暮らしの中のバイオクリマ
No.36
2013.05.15
吉野正敏
ウメの開花とサクラの開花
ウメがサクラより遅れた2013年
 ウメの開花は冬の終わり、サクラの開花は春の始まりの知らせ。僅かの差ではあるが、感覚的に日本人はウメを冬、サクラを春としている。このイメージはおそらく年齢にかかわらず、地方にもよらず一般的と思われる。生物季節学でもその差ははっきりと認められている。
  南北に長い日本では西南日本では、ウメからサクラの日数は長く、東北日本では短い。これも一般的に知られている。では、近年まれな寒さであった2013年はどうであったか、興味あることである。日本列島の南と北の差は強調されたのか、弱まったのか。
  2013年、豪雪と極端な低温に見舞われた本州の日本海側の人びと、東北日本・北海道に住む人びとは春を待ち望んだ。四国・九州の暖地からのサクラ開花のニュースは羨望の的であった。3月の終わりだったか、4月の初めであったか、筆者が住む盛岡近傍の人たちの話がある時、私の耳に飛び込んで来た。
  「今年はウメの花が遅い。何かおかしい。もしかすると、サクラのほうが先に咲くかも知れないヨ」
  私は、
  「そんなバカな話があろうか。。。。」
  と思った。
  ところが、5月初めになって、我が家の庭のウメとサクラは例年と異なり、3日・4日の差ではあるがサクラのほうが開花・満開が早かった。土地の人たちの言葉は、やはり経験に基き確かで、植物季節学の“常識?”より正しかった。大いに感心した次第であった。そうして、今年のようなウメとサクラの開花日や満開日到来の逆転は過去にもあったのではなかろうかと推察した。
2013年冬の気温の推移
そこで、気温の推移をまず調べてみた。(表1)は2013年を寒冬年、2007年を暖冬として、それぞれ前年12月から当年1月・2月・3月の月平均気温を示す。
| (表1)北日本における暖冬・寒冬年の月平均気温(℃) | 
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 この表からわかることは次のようである。
 (1) 2013年の寒い冬は前年12月にすでにかなりひどかった。
 (2) 2013年1月の月平均気温は、東京を除くと、日本海側・東北地方で約3℃暖当年の月平均気温より低かった。
 (3) 2013年2月東京は非常な高温に転じた。
 (4) 2013年3月、東京は2月と同じく非常な高温になり、この傾向は東北地方にまで及んだ。
 (5) 新潟と東京の気温差は暖冬年の2月には3.5℃、3月には4.8℃だが、寒冬年には2月には11.4℃、3月には9.2℃で非常に大きい。
 (6) 3月になって、暖当年と寒冬年の差はほとんど無くなった。ただし、東京は寒冬年の2月からの状況が続いた。
  以上のような状況を頭に入れて、次にウメとサクラの開花日を考えてみたい。
2013年のウメの開花日
ウメの開花日の平年の推移は(図1)(上)に示す。(図1)(下)は2013年の観測結果である。

(図1)ウメの開花日の(上)平年値と、(下)2013年観測値による等期日線図。
 上の図と下の図では、一見同じように見え、大きな差は無いように思えるが、これは10日ごとの等期日線を引いてあるからである。よく見ると細かな差があり、特に本州の北ほどその差が大きい。ただし北海道はデータ不足(この原稿執筆中、まだ開花前)で、はっきりしたことは言えない。
  (図1)(下)の2月28日線によくその特徴が表れているが冬の積雪深の影響が大きい。舞鶴付近から中央日本を経て仙台付近に至る線は東海地方とよいコントラストを示している。ただし、平年より遅い日数は13~19日であった。異常なのは仙台が29日、水戸が36日であった。ここにも寒冷年の気象状況の異常性の特徴が表れているように思える。すなわち、太平洋側気候と、日本海側気候との境界線より南にずれた地域で、換言すれば北の寒冷地域が南に張り出してきた地域で、その影響が寒冷年にはっきりしたのではなかろうか。今後の研究を待ちたい。
ウメとサクラの開花日・満開日の差に影響する要素
 上に述べてきたことをまとめると、以下のようである。
 (1) 1月・2月の低温がウメの開花・満開を遅らせる。しばしば25-30日、場合によっては30日以上遅らせる。その地点は日本海側気候地域と太平洋側気候地域の境界線の南側で、境界線に近い太平洋側であることが多い。これは低温に加えて、積雪の影響が大きいのではないかと思われる。
 (2) サクラの開花・満開には3月の気温の影響が大である。2013年がよい例であるが、東京では2月から、東北地方では3月から暖当年より気温が高くなった。従ってサクラは早く開花・満開を迎えた。
 (3) 上記の(1)と(2)の結果、地点によってはサクラの開花・満開がウメより早くなった。
 
         
      





