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暮らしの中のバイオクリマ

No.26

2012.12.26

吉野正敏

100%のバイオクリマ対策はあるか?

東日本大震災のバイオクリマ

 東日本大震災の直後、津波被害地を現地調査で訪れて帰って来た友人の誰もが言った。“テレビなどで津波が押し寄せて来て市街地をひとなめにする映像を見て、被災地の惨状を想像してはいたが、現地で見る惨状には大きなショックを受けた。声も出なかった。出るのは涙だけだった。”
 友達とはそれぞれ、分野が少しずつは違っていても、広い意味では地球環境に関する専門の研究者である。科学研究者とは物事を客観的に見ることが身に染み付いている人達である。その人たちが、全員、100%の人が被災地では人間として、現地で親や子を亡くした、妻あるいは夫を亡くした、住んでいた家、働いて居た建物が跡形もなくなってしまった・・・・深い悲しみになすすべを失って居る人たちへ、あまりのショックのために、研究者としてではなく、人間として声も出なかったのである。実は私もその一人であった。
 今回の東日本大震災とバイオクリマのかかわりについてはこの連続エッセイで何回か触れた。しかし、今回は、これまで考えてこなかった『全員』、『100%』という問題を考えてみたい。研究者側をこのようにさせる被災地における被災者側のショック・悲しみは深刻で、これまで指摘して来たようにバイオクリマの重要課題と思う。

バイオクリマは確率で表現できるか? するべきか?

 ときどき耳にする病名に“奇病”、すなわち、非常にまれにしか発症しない“奇妙な病気”がある。何万人に一人、何十万人に一人しか罹らない病気のことで、研究もよくされていないし、まれにしか患者さんが病院を訪れないから、対策・治療方法もほとんどわからない。患者の立場から言えば、罹ったら最後、そのものズバリの薬は無いし、十分な治療は受けられないと覚悟しなければならない。
 しかし、よく考えてみると、例えばこの連続エッセイ[23]で扱ったインドにおける厳しい熱波の場合、全国で熱波による死者は千数百人である。仮に1,500人として、これが一万人に一人の確率による死者とすれば、人口総数一億五千万人で、数字としては話が合う。これは死者だから熱中症の被災者の10人に一人が亡くなられたとすれば15億の人口に対する死者数で話が現実としてよく合う。細かい議論をしなければ、桁数は合うのである。私が言いたいのは、「“奇病”と言うような病気はバイオクリマに関してはない」と言うことである。
 もし、確率で、何百万人に一人などと言っても、もはや現実には何の意味もないであろう。ただ、われわれがその病気を知らなかっただけである。

津波災害とバイオクリマ

 地球環境問題としての津波災害については、雑誌『地球環境』の18巻1号(2013年2月刊行予定)の『東日本大震災』特集号に筆者が書いた。それを参照し、特にバイオクリマに関することをここで再考してみたい。
 津波災害にかかわるバイオクリマの項目は以下のとおりである。簡単な解説を付けておく。項目は順不同である。

(1) 食品:食料品不足。高温な季節ならば、腐敗・品質悪化。配給品が嗜好に合わない。
(2) 飲料水:不足。汚染。
(3) 生活環境:入浴・トイレ・生活空間汚染。
(4) 精神衛生:うつ病悪化。不安定。安眠不可能。心理活動。
(5) 医療:直接な対策をとりうる最重要活動。
(6) 燃料・ガソリンなど:不足。不十分・不適切な交通手段・物資輸送形態が2次災害として影響する。寒冷季には暖房不能。生活環境悪化につながる。
(7) 情報・メディア:不足。伝達方法の確立。精神衛生につながる。
(8) 停電・節電:日常生活・医療機関の活動に深刻な結果をもたらす。
(9) 物価・物流:不十分・不適切な状況が2次災害を発生させる。
(10) 雇用・失業・就職:物心両面から生活・バイオクリマの安定化に関連。
(11) 犯罪・デマ:精神衛生に深くかかわる。場合によっては公権力・政治による鎮圧が必要。ハッカー対策が必要。
(12) 教育・イベント参加:良好な質の向上にかかわる。
(13) 火災・爆発事件:直接被害・精神衛生障害にかかわる。
(14) がれき:景観悪化。破壊・風化・自然発火などによる周辺住民の生活負荷増・バイオクリマ悪化。

 以上のとおりである。なお、実際には、この中でも最も早く対策をとらねばならないもの、地方行政機関ではなく国が政策決定しなければならないものなどさまざまある。それを整理し、被災者個人・家族友人知人・避難所全体・市町村行政機関・ボランティア・各省庁など、どこが対応すべきか、よく検討して行動に移らねばならない。

生活が100%ということはありえない

 上記の13項目は重要なものを集めた。これ以外にもあろう。しかし、これを見て読者は気がつかれたと思うが、これだけでも、われわれの生活のほぼ全体である。バイオクリマがわれわれの生活の全体を対象としているのだから当然である。しかし、“ほぼ全体”であって、完全に100%ではない。わからない部分がある。
 逆説的ではあるが、“ここが人間として生きて行くのに、おもしろいのだ”と言ったら叱られるだろうか。


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