お天気豆知識
No.39
2004.4 Categories局地的な気象現象
春、ある晴れた日の朝
地球上のあらゆる物体から宇宙空間に向かって赤外線のかたちで熱エネルギーが放射されています。その量は物体の温度に関係しています。日中は太陽から多量の熱エネルギーが地球に到着するため、地球から出て行くエネルギーと差し引きすると、太陽から受ける熱エネルギーの方が多くなります。このため、日の出と共に気温は上昇します。反対に夜間は太陽からの熱エネルギーが来ないため、地球から熱エネルギーが出て行く一方で、気温は下がります。秋から春にかけてよく晴れた日は、日が落ちると共に気温が下がるのはよく経験することです。
(図1)は日中と夜間の熱エネルギーのやりとりの様子です。

(図1)地球から宇宙空間に向かって絶えず熱が放射される。
夜間は、太陽からの熱エネルギーが来ない。
夜間、地表面からの熱エネルギーの放射により地表面の温度が下がり、地面に接している空気も冷やされて温度が下がります。このような現象を放射冷却と言います。物体は冷やされると体積が縮み、密度が高くなります。空気も冷やされると密度が高くなり、つまり重くなります。斜面で放射冷却が起こるとどうなるでしょう。
(図2)を見てください。

(図2)夜間、放射冷却で出来た冷気が斜面を下り、底に冷気湖が出来る。
放射冷却により冷やされ、重くなった空気は斜面に沿って低い方へ移動し、窪地や谷底には冷気が溜まります。ときには広い範囲に冷気が溜まり、まるで湖のようなので、「冷気湖」と言います。
(表1)は、2003年5月2日の関東地方にある熊谷、秩父、前橋の気象台や測候所の最低気温のデータです。
場所 | 最低気温 | 出た時刻 |
秩父 | 4.6℃ | 午前5時10分 |
熊谷 | 7.3℃ | 午前3時41分 |
前橋 | 7.7℃ | 午前4時58分 |
この日は、東北南部から西は高気圧のベルトに覆われ、等圧線の間隔は広くなっていました。つまり風は弱く良く晴れています。前橋は熊谷や秩父よりも北に位置し、赤城山の裾野の緩やかな斜面にあります。熊谷は関東平野の平らな所にあり、秩父は秩父盆地の中です。盆地にある秩父の最低気温が一番低くなっています。熊谷は北にある前橋よりも低い最低気温となっています。
最低気温は、ほぼ午前4時前後と午前5時前後に出ているので、この時刻の気温と風のデータを見てみましょう(表2)。
場所 | 要素 | 午前4時 | 午前5時 |
秩父 | 気温 | 5.2℃ | 4.7℃ |
風速 | 0.8m/s | 0.6m/s | |
熊谷 | 気温 | 7.5℃ | 7.9℃ |
風速 | 0.6m/s | 1.2m/s | |
前橋 | 気温 | 8.3℃ | 7.9℃ |
風速 | 3.0m/s | 1.9m/s |
(1) | 盆地の中にある秩父が気温が最も低く、風はほとんど吹いていません。 |
(2) | 午前4時の熊谷と前橋を比べてみると、熊谷のほうが気温が低くなっていて風速も前橋より弱くなっています。平地にある熊谷は放射冷却で冷やされていますが、前橋は放射冷却でできた冷たい空気が移動中であることがわかります。 |
(3) | 午前5時の熊谷と前橋を比べても気温は同じですが、風速は前橋のほうが大きく、空気が移動中であることがわかります。 |
秩父はこの時刻はまさに冷気湖の中にあることが分かります。気温は北に行くほど低くなりそうですが、前橋と熊谷を比べるとそのようになっていないことが分かります。前橋は斜面にあるため、冷えて重くなった空気が低い方へ動いています。一般に空気が動く、つまり風が吹くと上下方向で空気がかき混ぜられて冷気が溜まらず、気温は下がりにくくなります。
お茶畑では茶摘みの八十八夜の頃霜が降りると、お茶として収穫する新芽がだめになります。お茶畑に大きな扇風機が置いてありますが、これは人工的に風を起こして空気をかき混ぜ、気温が下がるのを防ぐためです。