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わたしてんき

Vol.2

2014.02.28

寒さと女性の体温調節

内田 有希(うちだ・ゆき)

内田 有希(うちだ・ゆき)

高知大学医学部 解剖学講座 助教

早稲田大学人間科学部卒業後、(株)アイネス勤務。退社後、同大学院にて博士号取得。2012年より高知大学医学部にて教育、研究に従事。非常勤で高知県医師会準看護学院でも教鞭を持つ。単著「The Role of Estrogen in Modifying Thermoregulation and Related Behavioral Responses」(早稲田大学出版部)。

立春も過ぎましたが、まだ寒い日が続いていますね。皆さん、体調はいかがでしょうか。

寒いといえば、女性の皆さんは「冷え性(症)」を思い浮かべるかもしれません。大ヒットとなった商品「冷え知らずさんの生姜シリーズ」1)や、女性向け雑誌における冷え性特集2)等からは、冷え性への関心の高さがうかがえます。しかし意外に思われるかもしれませんが、西洋医学において冷え性の定義はなく、主観的な症状と認識であって病気とは捉えられていません3)。冷え性に関する研究は多くありませんが、メルビーらは日本人の更年期女性において冷えの訴えがあること3)、永島らは若年女性の非冷え性者に比べ、冷え性者の血中甲状腺ホルモン値が低いことを報告しています4)。一般的に、甲状腺ホルモンの低下は体全体の熱産生の低下につながることから、冷え性の方は熱を作り出す能力が低いことが考えられます。また、女性は更年期においても冷えを感じるようです。冷え性の病態をより明らかにする為、今後の研究の発展が望まれます。

さて、女性はエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの影響を大きく受けて生活しています。例えば、性周期や女性らしい丸みをおびた体の形成なども女性ホルモンに作用されることが知られていますね。では、寒い環境における女性の体温調節には作用するのでしょうか。私の実験動物を用いた研究で、エストロゲンは寒冷時の体温維持に役立っており、作用している体の場所は脳の視床下部であることが明らかになりました5, 6)。ヒトの女性においても、同様に役立っているのかどうか更なる調査が必要でしょう。

冷え性者は、非冷え性者が「寒い」と感じない温度を「寒い」と感じてしまうようです。エストロゲンが寒冷時の体温維持に影響することから、私は血中エストロゲン濃度の変化が女性の「脳の温度感受性」を変容させる為ではないかと推測しています。あくまで推測の域を出ませんが、これが正しいのかどうか、研究を積み重ねた上で改めてお伝えしたいと思います。巷には科学的根拠のない情報が溢れていますが、今後も科学的に信頼性の高い情報を分かりやすく発信していきたいと考えています。

【参考文献】
1) 東京ウォーカー(2009年11月22日付)掲載記事。株式会社KADOKAWA, 東京, 2009. 永谷園の同シリーズの売上は約14億円(2007~2008年)だったという。
2) 雑誌ecocoloにおける「冷えない暮らし」特集(2010年1月号), 株式会社エスプレ, 東京, 2010.
3) Melby, Chilliness: a vasomotor symptom in Japan. Menopause 14(4): 752-759, 2007.
4) Nagashima et al. Thermal regulation and comfort during a mild-cold exposure in young Japanese women complaining of unusual coldness. Journal of applied physiology Vo.92 Number 3: 1029-1035, 2002.
5) Uchida et al. Estrogen modulates central and peripheral responses to the cold in female rats. The Journal of Physiological Sciences Vol.60 Number 2: 151-160, 2010.
6) Uchida et al. Estrogen in the medial preoptic nucleus of the hypothalamus modulates cold responses in female rats. Brain Research Vol.1339: 49-59, 2010.

【用語】
甲状腺ホルモン:甲状腺から分泌されるホルモン。代謝亢進に関わる。
熱産生:熱を作り出すこと。
性周期:ヒトは25~38日周期である。卵胞期と黄体期がある。
視床下部:脳の下部に位置し、自律神経やホルモンの最高中枢といわれる。


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