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お天気豆知識

局地的な気象現象の記事一覧

No.71

2006.12 Categories局地的な気象現象

竜巻、トルネード

 今年(2006年)は11月前半までに竜巻による被害が3回もありました。9月には宮崎県延岡市で、家屋の被害があっただけでなく、特急が脱線転覆しました。11月7日には北海道のオホーツク海側にある佐呂間町では家屋に被害だけでなく、死傷者も出てしまいました。その2日後の9日には北海道の西にある、奥尻島で被害が出ています。佐呂間町では人が空中に巻き上げられて飛ばされたり、飛んできた物が民家の壁に突き刺さっていました。いかに強い風であったかがわかります。
 日本では竜巻といっていますが、アメリカではトルネードと言っていますね。歴史上で最も激しいといわれているトルネードは1925年にアメリカの中央部の平原に発生したものでした。その幅は1.6kmもあり、3時間も猛威を振るい、死者が689人という被害でした。最大瞬間風速は約117m/sであったと言われています。
 トルネードはこのようにとてつもない強い風が吹くため、思いもよらぬ被害が出てしまいます。1973年に出版された「たつまき-渦の驚異-(上)」(藤田哲也著)に、その被害のようすが書かれていますので、幾つか紹介します。
 1919年6月にミネソタ州ファーガスフォールでは、大きな木の幹が真っ二つに裂け、どこからか飛んできた自動車が、その裂け目に入ってしまいました。その瞬間、木の裂け目が閉じてしまい、車がペシャンコになりました。いつ起こったか書いてありませんが、インディアナ州のエルクハード市では、高速で飛びまわっていた一枚のトタン板が、子供の体を二つに断ち切ってしまいました。
 トルネードの被害は、人間や家屋だけでなく家畜におよびます。1943年6月には、ミシガン州ランソン市の町外れでは、崩れかかった鶏舎の中に、30羽の羽を抜かれて丸裸の鶏が、死後硬直のまま死んでいました。また、1917年6月にはカンザス州トペカ市のすぐ近くでは、被災地を歩いていた人が、逆さになって落ちている箱を何気なく蹴飛ばしたところ、中から丸裸の鶏が1羽飛び出して、歩き始めたそうです。トルネード、竜巻の中心は気圧がとても低くなっています。藤田哲也博士は、「鶏が中心に巻き込まれると、羽の根元の中の空気が膨張してつけ根がゆるみ、グラグラし始め、強風がグラグラしている羽を抜いてしまうのだろう」と解説しています。


(図1)トルネード発生のときの大気の立体図(春)

 アメリカでトルネードが発生しやすい地域はアメリカの中央平原で、季節は5月を中心に、3月から9月の間です。(図1)は、春にトルネードができるような積乱雲が発生するときの立体的な大気の状態です。地上から見ていきましょう。低気圧の中心から延びる、温暖前線と寒冷前線に挟まれた地域(暖域と言います)に、メキシコ湾から暖かく湿った気流が入っています。その気流は、暖域では大気下層(約1,500m)にも入っています。一方、寒冷前線に向かって乾燥した寒気が流れ込んでいます。この気流は大気の中層(約3,000m)から降りてきた気流で、ロッキー山脈の東側に沿って北極やカナダ方面から流れ込んできたものです。上層(約5,500m)では地上の低気圧に対して、西の方に気圧の谷があり、更に上層(約9,600m)にはジェット気流があり、北上するような流れとなっています。上層の気圧の谷の西側や北上するような流れのジェット気流のところでは、地上の上昇気流を強めています。もう一度地上に眼を移しましょう。寒冷前線の東側では乾燥した寒気が暖かく湿った空気を押し上げています。このため、この地域では(図中、トルネード発生域)大気の状態が不安定になって巨大な積乱雲が発生し、トルネードが発生しやすくなります。

 (図2)は11月に北海道で竜巻が発生した日の地上天気図です。共通していることは、竜巻が発生した所に対して、低気圧が北の方にあり、寒冷前線のすぐ東側になっています。まさに低気圧の暖域です。天気図は省略しますが、上層ではジェット気流が北に向かうような流れとなっていて、気圧の谷は北海道よりも西にありました。大気の下層には暖かく湿った空気が、中層以上にはシベリアから来た乾燥した寒気が流れ込みやすくなっていました。今回、低気圧暖域の寒冷前線の近くでは積乱雲が発生、発達しやすい条件が揃っていました。


(図2)北海道で竜巻が発生した日の地上天気図

 (図3)は延岡で竜巻が発生した日の地上天気図です。台風13号が九州の西を北上中で、延岡は台風の中心と太平洋高気圧の間になっています。このようなところ、つまり台風の東側では、台風に向って下層に暖湿気流が入り、大気の状態はとても不安定となっています。このため、発生した積乱雲が発達し、竜巻も発生しました。一般に、台風の進行方向右側は、強い風が吹きやすいだけでなく、下層に湿った気流が入るため、大気の状態が不安定となって、竜巻の発生しやすい地域です。


(図3)延岡で竜巻が発生した日の地上天気図
(2006年9月17日12時)

No.39

2004.4 Categories局地的な気象現象

春、ある晴れた日の朝

 地球上のあらゆる物体から宇宙空間に向かって赤外線のかたちで熱エネルギーが放射されています。その量は物体の温度に関係しています。日中は太陽から多量の熱エネルギーが地球に到着するため、地球から出て行くエネルギーと差し引きすると、太陽から受ける熱エネルギーの方が多くなります。このため、日の出と共に気温は上昇します。反対に夜間は太陽からの熱エネルギーが来ないため、地球から熱エネルギーが出て行く一方で、気温は下がります。秋から春にかけてよく晴れた日は、日が落ちると共に気温が下がるのはよく経験することです。
(図1)は日中と夜間の熱エネルギーのやりとりの様子です。


(図1)地球から宇宙空間に向かって絶えず熱が放射される。
夜間は、太陽からの熱エネルギーが来ない。

 夜間、地表面からの熱エネルギーの放射により地表面の温度が下がり、地面に接している空気も冷やされて温度が下がります。このような現象を放射冷却と言います。物体は冷やされると体積が縮み、密度が高くなります。空気も冷やされると密度が高くなり、つまり重くなります。斜面で放射冷却が起こるとどうなるでしょう。
(図2)を見てください。


(図2)夜間、放射冷却で出来た冷気が斜面を下り、底に冷気湖が出来る。

放射冷却により冷やされ、重くなった空気は斜面に沿って低い方へ移動し、窪地や谷底には冷気が溜まります。ときには広い範囲に冷気が溜まり、まるで湖のようなので、「冷気湖」と言います。
 (表1)は、2003年5月2日の関東地方にある熊谷、秩父、前橋の気象台や測候所の最低気温のデータです。

(表1)2003年5月2日の最低気温
場所最低気温出た時刻
秩父4.6℃午前5時10分
熊谷7.3℃午前3時41分
前橋7.7℃午前4時58分

この日は、東北南部から西は高気圧のベルトに覆われ、等圧線の間隔は広くなっていました。つまり風は弱く良く晴れています。前橋は熊谷や秩父よりも北に位置し、赤城山の裾野の緩やかな斜面にあります。熊谷は関東平野の平らな所にあり、秩父は秩父盆地の中です。盆地にある秩父の最低気温が一番低くなっています。熊谷は北にある前橋よりも低い最低気温となっています。
 最低気温は、ほぼ午前4時前後と午前5時前後に出ているので、この時刻の気温と風のデータを見てみましょう(表2)。

(表2)2003年5月2日の気温と風
場所要素午前4時午前5時
秩父気温5.2℃4.7℃
風速0.8m/s0.6m/s
熊谷気温7.5℃7.9℃
風速0.6m/s1.2m/s
前橋気温8.3℃7.9℃
風速3.0m/s1.9m/s
(1)盆地の中にある秩父が気温が最も低く、風はほとんど吹いていません。
(2)午前4時の熊谷と前橋を比べてみると、熊谷のほうが気温が低くなっていて風速も前橋より弱くなっています。平地にある熊谷は放射冷却で冷やされていますが、前橋は放射冷却でできた冷たい空気が移動中であることがわかります。
(3)午前5時の熊谷と前橋を比べても気温は同じですが、風速は前橋のほうが大きく、空気が移動中であることがわかります。

 秩父はこの時刻はまさに冷気湖の中にあることが分かります。気温は北に行くほど低くなりそうですが、前橋と熊谷を比べるとそのようになっていないことが分かります。前橋は斜面にあるため、冷えて重くなった空気が低い方へ動いています。一般に空気が動く、つまり風が吹くと上下方向で空気がかき混ぜられて冷気が溜まらず、気温は下がりにくくなります。
 お茶畑では茶摘みの八十八夜の頃霜が降りると、お茶として収穫する新芽がだめになります。お茶畑に大きな扇風機が置いてありますが、これは人工的に風を起こして空気をかき混ぜ、気温が下がるのを防ぐためです。

No.12

2002.11 Categories局地的な気象現象

放射冷却と逆転層

  高気圧に覆われてよく晴れた日の朝は冷え込みますね。こんな日の日中は暖かいので、薄着で出かけたものの、帰りが遅くなると思わぬ寒さにあったりします。特にお酒が一杯入っていい気持ちになった時はいいのですが、酔いが醒めると・・・・・。 私たち人間を含め、地球上のありとあらゆる物から宇宙空間に向けて赤外線が出ています。最近テレビ番組で人体の表面温度を色分けで示すことがありますが、これは人体の表面から放射される赤外線を測定しているのです。気象衛星も雲や地面、海面から反射された太陽光線を観測するだけでなく、それらから出る赤外線も観測しています。夜は太陽が出ていないので、反射された太陽光線だけでは夜の雲の状態はわかりません。
話が雲の話にそれましたが、よく晴れた日のことに話を戻しましょう。地表面から絶えず宇宙空間に向かって赤外線が放射されています。日中は太陽光線で暖められるので、地面の温度はどんどん上がります。しかし、夜になると太陽からの熱が得られません。夜、雲が出ているとエネルギーは宇宙空間に出ていきませんが、よく晴れた日には地面は放射によりどんどん冷えていきます。このような状態を放射冷却といいます。


(図1)接地逆転層

(図1)の赤い線のように、空気中の温度は一般に上空に行くほど低くなります。ところが夜晴れていると地面が冷えるため、そこに接した空気は冷やされます。そのため、地面からある高さまでは上空に行くほど気温が高くなってしまい、地面に近い部分の温度分布は青い線で示したようになります。専門用語で、上空に行くほど気温が高くなっている層のことを逆転層といいます。(図1)のように逆転層が地面に接している場合を接地逆転層といいます。

ここで、熱気球のことを考えてみて下さい。熱気球の中の空気は、バーナーで暖められているため、周りの空気よりも温度が高いのでそれより温度の低い空気に比べて軽くなっています。このため、熱気球は上昇します。ところが、上昇しても周りの空気が熱気球の中の空気の温度と同じか高い場合はどうなるでしょう。熱気球は上昇せずにある高さで留まったり、逆に下降してしまいます。


(図2)大気の安定・不安定

(図2)を見ながら読んでください。ある温度の空気の塊を別の高さに持っていった場合、何も力を加えないでも上昇する場合、「大気は不安定」といい、逆に下降する場合を「大気は安定」といいます。つまり、逆転層の中ではよほど大きな力を加えないと空気が上昇できないので、空気が安定な状態にあるといいます。

(写真1)は2002年10月28日午前6時半前に神奈川県横浜市都筑区にて撮影しました。左側にある煙突から煙が出ていますが、ある高さから右の方にのびています。この日の朝は風が弱く、よく晴れたので夜間の放射冷却により地面が冷やされ、接地逆転層ができたのでしょう。煙突からでた煙は、始め上昇していますが空気が安定状態にある接地逆転層の中で上昇しきれず、その中で吹いていた風により、(写真1)では右の方に流されました。煙のある高さが接地逆転層の上限です。これより上では高さが増すとともに温度が低くなります。まるで、見えない蓋をされているようですね。


(写真1)2002年10月28日午前6時半前に神奈川県横浜市都筑区にて撮影

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