高くなったのではないか、とも言われています。


電柱に止まるハシブトガラス

 カラスは全国各地で増加が問題になっています。都会では増えているのはハシブトガラスですが、北海道などではハシボソガラスの数が増えている地域もあります。

 平成19年2月の東京都の発表によると、平成13年度のピーク時(約3万6千羽)と比較して、平成18年度にはその半分以下の1万6千羽程度のカラスが生息しているとされています。捕獲作戦や、ゴミ捨て場の防鳥ネットの普及などが功を奏したと考えられていますが、平成18年度の捕獲予測数を見てみると、平成17年度の生息数とほぼ同数(約1万8千羽)という結果になっています。

 生息数の数え方が適切なのか(特定の大規模ねぐらしか数えていない、隣接県のねぐらは対象外など)、罠に掛かるのが若鳥ばかりなので、本来自然死している若鳥を捕獲しているだけではとの指摘もあり、捕獲の効果については疑問視する声もあります。

 カラスの増加対策としては、カラスの増える原因であるゴミ対策が一番効果的と言われています。夜間にゴミを収集している地域ではカラスの数は少なく、ほとんど見かけない地域もあります。東京都でも試験的に夜間収集を始めている地域がありますが、東京全域でこれを実施しようとすれば、数百億円の予算が必要になるとの試算もあります。それらの費用を誰が負担するのか、これも大きな課題です。
 忌み嫌われ、厄介者扱いされるカラスですが、生態系の中では大事な役目も担っています。ゴミの掃除屋、スカベンジャーと呼ばれ、野外で事故や病気で死亡した動物の死体等を、食べて掃除してくれます。ただこの習性のために、ゴミも餌として利用が可能であり、都市やその近郊では、ゴミを餌に増えすぎてしまったわけです。

 適正な数であれば、恐らく人間もカラスも困ることなく共存していけたでしょう。しかしゴミという餌を与えてしまい、餌の量にあわせてカラス達は増えすぎてしまいました。このバランスを崩してしまったのは、人間の生活であることは間違いありません。
 崩れたバランスを戻すためにはどうすればいいのか。ゴミの減量がそのカギであることは間違いありませんが、その処理方法、費用対効果、そして誰がやるのか(費用も含む)など、まだまだ問題は山積みです。

 しかし、各家庭で出すゴミを減らしたり、ゴミの出し方を工夫するなど、小さな事でも私達に出来ることは、まだまだあるのではないでしょうか。誰かがやってくれるのを待っているだけではなく、一人一人が何をしたらいいのか、考えていく必要があると思われます。

■参考文献
唐沢孝一 (1988) カラスはどれほど賢いか 都市鳥の適応戦略 中公新書.
太田眞也 (1999) カラスは街の王様だ 葦書房.
松田道生 (2000) カラス、なぜ襲う 都市に棲む野生 河出書房新社.
今泉忠明 (2004) カラス狂騒曲 行動と生態の不思議 東京堂出版.
中村登流・中村雅弘 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑(陸鳥編) 保育社.
菅原浩・柿沢亮三 (1993) 図説日本鳥名由来辞典 柏書房.
佐竹ら校注 (2002) 新日本古典文学大系3 萬葉集三 岩波書店.


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