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暮らしの中のバイオクリマ

No.50

2013.11.27

吉野正敏

大気汚染の季節 ―PM 2.5によせて―

悪化する大気汚染

 今年も秋が深まって、北日本ではすでに冬景色、除雪車が出動したと言う。日本を含む東アジアには、シベリアに形成される高気圧からちぎれて次々と移動性高気圧がやってくる。移動性高気圧の中は寒冷で晴天、風はおだやか、しかも次第に夜の時間が長くなってくるので放射冷却により接地逆転層が発達しやすくなる。この逆転層内には大気汚染物質が溜まる。また、大気汚染の源となる家庭用暖房から排出される煤煙の量は当然冬季に多い。これらが重なって晩秋から冬にかけて、大気汚染はもっともひどくなる。
 中国では近年、工業化や都市化が急速に進み、大気汚染物質が多量に排出されるようになってきた。筆者が初めて北京を訪れたのは1980年1月、30年以上も前だったが、そのひどさには驚いた記憶がある。その時撮影した北京の状態は筆者の「小気候」(1986、地人書館)にも紹介した。
 中国のモータリゼイションは急速で、1990年代後半から急速に大気汚染が悪化した。そして、最近ではアエロゾル粒子の中の微小粒子状物質PM 2.5についての関心が高まってきた。日本にも飛来している。今回はこのPM 2.5 やこれに関わる煙霧の長期変化などを紹介したい。

煙霧

 大気汚染に関連してよく聞かれる語は煙霧である。スモーク(smoke, 煙)とフォッグ (fog, 霧)を合わせてスモッグ(smog)と呼ばれる。
 日本の気象庁では視程が10km未満で、かつ、霧が無いことが確実(湿度が75%未満)の時、煙霧(スモッグ)と言う。目視観測ではあるが日本各地で長年観測データが蓄積しているので、PM 2.5を含むアエロゾル粒子による大気汚染の長期変化の指標として、価値がある。(図1)は東京と福岡における1990年から2012年までの年煙霧日数の変化を示す。


(図1)東京(上)と福岡(下)における年煙霧時間の変化。1990年~2012年(竹村、2013による)

 東京では1996年に極大となり、その後、減少化傾向が明瞭である。これは日本の大都市の煙霧時間の減少に、大都市の大気汚染対策が効果を上げているためと考えられる。これに対し、福岡は増加・減少の波があり、一定の傾向が認められない。特に2010,2011、2012年と次第に上昇している。これは越境大気汚染の影響と考えられる。以上の研究結果の詳細は、煙霧の経年変化に関する最近の研究(山口・竹村:天気、58、965-968、2011;竹村:日本風工学会誌、38(4)、426-433、2013)に発表されている。

越境大気汚染

 日本における大気汚染が国境を越えて飛来するのは黄砂と同じく春に多い。これは春になるとシベリアに冬形成された大きな高気圧からちぎれて、中国を経て東アジアにやってくる移動性高気圧が多くなるからである。そして、この移動性高気圧の後から東進してくる気圧の谷(低気圧)の南~南西の気流に乗って、移動性高気圧内に閉じ込められていた汚染物質が日本列島にやって来ることになる。このため、西日本でその影響は大きい。福岡は東京より越境大気汚染の影響を受けやすい結果となる。

微小粒子状物質、PM 2.5

 粒子を1個ずつ測定するのではなく、50%の捕集効率(濾過効率)を持つフィルターを通して採集された粒子径の異なる微粒子のまとまりを、質量の中央径または微粒子数の中央径で捉え、その値が2.5μm以下のものをPM 2.5と呼ぶ。
 PM 2.5 のWHOの大気質指針暫定目標(2006年10月~2007年3月公表)と日本の環境基準(2009年9月9日告示)を(表1)に示す。日本の値はWHOの目標3に近い。かなり厳しい値である。

(表1)PM 2.5のWHOの大気質指針目標と日本の環境基準。(単位は µ g/m³)

 WHO 大気質指針目標日本の環境基準
目標1目標2目標3

年平均35251515以下
日平均(24時間平均)755037.535以下

 疫学的には微小粒子状物質の濃度が高いほど呼吸器疾患や心疾患による死亡率が高くなる。PM 10浮遊粒子状物質よりもPM 2.5の方が健康により強い影響を及ぼす。
 慢性気管支炎や肺気腫を含めた慢性閉塞性肺疾患の患者は、健康な人よりも沈着量・沈着速度ともに大きく、特に気道の病変に応じて大きくなる。また、沈着量より沈着速度が大きく増加するとも言われている。人に対しては、ディーゼル排気ガス・ディーゼル排気微粒子が喘息やアレルギー性鼻炎を悪化させる可能性が強い。
 最近のPM 2.5について2~3を紹介しよう。 2010年4月、東アジアでは黄砂や人為的活動由来の煙霧の越境が深刻であった。2011年2月上旬、九州を中心とした西日本では約1週間、大気がかすむ現象が起こった。光化学オキシダント濃度も高くなかったので、気象庁は煙霧と記録したが、PM 2.5 と考えられる。
 2011年5月オーストラリアでは粒子状物質を含んだ煙霧が広がり、深刻な大気汚染に見舞われた。問題は南半球にも拡がったことをわれわれは知った。

中国の大気汚染

 2013年1月から2月にかけて、北京などで発生した大規模な大気汚染は日本にも影響をもたらした。2月8日、PM 2.5の観測値は、日本の環境基準の日平均値(24時間平均値)の約3倍の1時間値を記録した。
 2013年1月7-13日の中国における煙霧日数の分布図である。


(図2)中国における2013年1月7~13日の煙霧日数分布(中国中央気象台による)

 中国の内陸部・華北から揚子江中・下流部にかけた大都市や工業地帯が集中する広い範囲の地域に大きい値が分布する。その他、比較的少ない1~2日、3~4日の地域が中国東北部の諸地区、北西部の新疆地区、黄河中流部、華南の沿岸部にも見られる。中国の急速な発展を考えるとこれらの地域もすぐに深刻な状況に見舞われるようになろう。越境汚染の問題もあり、汚染源地域として今後見逃せない。
   中国では空気質指数(AQI)を6段階のレベルに設定・分類して健康への影響をまとめている(表2)。

(表2)空気質指数(AQI)とレベル・状況・表示色・健康への影響

空気質指数空気質指数
レベル
空気質指数類別及び表示色健康への影響

0~50レベル1非常に良い緑色空気質が非常に良く,空気汚染がほとんど無い。
51~100レベル2良い黄色空気質が良い,一部汚染物はごく少人数の敏感者の健康に弱い影響を及ぼすかもしれない。
101~150レベル3軽微汚染オレンジ色敏感者の症状は少し激化され,健康者は刺激症状が現す。
151~200レベル4中程度汚染赤色敏感者の症状がさらに激化され,健康者の心臓,呼吸器に影響を及ぼすかもしれない。
201~300レベル5重度汚染紫色心臓病と肺病患者の症状が明らかに激化され,運動能力が低下し,ほとんどの健康者も症状が出る。
>300レベル6厳重汚染あずき色健康者の運動能力が低下し,強烈な症状があり,一部の病気が早めに発生する。

 日本でも同様の分類によって健康への影響をマニュアル化する必要がある。なお、空気質分指数とPM 2.5 の24時間平均値との関係は(表3)に示す。

(表3)中国の空気質指数の分指数(IAQI)とPM 2.5

空気質指数
分指数
粒子状物質 2.5 µ m 以下
24時間平均( µ m / m³)

00
5035
10075
150115
200150
300250
400350
500500

 なお、IAQI :空気質分指数とAQI:空気質指数との関係は次式で表される。すなわち、
    IAQI = max{ IAQI1 , IAQI2 , ……. IAQIm }

 また、ここで言う空気質は上記の大気質と同じである。これらの詳しい記述は次の文献にある。黄弘・屈克思(2013)中国におけるPM2.5の現状と研究動向。風工学会誌、38(4)、434-438.


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