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暮らしの中のバイオクリマ

No.34

2013.04.17

吉野正敏

花にあらし・花冷え・花曇り

サクラと天気変化

 サクラは日本の季節を彩るばかりでなく、日本人の心を捉え、性格までを表現する。サクラの花の下で“ドンチャン騒ぎ”をしなくても、サクラのトンネルを散策し、遠くからそして近くからサクラの花を静かに楽しむのをよしとする。老いも若きも、そして親に手をひかれた幼児まで“きれい、きれい”と声をあげる。日本人の心理に関係するバイオクリマでこれ以上のインパクトはない。
 そのサクラの花がいつ開花するか、満開になるかは最大の関心事である。季節学の大きな課題として研究もされてきたことは、この連続エッセイで何回も取り上げてきた。そして、開花し満開になっても、青空のもとでお花見をいつでもできるわけではない。春の天気の変化は激しい。花にあらし・花冷え・花曇りなど、サクラの花が咲く頃の天気と結びついた語が多いのもそのためであろう。2013年3月は1~2月の低温・豪雪に続いて、異常高温に見舞われた。その展開も異常であった。

サクラの開花 ― 3月の気温との関係

 2013年3月は、サクラの開花・満開が3月の気温と高い相関関係にあることを思い知った。2013年1~2月は低温であったが3月になって急に暖かい日が多くなりサクラは例年よりかなり早く咲いた。詳しくは後で述べる。
 日本の宮中における観桜の御宴は平安時代(781-1185年)の嵯峨天皇の弘仁3(812)年に始まる。9~10世紀の22回の日付の記録から、この観桜宴の平均日を求めると4月10日(太陽暦)となる。この値は現代の京都のサクラの満開日と比較すると約5日早い。すなわちこの時代が温暖であったことがわかる。これは3月の月平均気温が1~1.5℃高かったことに相当する。
 京都におけるヤマザクラの満開日のデータの復元は、9世紀以降について青野靖之(地球環境、17、2012)が行った。太陽活動の盛衰や都市の温暖化(地球規模の温暖化とヒートアイランドによる温暖化の両方を含む)との関連があり、19世紀前半から現在に至る気温上昇幅3.4℃のうち、1.6℃がヒートアイランドによるものとされた。

サクラの開花日の最近の変化

 最近の約60年間のサクラの開花日の変化を(図1)に示す。年々の変動およびこの60年間の傾向を直線(黒の実践)で示し、また1980年以降の約30年について傾向線(赤線)で示した。最近の30年については、特に近年早くなる傾向が明瞭なことがわかる。1980年ごろに比較してすでに6~7日早くなっている。


(図1)最近約60年間のサクラ開花日の変化。

 そしてこの傾向線の上下にかなり大きな年による変動の波がみられる。これが3月の開花期間に現れる花あらし・花冷え・花曇りなどの影響の結果と考えられる。

2013年3月の夏日・強風

 2013年3月は異常気象の展覧会であった。3月8日気温が急に上昇し5月並みの気温となった。8日の最高気温は東京都心では23.2℃、10日には25.3℃に達した。これは東京で観測統計を取り始めた1876(明治9)年以来最も早い夏日であった。10日午後は風が強まり砂埃で空が赤黒くなり、視程は悪くなり10km以下になった。全国的に風が強まり福島県の白河市では最大瞬間風速は毎秒38.0mに達した。これは過去最大記録であった。
 最近の開花日・満開日に比べて、場合によっては1週間以上、10日も早くなる予想が出てきた。つまり、サクラの開花・満開は3月下旬、場合によっては3月中旬という予想が出てきて、花見関連のイベントの準備や工事が間に合わない場合が多く出た。東京スカイツリー・横浜三渓園などの準備関係者のあわてぶりがテレビ・新聞で報じられた。

サクラ前線の異常

 サクラの開花日・満開日の等期日線図をサクラ前線の移動の図と見立てることがしばしば行われる。この連続エッセイでもそのように見立て、説明に使ってきた。


(図2)サクラ開花日の等期日線図。1971-2000年の平年値。

 (図2)はその平年の状態である。四国・九州の太平洋沿岸・長崎県などで3月25日より早く、東京で3月31日頃である。しかし、(図1)で指摘したように、(図2)の1971~2000年の平均の状態から近年はすでに5~7日早くなっているとみなければならない。その上、さらに今年の特殊状態を加味しなければならない。中央日本以西の2013年の状態は(表1)に示す。

(表1)地域別に見た2011年・2012年・2013年のサクラの開花日の遅速。+は遅い、-は早い

地域(地点平均)2012-2011年2013-2011年2013-平年

青森・盛岡・仙台・秋田+3.8 日
新潟・富山・金沢+3.0
前橋・熊谷・東京+3.7-12.3日-9.9日
長野・名古屋・京都・奈良・鳥取+4.2-8.5-7.8
広島・松山・高知・宮崎・鹿児島+1.8-8.6-7.8

(作表は2013年3月27日現在の気象庁資料による)

 この(表1)からわかることは、関東では開花日の早まりは大である。西南日本ではやや小さい。これまでの状況と似ていれば北日本の2013年の早まりは約10日であろう。すなわち、(図2)の等期日線図が示す日付から約10日早い状態を推定すればよいであろう。

花冷え

 2013年東京では開花してから気温の低めの日が続きお花見のできる期間が長かった。言い換えれば、開花から満開になるまでの日数が長くなり、満開の期間も長かった。春のあらしが、サクラの花びらを一斉に散らすように適度に吹いた場合、花吹雪は見事であった。 花冷えは恩恵をもたらすこともある。


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