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暮らしの中のバイオクリマ

No.44

2013.09.04

吉野正敏

2013年夏の異常豪雨

地域性・局地性の実態

 昔は1日に50mmも雨が降ったらば大変に異常な現象であった。災害の面積や程度もひどく、各方面への影響も甚大であった。ところが、最近では1時間に50mmの雨が頻発し、100mm以上の情報は日常化しているようにさえ感じる。“異常”な現象も頻発すれば、“平常”な現象になってしまうのか。
 2013年の夏、6月は北日本では特に雨が少なく、平年の53%で、過去3番目の異常乾燥であった。西南日本や関東で梅雨が例年より早く明けて夏になると、7月、8月は猛暑に見舞われた。他方、北日本や本州の日本海側では梅雨が明けず、記録的な豪雨が各地から報じられた。この猛暑については次回以降に述べることにして、今回はこの記録的な豪雨とそれに伴う洪水被害などの問題について述べたい。

記録的な豪雨のクロニクル

 まず、2013年7月~8月の豪雨の地域性・局地性を見るために日記風に事態の推移を(表1)にまとめた。

(表1)2013年7~8月の日本における局地的豪雨とそれによる災害

日付発生地域現象主な被害状況その他

7月8日東京都局地的雷雨落雷
7月8日全国616地点真夏日 
7月18日東北地方約250mm/24時間、山形県西川町
約64.5mm/時、山形県鶴岡市
避難指示・土砂崩れ・断水
 東海地方約110mm/時、静岡県河津町 
7月23日関東地方約100mm/時、東京都内浸水・落雷停電・鉄道運休・道路通行止め
7月26-28日岩手県42.5mm/時、大槌町
148.5mm/24時間、一関市大東町
150.0mm/24時間、陸前高田市
浸水・土砂崩れ・鉄道運休・避難指示・避難勧告
7月28日中国地方138.5mm/時、山口県萩市
91.5mm/時、島根県津和野町
143.0mm/時、山口市(未登録雨量計)
土砂崩れ・河川氾濫・死者1・行方不明3
7月29日近畿地方41.5mm/時、滋賀県島浜市 
7月合計東北地方平年の182%の雨量 
 北陸地方平年の160%の雨量 
8月1日中部地方新潟県長岡市寺泊山崩れ
8月4日中国地方山口県、島根県豪雨激甚災害指定
8月5日東北地方福島県二本松市、110mm/時土砂崩れ
 関東以西栃木・愛知・岡山・佐賀県で110mm/時以上 
8月9日秋田県仙北市、鹿角市、108.5mm/時避難勧告
 岩手県雫石町、110mm/時以上、263.5mm/24時間新幹線不通・避難指示・床上浸水
  紫波町、71.0mm/時、206.4mm/24時間記録1位
  矢巾町浸水
  花巻市大槌町土砂崩れ
  繋温泉山崩れ・浸水
 青森県西目屋村 
 北海道八雲町 
8月9日高知県四万十市、39.3℃ 
 全国30℃以上の真夏日600地点以上で7・8・9日の3日連続
8月12日秋田県・岩手県12日現在の被害 
  秋田県豪雨災害による死者4
  岩手県8市町村床上浸水304戸・床下浸水855戸
8月12日高知県四万十市、41.0℃国内で過去最高
8月16日山梨県河口湖水位8月の過去10年平均より約1.4m低下
8月17日北海道JR函館線砂利流失で脱線(9日にも流失)
8月19日秋田県北部の八峰町、54.5mm/時 
  仙北市田沢湖町116人避難、新幹線運休
8月21日東京都小河内ダム人工降雨装置試運転
8月22日富山県高岡市 60.5mm/時 
 石川県羽昨市 46.5mm/時 
 山形県西川町・南陽市、大雨冠水集落孤立・住民避難
 福島県喜多方市、大雨 
8月24日福井県小浜市、竜巻・突風 
 兵庫県篠山市、竜巻・突風 

(注:データソースは種々で精度未確認であり、採取基準は主観的にならざるを得なかった。速報値として、概観に役立てるため参考として提示する。したがって、(表1)の引用は不可)

豪雨の地域性とその周期

 (表1)からわかることを、まず、まとめておこう。
(1) 関東・東海では7月8日頃第1波、7月23~29日頃第2波、8月5日頃第3波が来た。第1波から第2波まで15日、第2波から第3波まで7~13日である。
(2) 東北地方の日本海側では7月18日頃第1波が山形県へ、7月26~29日頃第2波が岩手県へ、8月5日頃第3波が新潟県へ、8月9日頃第4波が秋田・岩手・青森の諸県・北海道へ、8月17・18日頃第5波が北海道から秋田県などで発生した。関東・東海地方に比較して第1は10日遅く、第2は3日遅かった。しかし、第3波はほぼ同時、言い換えれば、規模の大きい(地域的に広い)ものであった。
(3) 中部地方・中国地方の日本海側では、7月28日に第1波が山口県、29日には石川県へ、31日に新潟県で第2波、8月4日に山口県・島根県で第3波として出現した。
(4) 上記の(2)と(3)を合わせて考えると、2013年夏は7月26日頃から8月9日頃までが最も豪雨活動が盛んであったことがわかる。ついで、8月17日頃から8月24日頃までが盛んであった。地域的には北九州から本州の日本海側、東北地方、北海道の1部であった。

典型的な豪雨の天気図型

 いったん梅雨が明けてから、真夏になってまた梅雨のような天気になることは、これまでにもよくあった。特に、地球温暖化した近年はよく発生し、これを“もどり梅雨”とか、“梅雨のもどり”とか呼んだらどうかと述べたことがある。筆者の“極端化する気候と生活”(古今書院、2013年)を参考にしていただければ幸いである。しかし、日本人の梅雨のイメージは陰鬱な天気が毎日続き、雨がシトシトと降る高温多湿な雨季である。上述のように、1時間に数十ないし100mm以上、あるいは24時間に200~300mmもの強い多量の降雨現象のイメージとは合わない。2~3日続く波が幾日かおいてやって来て、波と波の間は猛暑というのも特異である。筆者自身、命名に困っているのが本音である。「盛夏豪雨」もよいかと思う。
 名称はともかくとして、ここで、(表1)にあげたような豪雨をもたらす典型的な天気図型を紹介しておきたい。(図1)は2013年7月28日18時の地上天気図である。


(図1)2013年7月28日18時の地上天気図(気象庁による)

 この図に見るように気圧配置は典型的な南高北高型(梅雨型)である。停滞前線は華北から朝鮮半島の中部を横切って日本海中央部に延びている。本州の日本海側にほぼ達する状況にある。沿海州から北日本にかけては弱い低気圧があり湿った気流が大陸内部に流入している。
 停滞前線の南側(低緯度側)と北側(高緯度側)のコントラストはきわめて明確で、南側は北太平洋高圧に蔽われ、晴れて、高温多湿の南西からの気流が入り込んで、猛暑である。北側では不連続面を上昇する気流の中で雲が発生し、さらに対流圏上層には高緯度からの比較的低温な気塊が偏西風に乗ってこの地域にやって来て、上昇気流は加速され積乱雲が次々と発達する。この下では異常な豪雨となる。地球温暖化の影響で日本海の水温が上昇するとこの上昇気流は強くなり、前線付近の大気活動を活発化する傾向にある。
 中国の東北部から沿海州を経て北海道・北日本は、低気圧の発生や発達を大陸表面温度や日本海表面水温の上昇で強化する。2013年の夏、中国東北部やアムール川の洪水が報道されているが、一連の現象である。
 このようにみると、この停滞前線は盛夏豪雨の立役者と言ってよかろう。実は気候学的にはこの停滞前線はユーラシア寒帯前線帯の東アジアの部分で、半球規模のものの1部分なのである。だから上層の偏西風の振る舞いとも関連しているのである。地域的な現象であるが、半球規模の現象に繋がっている好例である。


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