
秋の魚である鰯は秋刀魚とともに青魚といって体表が青光する魚で、淡白にして栄養は豊かである。ところが江戸川柳にも「ごまめでもすむと鰯を安くつけ」と詠われているほどに安い魚で、長屋中のどこの家でも食べられていた最も庶民的な魚であったようだ。だからではないだろうが、魚にすら上品、下品があるといい、上品代表の鯛に対して、下の魚の代表が鰯だという。しかし、青魚と言われ栄養価も高く美味しいのは、鰯という名前の由来に関係ある。鰯は海中にあっては、いつも大きな魚に追い回される程だから弱い魚と書く。追い回されているから身もしまり美味しいのだと思う。冒頭の句は、小骨が多いために食べにくく、皿を汚し、箸をよごし、口許をよごし、テーブルも汚すことをユーモラスに詠ったものである。

秋に実がなるまたたびは山野に自生する蔓性の落葉樹である。本来の楕円形の実ではなくて、寄生虫によってできた瘤状の実からつくる漢方薬が人間の健康に良いということである。瘤状実を熱湯に浸したあと乾燥させたものが「木天寥(もくてんりょう)」という漢方薬で、神経痛をはじめリウマチや中風、利尿作用、疲労回復にも効き目があるとされる。「猫にまたたび、お女郎に小判」(後半を略して「猫にマタタビ」)というのは漢方の意味はあまりなく、大好物とか人の機嫌をとるのに効果的なもののたとえとして言われる諺である。ただし、またたびを食べると元気が出てきて、「また旅を続けられる」ことから「マタタビ」の名が付けられたというダジャレ的な説もある。