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暮らしの中のバイオクリマ

No.31

2013.03.06

吉野正敏

つらら

2013年の大型「つらら」

 昨今、地球温暖化のため暖冬が多かった。地上の積雪は少なくなり、軒から下がる「つらら」は貧弱になったように思われている。
 ところが、2012年末から2013年1月・2月は近年まれな低温と豪雪に見舞われた。「つらら」の発達も見事である。(写真1)は 2013年1月6日に撮影した「つらら」で、最も長いもので約2mあった。その後、さらに発達し最長の1本は2月25日には地上に達した。


(写真1)つらら
(2013年1月6日13時20分。岩手県雫石にて、吉野撮影)

 そこで、今回は「つらら」について少し述べておきたい。

つららは何の指標か

 「つらら」の語源は「つらつら」と言われる。氷の表面がつるつるして、写真に見るとおり光沢があり、日光に輝くさまはまことに美しい。古くは「たるひ」(垂氷)と呼んでいた。現在でも、東北地方の方言の「たろひ」として残っているという。
 屋根から流れ出す水が軒先からしたたる時、水滴は氷に成長して次第に長くなる。したがって、1日の間、あるいは2~3日の間に寒暖の差があって結氷する時間帯と解凍する時間帯が繰り返されなければ成長しない。寒い期間には軒先から垂れる水滴は、すでにできている「つらら」に沿って垂れ下がってゆく途中でみな凍ってしまうから、太くて短い「つらら」になる。一方、比較的暖かい期間には流れ出る水滴の量も多く「つらら」の先端まで水の状態で流れてきて、そこで凍ることが多いので、細くて長い「つらら」ができやすい。「つらら」自身も暖かさのため痩せ細ってゆく。
 (写真1)をよく見ると、太くて短いものと、細くて長いものがあることが分かろう。そうして、さらに興味があるのは太いものには中に気泡が含まれていて、白く見える部分があることである。これは水滴の冷却作用は表面が速いので、温度条件によっては気泡が含まれたまま凍ってしまうからである。このように、「つらら」は過去1日ないし数日間の寒暖の歴史を物語っているのである。しかし、屋根の場合その屋根が南向きか北向きかなどの方向の差があり、また勾配の差がある。さらにその屋根の下が、火を使う台所か、終日暖房を入れてある居間か、火を使わない物置かなどによって、屋根裏の寒暖の条件が異なるから、1軒の家でも、軒先の「つらら」の発達は非常に異なる。

滝の氷柱

 家の軒先ばかりでなく水量の少ない滝や、滝しぶきが凍りついて氷柱ができる。長さ数mにも及ぶ見事なものは観光資源にもなる。
 成長する過程は軒先と同じだが、水量と微地形条件によって決まる。日本における主な滝・渓谷の氷柱を(表1)に示す。

(表1)日本における大きな氷柱「つらら」ができる滝・渓谷*の一覧

名称道県名市町村名

層雲峡北海道上川町
乳穂ヶ滝青森県西目屋村
広瀬川上流宮城県仙台市青葉区
月待の滝茨城県大子町
雲竜渓谷「氷壁」栃木県日光市
早滝群馬県神流町
三十槌の氷柱埼玉県秩父市
富士サミットフォール山梨県鳴沢村
大禅の滝長野県北相木村
横谷峡「屏風岩氷瀑」長野県茅野市
御船の滝奈良県川上村
七曲滝「氷瀑」兵庫県神戸市北区
扁妙の滝兵庫県神河町
白猪の滝愛媛県東温市
難所ヶ滝福岡県宇美町
古閑の滝熊本県阿蘇市
仙酔峡熊本県阿蘇市
七折れの滝大分県九重町,玖珠川

* ウィキぺディアの資料による

 この(表1)によると、「つらら」ができる滝の名所は本州の日本海側の豪雪地帯ではなく、その周辺・縁辺地域である。北海道・青森県の例を除けばいわゆる太平洋側気候地域で、東北地方の南部から関東地方・中部地方を経て、西南日本の九州に至る地域である。これは非常に興味のある事実で、やはり寒冷なだけではなく、寒冷な期間と温暖な期間が交互に来ること、言い換えれば、豪雪はなく、寒暖が交互に来る境界地域で、にじみ出るある程度の水量があるところで、それに加えて、もちろん滝ができる微地形条件が整う地域にあることがわかる。

「つらら」が最も長くなる時

 「つらら」は冬のいつ頃が最も長くなるだろうか。この疑問に答える長期間の観測データは知られていない。筆者の考えでは一冬の最深積雪を観測する頃ではなかろうかと思う。日本における過去の最深積雪の記録を第1位から第10位まで拾ってその出現した日付けをまとめると(表2)のとおりである。

(表2)日本における最深積雪(第1~10位)を観測した日

1月 2月  3月  4月合計

 

年数20124000110

 これを見ると1月中旬から始まり2月に入り次第に多くなり2月下旬の極大の後、劇的に3月の0となる。4月上旬に1回あるがこれは例外的と見てもよかろう。

「つらら」の長期変動

 最初に「つらら」が最近発達しなくなってきたような気がすると書いた。しかし、これは証拠が無い。家の構造も昔とは変わってきた。台所の火や部屋の暖房などの生活スタイルも変わってきた。気候の変化のためだけでは説明できないであろう。(写真1)を詳しく見てもらえばわかるが、画面右下に換気扇があるのでわかるようにここは台所で火を多く使う。その左(画面奥)は居間である。台所の軒から下がる「つらら」は居間の軒から下がる「つらら」より約2倍長い。「つらら」の長期間の観測記録はこれまで、発表されたものが無いようである。これからでもよいが、計画的な観測をする必要があるように思う。一見科学的には高度の記録と言えないように思えても、バイオクリマ、特に住環境に関係する環境の指標を提供するのではなかろうか。


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