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暮らしの中のバイオクリマ

No.23

2012.11.14

吉野正敏

2012年のインド熱波

熱波再来―灼熱のインド

 これまでこの連続エッセイで2012年の日本の猛暑・酷暑、インドの熱波と大停電など何回か扱ってきた。それでもまだ書き尽くせないほど、2012年の高温は異常であった。今回、新しい資料でまたインドの熱波を紹介しておきたい。
 外国の熱波のことなど、そんなに勉強しなくてもいいのではないか、と思われるかも知れないが、そうではない。日本と社会制度も、経済水準も、人口、生活・文化の背景が全く異なるインドの状態はかえって日本における問題を鮮明にすることもあるし、熱帯の国と温帯の国との差もあろう。しかし、極限状態はそのような差を超越してやってくるかも知れない。「転ばぬ先の杖」ということもあろう。
 日本人がインドで働く場合もこれから増えてくるであろう。2011年にはタイで大洪水があり、タイに進出していた日本の企業がかなりの被害を受けた。日本の気象庁はタイの天気予報も、季節予想も守備範囲としていない。タイに工場などを持っていた日本企業はほとんどタイの洪水の事前調査はしてなく、知識はゼロに等しかったと聞いている。
 専門的なことは天気会社から買えばよいと言われるかもしれないが、その場合あなたが、天気会社の職員(予報担当)になっているかも知れないし、ユーザーとして現地で天気に仕事をかき回されても、利口にそれをかわさねばならない地位にいるかもしれない。旅行でたまたま現地を訪れていても熱波の被害から素早く逃げなければ、命を落とすかも知れないのである。
 そんなことなど考えながら、インドの熱波の話を読んでいただければ幸いである。

2012年の熱波による異常高温の分布

 2012年、インドの熱波は4月に始まった。インドでは南西モンスーンはベンガル湾の奥とその沿海地方の州から始まる。“雨季来る”の小説どおり、南西モンスーンが始まると、空は雲に覆われ、日中の気温が高くなるのを妨げる。スコール状の雨が午後から夕方あって、人々はホッと一息つける。モンスーンとは日本語では季節風だが、“風”と言うより、人々の感じでは“雨”である。モンスーンが始まる前は灼熱の日々で、この時の高温が熱波と捉えられる。
 モンスーンが早く始まれば、熱波の危険は小さくなる。遅く始まれば熱波の危険は高まる。5月、6月と次第に太陽高度は増すので、午後の高温もひどくなる。このような状況については、この連続エッセイ[15]に詳しく述べたので、参照していただきたい。
 2012年の場合4月に始まり、5月のインド全国のピーク時を経て、6月、さらに7月までモンスーンの開始が遅れた。プレ・モンスーン季というインドの4季の一つの乾燥した季節が約4か月に及んだことになる。
 この間に、熱波による異常な高温が各地で起こった。(図1)は各地で観測された40℃以上の等温線図である。広い面積のインドとしては異常高温の報告があった観測地点がまだ不足しており、特に中央部では不明な箇所が多い。また、異常高温の局地性(観測値の代表性)が問題であるが、一応、等温線を引いたものである。結果としては次のようなことが明らかになった。
(1) 北部(31-32°N、75‐77°E)からインド北部を経て、アルラハバード・パトナに至る地域で44℃以上の帯状の地域がある。
(2) チュル(28°N、75°E)付近に一つのまとまった地域がある。
(3) 西部のラジュコット・アーマダバード(22-23°N、74°E)に小さい42℃以上の地域がある。
(4) 上記(3)の高温地域は内陸では、シャジャプール・ナガプールを中心とする46℃以上の地域と連なる。
(5) 20°Nより南では出現していない。
(6) この図は何回かの熱波による高温の、いわば合成図のように表現された図である。したがって、この図の高温な地域がある一つの熱波の時、同時に全部、出現するわけではないことを留意しなければならない。


(図1)2012年のプレ・モンスーン季(4~7月)における40℃以上の最高気温観測値の分布

今後の課題

 上の(図1)では46℃の等温線までしか引いていないが、実際には48~49℃までを記録している地点が多い。2012年の場合、49.7℃が最高の極値であった。
 極限状態では1℃の差でも、人間を含めて、生物環境として重要である。地球温暖化が夏のモンスーン発達に影響し、その遅速が熱波の発生頻度と熱波の程度に影響するとすれば、統計的研究や数値実験による研究などをさらに推進しなければならない。


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