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健康コラム

一般の記事一覧

No.2

2003.7 Categories一般

ヒポクラテクスと気象医学[2]

ヒポクラテスとその一門は、病気と気象との間に関連性の存在を見出そうとしたが…

ではヒポクラテスらは、病気と関連づけることのできるものには具体的にどのようなものを考えていたのでしょうか。
彼らは、まず食物・食餌に注目し、栄養分の摂取の問題を大変重要視しています。種々の食品を列挙して彼らなりの詳しい解説を加えていますが、特に力を入れていたのは食餌療法であり、独特の理論に基づいて治療の原則を説いています。
次に、私たちに身近なもので、病気と関連が深いと考えられるのは空気や天候です。日々の天気は気分の良し悪しを左右し、暑さ寒さや湿度の高低、風の強弱などが病気の発生や症状の増悪に影響を与えていることは、人が身をもって経験しているところです。彼らの記述に以下の文章があります。
空気は、体内では「プノイマ」として飲食物とならんで、あるいはそれ以上に必須のものであり、人体の外では大気として季節をつくり、また風として人の健康に影響を与えるものである。さらに、われわれを取り巻く環境としての空気の中に、時として療気が混じって流行病を発生させる。
これは遠く2千年後の現在における大気汚染を予感させます。気象に関する記述としては、「流行病」の項目で、ある年のタソス島の気象状態を述べ、その年に発生した患者の症状や経過について詳しく記述しています。ここでは特に気象と疾病の関係を論じてはおらず、個々の事例としてありのままのデータを提示したもので、後日の分析にまかせる意図があったのかもしれません。
ヒポクラテスらが病気に及ぼす気象の影響について、一般化した形で具体的に述べた記述は意外に多くありません。ただ気象現象に対する関心の深さをうかがわせる、次のような箇所があります。
人の病気の発生原因には3つある。第一には体液の排泄不調によるものである。第二には天候関係の不良、すなわち生活習慣に反する天候状態である。第三には外部からの暴力作用、すなわち外傷、打撲などである。
これらのうち第二の天候関係は、最も恐るべきものであるといいます。ここで体液とは、人体に含まれる4種類の体液、つまり血液、粘液、肥汁、水(箇所によっては血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の4種類と記されている)を指しており、これら4種の体液の混合状態やその作用、量のバランスが適度であるとき人は健康であり、それが崩れると病気になるとしています。
上記の天候関係が最も恐るべきものである理由も、しょせんは4体液説による独特の病理論に基づく説明に終始しています。慾意的な仮定を排し、実証的な根拠に基づく理論の構成と、その基礎の上に立つ実践を信条としたヒポクラテス学派でありましたが、4体液説についてはその根拠が不十分なまま議論の余地のない前提として扱っており、そのため後世にまでドグマ(独断的なこと)説的な影響力を及ぼすこととなってしまいました。
すぐれた学者の叡知(えいち)も時代の制約から全く自由ではありえない一つの例と見るべきでしょうか。

No.1

2003.7 Categories一般

ヒポクラテクスと気象医学[1]

古代ギリシャのヒポクラテスは、気象医学の祖ともいわれています。

 史上最も偉大な医師、医学者の一人とされる古代ギリシャのヒポクラテス(注1)は、 気象医学の祖ともいわれています。彼が病気と気象現象を客観的、 実証的に関連付けて観察した理由は、以下のような考えによるものだと思われます。

 ヒポクラテスおよびその一派が書き記したとされる著作の中に、 まず神の意志によって人が病気にかかるという考えを否定している文章があります。

  ある種類の病気は神聖病と呼ばれ、神の意図によって引き起こされるものであるとして、 呪術師、祈祷師など一部の人々はこの病気をおはらいしたり、特別な衣食の制限をしたりして治療を試みる。 しかし、このような人為的な方法で治るような病気が果たして神の業であろうか。 人の行為で神のなされた業をくつがえすことなどできる筈はない。

 第一、神は人を浄化し聖化しこそすれ、病気などによって汚すような存在ではありえない。 どんな病気でも自然的原因によるものであり、神が引き起こす病気など作り話にすぎない。

また次のような記述もなされています。

 これまで、医術について論じる人々の中には、自分勝手な仮定をたてている者が多い。 すなわち熱・冷・乾・湿などを仮定し、それによって人の病気や死を説明しようとする。 しかし仮定というものは、眼に見えず手にふれることができないものを論ずる場合に必要なもので、 これを論じ判断しようとしても、論者自身にとっても聞く人々にとっても、 真偽のほどは判然とはなりえないのである。なぜなら確実さを知るための基準になるものがないからである。

このようにみてきますと、ヒポクラテス学派の態度は、病気の説明に超自然的な神の力とか全くの思弁的な 理論などに頼ることをあくまで徘そうとするものであったとみることができます。ヒポクラテス集典に一貫している考えは、 医術の基礎は客観的な観察にもとづく実証的な知識によるものであるということです。

そのようなことから、ヒポクラテスとその一門が、病気と私たちの環境を形作る要素との間に、客観的、 実証的に関連性の存在を見出そうとしたのは、まったく自然のなりゆきであったと考えられます。(次回に続く)

(注1)ヒポクラテス(前460頃~前375頃)

古代ギリシャの医師。医術を魔法や迷信から解放し、経験を重んじる科学的医学の基礎を確立。 その医説はのちに、「ヒポクラテス全集」として集大成されました。 また、医学者としての倫理・規範などについても多くの見解を残し、医聖・医学の祖などと称されます。 ヒッポクラテス。(大辞林より)


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