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暮らしの中のバイオクリマ

No.9

2012.05.02

吉野正敏

爆弾かかえる春嵐

2012年4月初めの強烈低気圧

 強烈な春の嵐が2012年4月の3日から4日にかけて日本列島を襲った。日本各地で4月としては観測開始以来、第1位の記録をもたらした。つまり、ここ数十年でもっとも強い風であった。イギリスでは“メイストーム”(May Storm)と古くから呼ばれて、5月には発達したアイスランド低気圧がやって来る。そしてイギリスを横断して北海沿岸の北西ヨーロッパ諸地域に強い風をもたらす。
 日本でも、北海道では5月に強い風がよく吹く。十勝平野ではまだ馬で畑を鋤いていた時代、5月の強風を“馬糞風”と呼んだ。これまでは晩春の風だったのが、今年は吹雪をともなって、4月初めに吹いたのである。
 今回の春の嵐をもたらしたのは日本海で発達した温帯低気圧である。このときの天気図や気圧配置の解説は『お天気豆知識』(臨時掲載 2012.04.05)にあるので、参考にしていただきたい。4月3日9時には中心気圧986hPa の低気圧は日本海西部(東経130°、北緯38°)にあり、南北に延びる深い気圧の谷の中心を形成している。この低気圧はさらに発達しながら北東に進み、4日朝には中心気圧952hPa にまで深まり樺太の東方(東経144°、北緯46°)に来た。台風並みの強さと言われた。
 日本海の西部で低気圧が春発生することは珍しいことではない。春一番をもたらす風は春になってこの低気圧に向かって吹き込む南風のことで、異常に早ければ2月末、普通は3月である。今回の場合、4月初めだから、西日本では、異常に強い春何番と呼んでもよいかもしれない。
 このような、急速に発達する強烈な温帯低気圧を爆弾低気圧と言うニックネームで呼ぶ人もある。破裂すると周辺に大きな被害をもたらすので、“爆弾”のイメージにぴったりではある。しかし、爆弾は戦争とか、ゲリラ活動を想い浮かばせるから“いやだ”という人もいる。台風並みの強さではあるが、台風やハリケーンのような熱帯低気圧ではなく、温帯低気圧であることが気象学的にもっとも重要な点である。

日本各地の風速

  日本海の西部で発達して北東に進んだのだから、西日本で強い風は早く、4月3日から吹き始めた。(表1)は今回の嵐で吹いた記録的な風速を示す。

(表1)2012年4月初めの春の嵐による記録的な瞬間最大風速(m/s)

都道府県名地点名瞬間最大風速備考

[4月3日]
熊本阿蘇山  38.2 m/s
和歌山友ヶ島  41.9
福井敦賀  37.5
富山砺波  39.8
東京(都心)  27.8
茨城下妻  29.0
千葉千葉  34.718時52分
宮城南三陸  33.8南南西、18時27分
最大風速 南13.6m/s, 18時11分

[4月4日]
新潟佐渡  43.51時16分、観測史上の記録値
山形小国  42.3
酒田  41.4
秋田秋田  40.8
宮城仙台市新川  42.2西南西、10時14分
最大風速 西25.9m/s, 史上1位
大崎市古川  34.5西、13時18分
最大風速 西24.4m/s
岩手岩泉  36.1起時不明
西和賀  33.3同上
青森八戸  37.54月として史上1位
青森  36.0
黒石  32.5
北海道釧路町知方学  31.9起時不明、4月5日10時までの記録、4月としては1位
稚内宗谷岬  37.4起時不明、4日20時までの記録
日高襟裳岬  36.5同上

注:データは『風雪と高波に関する宮城県気象情報第7号、仙台管区気象台』、その他、各地の地方気象台発表、新聞などの速報値による

 この(表1)をまとめると、以下の事実・傾向などが今回の特徴とされよう。
(1) 最も強い時間帯の瞬間最大風速は40 m/sを超えた。この値はそれぞれの地点において観測史上の第1位、あるいは、4月として第1位の場合が多かった。
(2) 最強の時刻は西日本海側で3日に起った。しかし、和歌山のように、大平洋側でも局地的には、微地形・小地形条件により3日に発生した。
(3) 多数の地点で40 m/s を観測したのは4日未明の日本海側であった。これに比較して、太平洋側ではやや弱く、40 m/s 以下であった。時刻はほぼ同じ4日未明であった。
(4) 北海道は東北地方の日本海側よりも弱かったが、岬ではかなり強かった。
 以上のようなピーク出現の時間的なずれ、強風の吹走時間のずれ、ピークの値の地域的な差、ピーク絶対値など、今後、同じように発達する日本海低気圧にともなう風の予報に参考になる重要な情報であろう。

バイオクリマから注目すべき『春の嵐』災害

  バイオクリマをもし人間の生理学的面ばかりでなく、社会・経済活動の面まで含めて考えると、今回の異常な春の嵐はかなり多種の、これまで未経験の災害を考慮しなければならないことに気がつく。停電・交通麻痺・パイプハウス破損による農業被害など、一つ一つは決して新しい被害ではない。台風の場合の被害項目とは変わらない。しかし、例えば、(1)停電は長時間で極めて広範囲に及んだ。(2)自動車交通で、強風による大型トラックの横転事故が多府県で発生した。(3)倒木による市町村道の閉鎖・地方鉄道・ローカル線への障害が多数発生した。(4)物置小屋・屏などの建造物が倒壊、または部分が飛散し、その下敷きになって圧死する被害が多数出た。
 以上に見るように、個々は決して新しい災害ではないが、新しい特徴として、件数が広域に渡り多いので復旧までに長時間を要した。多数箇所の倒木を排除するには手間がかかり長時間を必要とした。山間地ではまだ雪があり、過疎化・老齢化により労働力を集めることが難しい。台風の時よりおそらく強い突風が小さな建造物の周辺に発生し、倒壊・飛散物を増加させ、その結果圧死の被害が出た。トラック横転も長距離運転者の危険な橋梁の局地性や、橋梁のどの部分が危険かなどなどの知識や経験の不足、大型トラックの荷台の高い重心を下げる荷積み対策が不十分だったなどが考えられる。以上、日本では個人的にも、社会の仕組みとしても、台風時の予想・準備はある程度はできているが、春の嵐に対してはできていなかった。不意を突かれたところにも問題があった。
 (表2)には具体的な2~3の例を示したい。データは新聞・テレビ・インターネットなどさまざまのメディアから取ったので、統計の基準・確度などさまざまであるが、大まかな傾向を知るには十分と思う。

(表2)2012年4月3-5日の春の嵐によるバイオクリマ関連の災害

災害地域または対象被害対象・内容

停電東北電力管内491,740戸(4月5日までの総計)。
197,593戸(4日10時)うち、秋田県(4日18時)、70,843戸。
32,600戸(5日9時41分)うち、秋田県29,900戸、 宮城県2,200戸、新潟県600戸、岩手県。
秋田県では6日16時現在でなお数十件。
倒木、電柱の倒壊、電線の飛来物による障害が原因。
高速道路閉鎖東北自動車道、八戸自動車道、秋田自動車 のそれぞれ一部区間。
鉄道運休三陸鉄道北リアス線。
鉄道新幹線東北新幹線、秋田新幹線、上越・長野新幹線が4日午前を中心に、停電で運転見合わせ、または運休・遅延。
航空欠航FDA フジドリームエアラインズ花巻―名古屋間、その他日本航空160便、全日空83便(3日11時現在)欠航。
倒木除去作業強風によるほか、土砂崩れも加わる。複旧作業に時間がかかる。山間部では県道閉鎖により孤立状態。
怪我人全国重軽傷302人、死者3人(4月5日現在)。
怪我人県別[県名 重傷者数(人)、 軽傷者数(人)] 青森県3、5;岩手県2、5;宮城県3、13;秋田県 6、11;山形県 4、8;福島県 2、3;茨城県 0、4;千葉県 2、16。
農業秋田秋田市は暴風被害を受けた農家への支援事業などとして一般会計補正予算、約170,660千円を組んだ。
農業秋田県は農林水産被害(3~4日の強風による)の総計を、1,105,410千円と11日発表。パイプハウスなどの被害は6,396棟に及んだ。
農業山形県は農林水産被害(3~4日の強風による)の総計を、626,000千円と6日発表。パイプハウス倒壊・損傷やサクランボ果樹の枝折れなどの被害が主。
農業各地パイプハウスの破損、野菜・イチゴ苗などの被災。
水産業三陸海岸カキ・ホタテ養殖施設が流木・高波で破損、高波によりワカメが海中で絡み合う。
水族館男鹿(秋田県)高波で冷却装置他が破損浸水、被害額は180,000千円。
建造物東日本大震災仮設住宅・学校などの屋根・窓ガラス破損・飛散、個人住宅の屋根・物置など、付属建物の転倒・破損。これらがさらに吹き飛ばされ二次災害を起こした。

 以上のように、被害は日本の各地に起り、中でも低気圧が発達した日本の東北地方で、しかも日本海側の地域で酷かった。結局、秋田県が最も大きな被害を受けた。尚、この低気圧にともなって、強い雨が降り、北海道では激しい吹雪、多量の雪が降った。例えば、夕張では4日20時の積雪深は147 cm で4月としては史上1位である。また、メディアでは報じられなかったが、黄砂が低気圧の後面で降ったようである。その影響で約1週間後の10日夜から11日朝にかけて、西日本では約460件、ショートによる火花が電柱や電線から上がった。停電も約100件発生した。これらの詳細は別の機会に譲るが、黄砂が絡む、春ならではの現象である。


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