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暮らしの中のバイオクリマ

No.2

2012.01.25

吉野正敏

冬将軍来たる

冬将軍

 月平均気温が最も低い月を最寒月という。大陸性の気候の地点では1月である。日本のような島国は海洋性の気候だから寒さが来るのが遅れて、ほとんどの地点で2月である。
 しかし、一冬の中で波があり、特に低温な数日を寒波と呼ぶこともある。冬、ユーラシア大陸に形成される大きな強い高気圧から低温な風が吹き出す。これが冬将軍の実態である。
 どうしてこれが冬将軍なのであろうか。よく考えてみると、理由はわからない。昨年末、日本に近い国で“将軍さま”が亡くなった。それに対する人びとのなげきようの姿を写し出したテレビの演出もさることながら、将軍とは絶対権力者であることは理解できる。大将は将軍より力がない。しかし若大将となると、いつまでも若く、美しい歌声は女を魅了する。青大将となるとヒャー御免。。。。老兵は消え行くのみ、これは筆者のことか。
 それにしても、春将軍も、夏将軍も、秋将軍も聞いたことがない。これが冬の暮らしの中で、さらに低温になる期間のインパクトが大きく、重要なことを物語っている。これが冬将軍の本質であろう。したがって、熱帯にも、寒帯にも、冬将軍の名は知られていない。世界的にみれば、大陸上に形成される冬の高気圧からの吹き出しの縁辺部でしか、やって来ない。

冬将軍のお付き武官

  将軍は一人ではやって来ない。必ずお付き武官とともにやって来る。お付き武官には参謀もいれば、実戦部隊の長もいる。冬将軍に付いて来るのは、極端な低温、強い風とそれに伴うごうごうという音、吹雪、いったん地上に積もった雪が風で巻き上げられる地吹雪、ホワイトアウトと呼ばれる白一色の環境空間などなどの現象である。
 家の周りでも、家と物置きなどの建物の間でも、垣根の切れ目や大木の根元などでも、ちょっとした障害物の影響が風下に現れる。吹きだまりができ、大小さまざまの雪の丘ができる。雪かきをしてやっとあけた道が、アッと言う間に、元通りの深い雪に埋まってしまう。これは経験した人でないとわからない。絶対的な力に、人はひれ伏すより手がないのである。
 道を歩くことはもちろん、自転車・自動車交通は完全に不可能、鉄道・船・空の便も運転・運航を控えることを余儀なくされる。最近の問題は、長距離バスや長距離トラックが国道や高速道路でこのような雪による災害に巻き込まれることが多い。
 2011年12月から2012年1月にかけて、この冬はすでに大雪の傾向があることが現れた。本州の日本海側、山陰・北陸・東北地方など昔からの豪雪地帯で積雪量は平年を上回った。最近、地球温暖化で冬は暖かく、昔に比べて雪はまったく少なくなっているのに、昔の大雪ほどではないにしても、昨今としては大雪と言えよう。暮れから正月にかけても低温で、雪が解けない状況が続いた。

極端な低温

 最近、中国の研究者が、過去400年における冬の極端な最低気温の発生頻度について研究した。まず1951年以来の毎年の最低気温を低い方から並べて下から10%までの値を抜き出した。最低気温の極値は冬季全体の場合と1月だけについての場合の二つについて調べた。その結果をまとめると(表1)のとおりである。

(表1)華南における過去400年における極端な低温の出現*。20世紀後半を基準として比較した。

時代17世紀 18世紀 19世紀 20世紀 
 前半後半前半後半前半後半前半後半

極端な低温の出現2倍以上2倍以上2倍以上(基準)
 やや多やや多 
 ほぼ同じほぼ同じ 

*資料は、地理学報(2011)、66(11)、1479-1485により筆者が作表。

 この表によれば、小氷期と呼ばれる17世紀前半から現在(20世紀後半)までの気温変化は波があり、(1)17世紀後半、19世紀戦半と後半は最低気温の極値の出現は現在より2倍以上多かった。一方、18世紀前半と後半は現在とほぼ同じであった。20世紀後半は地球温暖化が進み始め、かなり顕著になった時代である。それにもかかわらず、小氷期と同じくらい頻度としては極端な低温が出るということは、充分注意しておかねばならない。華南だけの問題ではなく、日本を含めた東アジア全体にも、あてはまるだろうと考えられる。
 平たく言えば、温暖化した暖かい冬にはさまって、非常に寒い冬も必ず来るということである。冬将軍は必ず来る。われわれは、それを迎え討つ備えを、怠ってはならないと思う。


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