
聴覚や視覚で納涼効果を演出する研究が昨今のブームになりそうであるが、この句は聞こえる筈のない汗の音で夏の暑さを詠んでいる川柳っぽい俳句である。大音響が持ち前の映画などでは決闘シーンや絶壁登攀などの場面で、呼吸の音や心臓の鼓動まで聞かせるが、この句の作者である高浜虚子の耳には、滴る汗の音が映画のシーンさながらに聞こえるのだろう。そのような誇張表現が、この場合、夏の暑さの厳しさを伝えてくれる。人間は汗をかくことによって体温調節を行っているのであり、その機能は汗線数の多い南方民族ほど活発なようである。熱中症指数(WBGT)の高い沖縄の人たちが、東北地方より熱中症搬送者数が少ないのは、伝統的なライフスタイルに加え汗線数の違いもありそうでえある。

カヤ(萱、茅)はススキとかチガヤ、スゲなどの総称であるが、エルニーニョ年などのような雨の多い年は、穂が赤くなる赤錆病が発生することがあるという。そのようなじめじめとした湿気の多い年はカヤなどの植物に限らず、人体にも影響し疫病が流行りやすいということである。
他方、白川郷などに見られる茅葺屋根の伝統的な民家は、蒸し暑さもを和らげる効果がある。カヤや藁に含まれる空気は熱の不良導体であり、湿気を吸い取ってくれるからであり、冬は逆に寒冷で乾燥した空気をも遮断してくれる。このような機能を持った古民家の集合体が景観としてのみならず省エネ省資源の建材も評価されたのが白川郷や韓国慶州良洞村の世界遺産であると思われる。