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わたしてんき

Vol.3

2014.07.07

熱中症を防ぐ夏の暑さ対策

松田 真由美(まつだ・まゆみ)

松田 真由美(まつだ・まゆみ)

早稲田大学人間科学学術院 助教

茨城県立医療大学保健医療学部卒業、早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。横浜市立大学医学部付属病院看護師、医療法人慈桜会瀬戸病院非常勤看護師、早稲田大学人間総合研究センター客員研究員、University of Wollongong Visiting Fellowを経て現職。

<熱中症予防、暑さ対策の必要性>

総務省消防庁の発表によると、今年6月9日~6月15日の1週間に熱中症に救急搬送された人は全国で840人にのぼります(1)。これから増々暑くなるこの時期から熱中症を防ぐ暑さ対策をすすめたいところです。今回は日本生気象学会が発表している「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3(2)や、私たちが行っている暑熱環境での実験から、熱中症対策や、暑さをしのぐ工夫についてまとめてみたいと思います。

<熱中症の原因、症状>

熱中症の主な原因は脱水と過度の体温上昇です。症状としては倦怠感やめまい、頭痛、吐き気、けいれん等に始まり、重症化すると意識障害、死亡に至るケースもあります(2)。しかし、脱水を予防し、過度の体温上昇がおこらないよう対策を講じれば熱中症は防げ ます。

<脱水の予防>

日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3では日常生活における水分補給の目安として、日中はコップ半分程度の水分を1時間に1回程度、就寝前、起床時、入浴前後にはコップ1杯(コップ1杯200ml)の水分補給を推奨しています。特に高齢者はのどの渇きを感じにくい傾向にあり、のどの渇きを感じる前に水分補給を心がけることが大切です。また運動時や作業時など、大量の汗をかく場合、水分と一緒に塩分を取る事が脱水の予防に大切です(2)。

<暑さに慣れる>

毎日暑さにさらされていると、汗をかきやすくなり体温が上昇しにくくなります。つまり暑い環境にいると暑さに強い体を作ることができます。その効果は暑さに加えて運動も行うことにより増強されます(3)。ですので、これからますます暑くなるこの時期に、無理のない範囲で暑さに慣れておくことや日頃の運動が熱中症予防に役立ちます。





<風の威力>

熱中症の予防には効率的に体の熱を逃がすことが大切です。ヒトを対象に頭部や頸部を冷やす実験を行った際、実感したのが風による冷却効果の強さです。特に体温が高く汗をかいている時に扇風機で風をあてると皮膚の温度が大きく低下し、体の深部の温度も低下します。つまり風を当てると皮膚表面だけではなく体の深部まで冷やすことができます。風による冷却効果は大きく、これは風が汗の蒸発を促進することによる効果であると考えられます。

汗が蒸発するとき気化熱により体の表面から熱が奪われるます。しかし蒸発せずにしたたり落ちる汗には熱を奪う効果はほとんどありません。体に風を当てると汗の蒸発を促進し、体にたまった熱を効率よく放散することができます。また広い面積を一気に冷やせることが風による冷却のメリットです。

<オフィスやスポーツ現場でも風の威力を>

環境省では、地球温暖化対策の一環として冷房時の室温が28℃でも快適に過ごすことのできるライフスタイル「クールビズ」を推進している。しかし、室温28℃設定で仕事をしている方の中には暑いと感じている人も多いのではないでしょうか。室温28℃は半袖短パンで安静にしていれば暑くありませんが、動けば代謝が上がり暑く感じます。28℃のオフィスで快適に過ごすためには工夫が必要です。冷房に加えて扇風機などを使って風を浴びると、汗の蒸発が促進され、涼しさを感じやすくなり、皮膚のベタベタ感も解消できます。扇子やうちわを常備しておくのもよいと思います。

<熱中症を発症しやすい人への配慮>

厚生労働省が発表しているデータによると、H22年の熱中症による死亡者数は熱中症の統計を取り始めた昭和39年以降最大であり、1731人が熱中症により死亡し、このうち65歳以上が約80%を占めていました。また熱中症によって死亡したケースの発生場所は約46%が家です(5)。高齢者は熱中症を発症すると重症化しやすいです。また基礎疾患のある人、薬物服用者、肥満者、乳幼児なども熱中症を起こしやすい(2)。そういった熱中症発症のリスクが高い人本人が気をつけることはもちろん、周囲の方々にも配慮をお願いしたいと思います。暑い日は特に、水分をこまめにとっているか、部屋は暑すぎないかなど声を掛け合うことが大切だと思います。

<熱中症対策情報>

本稿では私達が行った実験にちなんで、送風による冷却の効果について述べましたが、熱中症対策としては、気象情報のチェック、必要に応じて冷房を使うこと(特に高齢者の居室は28℃を超えないよう調節する)、暑い日には外出や運動を控えること、こまめな水分補給、日頃の体調管理なども大切です(2)。また暑さへの耐性には個人差があるため、個人差に配慮した対応も求められます。熱中症対策に関する多くの情報がインターネットで収集できます。たとえば今回コラムを書くにあたって参考にしている「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3は日本生気象学会のホームページから見ることができます。また日本体育協会のホームページにも運動時の熱中症対策が公開されています。環境省も熱中症予防情報を公開しています(6)。是非熱中症対策に役立てていただければと思います。

熱中症は対策を講じることで予防できます。熱中症の予防にはこまめな飲水や、効率よく体の熱を放散させることが大切です。効率のよい体の冷却方法として、冷房に加えて風を用いることを推奨します。暑い日には特に周囲の人と声を掛け合って、夏を元気に過ごしましょう。

*本コラムは2013年8月にYOMIURI ONLINE オピニオンに掲載された“実はすごい風の力熱中症を防ぐ夏の暑さ対策”に加筆・修正をくわえたものです。

【参考文献・資料】

1. 総務省消防庁,熱中症による救急搬送人員数(平成26年6月9日~6月15日速報値), http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/heatstroke/pdf/260617-sokuhouti.pdf (参照日2014/06/20)

2. 日本生気象学会, 日常生活における熱中症予防指針 Ver.3, http://www.med.shimane-u.ac.jp/assoc-jpnbiomet/pdf/shishinVer3.pdf(参照日2014/06/20)

3. Roberts et al. (1977). Skin blood flow and sweating changes following exercise training and heat acclimation. Journal of applied physiology: respiratory, environmental and exercise physiology, 43(1), 133?7.

4. 日本体育協会ホームページ,熱中症を防ごう,(参照日 2014/06/20)

5. 厚生労働省,平成22年の熱中症による死亡者数, http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii10/dl/s08.pdf(参照日2014/06/20)

6. 環境省熱中症予防情報 http://www.wbgt.env.go.jp/ (参照日2014/06/20)


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