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お天気豆知識

気象現象の基礎知識の記事一覧

No.88

2008.5 Categories水蒸気

過冷却、過冷却水滴、雨粒の形成

 1731年12月15日のとても寒い日、ストックホルムでの出来事です。スウェーデンの学者、テリーワールド(M.Triewald)は不思議な現象をみることができました。彼がある貴族の宮殿で、溜められた水に触ったところ、その水は直ちに氷に変りました。彼は1772年にロンドンの王立科学院にその現象を報告しましたが、なぜそのようなことが起こったかは説明できませんでした。
 この不思議な現象が科学的に説明されたのは180年後のことです。ドイツの科学者ウェーゲナー(Alfred Wegener)は1911年に2つの重要な説を出しました。

● 水は融点(0℃)以下でも液体のままである(過冷却といっています)。
● 氷の粒(氷晶)が空気中にあると、その氷の粒は水蒸気を引き寄せる。それは氷の粒の周りの水蒸気圧が水滴の周りの水蒸気圧よりも低いからである。

ウェーゲナーはこの2つの説から、もし氷晶と水滴が同時に存在したら、水滴は蒸発し氷晶が成長すると考えました。


(図1)ベルシェロンの観察(0℃以下だと霧が
林の小道に入らないが、0℃以上だと霧が入っ
てくる)

 ところで、“ウェーゲナー”という名前、聞いたこと、何か本で読んだことありませんか。彼こそが大陸移動説を唱えた人です。
 ウェーゲナーの2つの説は10年後、スウェーデンの気象学者ベルシェロン(Tor Bergeron)の観測により確かめられました。それは1922年2月、ベルシェロンが休暇で滞在したオスロの郊外のモミの木の林に包まれた丘へと続く小道を歩いていたときのことです。その小道が丘の脇にあるあたりで、林はいつも過冷却水滴の霧(層雲)に包まれていました。しかし、気温が0℃以下の時には霧が林の中まで入っていないのですが、気温が0℃以上だと霧が林の中まで入っていました(図1)。
 ベルシェロンはウェーゲナーの説に基づいて次のように結論しました。氷点下だと流れてきた過冷却水滴の霧粒が木々に触れて氷となります。氷と水の飽和水蒸気の違いから、後から流れ込んできた霧粒が蒸発し、木々の氷が成長し、林の中に霧がないのだと。ベルシェロンは更に研究を続け、1933年に雲粒形成の説を出しました。ベルシェロンの雲粒形成の説はドイツの物理学者フィンデセン(Walter Findeisen)により練られ、雨粒形成の理論が出されました。これは、ベルシェロン-フィンデセンの説として知られています。教科書に出ている、“冷たい雨”の説です。


(図2)雨の降る仕組み(冷たい雨)

 “冷たい雨”ができる仕組みは(図2)を見ながら読んでください。
低気圧や前線のそばではゆっくりとした上昇気流で上空に空気が運ばれます。空気が上昇するにつれて気圧が下がって膨張し、上昇した空気の気温が下がります。すると、飽和水蒸気圧も下がり、水蒸気は凝結し始め小さな水滴(雲粒)に変ります。水滴が小さいと氷点下40度近くまで、凍らずにいることができます。過冷却水滴ですね。ところが上空には小さなチリが飛んでいて、それが過冷却水滴にぶつかると直ちに氷(氷晶)に変ります。雲の中では氷晶と過冷却水滴が混在した状態となりますが、飽和水蒸気圧が大きい水滴が蒸発し、飽和水蒸気圧が小さい氷晶の方が成長します。氷晶が上昇気流に打ち勝つほどの大きさに成長すると落下し始めます。落下中に他の雲粒とぶつかって更に大きくなります。それが融けずに地面に達すると雪になり、融ける最中に地面に達したのが霙(みぞれ)、融けて地面に達すると雨になります。

No.72

2007.1 Categories地球規模の空気の流れ

コリオリの力

 Jリーグの試合、楽しみにしている人はたくさんいると思います。私はいい年なのでサッカーの思い出というと、高校時代に日本チームがメキシコオリンピックで取った銅メダルのことです。この試合は衛星中継され、日本での放送時間は早朝でした。もちろん見ました。見終わってから、学校へ自転車で足が痛くなるほどの全速力で行き、1時間目の授業に間に合いました。ところが、私のクラスで一時限目に出席した男子生徒は、私を含めて3人でした。一人はサッカーに興味がなく、もう一人も全速力で自転車で来ました。1時間目は数学で、先生は首をかしげながら、「今日は変だな。」と言って授業を始めました。他のクラスはわかりませんが、このことは校内で問題にならなかったようです。当時はプロチームこそありませんが、校内でサッカーが盛んだったので、先生方も事情がわかっていたのでしょう。
 前置きはこのぐらいにして、試合中あるいは練習中に走っている味方にボールをバウンドさせずにパスを出すことを思い浮かべてください。当たり前のことですが、今見えている相手の位置にパスを出すと、その人は走っているので、ボールはその人の後ろに落ちてしまいます(図1)。パスを出すときは、その人の前の方に蹴る必要があります。


(図1)走っている人にボールを蹴るときは・・・

(図2)回転円盤の上のボールの動き

 今度は、回転する円盤の上で、お互いに止まった状態でパスを出すことを考えてください(図2)。
例えば、円盤が反時計回りに回転(時計の針の回転と反対方向に回転)しているときに、相手に向かってボールを蹴るとどうなるでしょう。ボールはA点からB点に向かってまっすぐに飛んでいきます。しかし円盤が回転しているので、蹴った人はA´点に動き、受ける人はB´点に動きます。このため、蹴った人から見て、相手が左に動いているため、ボールは受け手の右の方に落ちます。蹴った人から見ると、ボールが右向きに力を受けて飛んでいったように見えます。

 このように、反時計回りに回転する円盤上で動く物は、その上に居る人から見ると、右向きの力が働いているよう見えます。この見かけの力を、「コリオリの力」と言います。

 地球は絶えず反時計回りに回転しています。このため、地球上で動くものはすべてコリオリの力を受け、地球上に居る人から見ると北半球で動くものはすべて右の方に動くように見えます(図3)。


(図3)地球上の物体の運動(北半球)

(図4)等高度線・等圧線と風の吹き方

 空気の流れもコリオリの力を受けています。そのため、上空では気圧が高い方から低い方へ動かそうとする力(気圧傾度力)とコリオリの力が釣り合って、空気の流れは等高度線(等圧線)とほぼ平行に吹きます(図4上)。つまり、北半球では高度の高い方を右に見るような空気の流れとなり、日本がある緯度帯では北に行くほど高度が低いので、日本の上空では西寄りの風が吹います。地上では地球の表面と空気との摩擦力が風を弱めるように働くので、気圧の低い方に向かって空気が流れます。北半球の地上では、気圧の高い方を右にすると風は左手前方に吹きます(図4下)。
 地球上で動くものすべてにコリオリの力が働きますが、その影響がわかるのは動く距離が大きい場合だけです。“ボールをゴールに向けて蹴ったけれど、少し曲がってゴールにならなかった”というシーンもありますが、これはコリオリの力の影響ではありません。ボールが飛ぶ距離ぐらいではコリオリの力の影響は限りなくゼロに近く、ボールが曲がって飛んでいくのは別の原因です。野球で場外に飛んでいくような打球や、飛んでいくゴルフボールもコリオリの力の影響は限りなくゼロに近く、打球が曲がる原因は別のものです。

No.70

2006.11 Categories大気の安定不安定

大気の安定・不安定(その2)

 天気予報で、「暖かく湿った空気が入るため、大気が不安定で・・・・」と言っていることがあります。なぜ、暖かく湿った空気が入ると大気が不安定になるのでしょう。空気の塊は何かのきっかけで上昇したとき、空気の塊の中で凝結が起こっているかいないかで、気温の下がり方が違うことを「大気の安定・不安定(1)」でお話しましたが、このことに関係があります。専門的なことになりますが、上昇する空気の塊の中で水滴が発生しない場合を「乾燥空気」と言います(図1左)。一方、水滴が発生している場合を「湿潤空気」と言います(図1右)。上昇中の乾燥空気の気温の下がり方は、湿潤空気の気温の下がり方よりも大きくなります。


(図1)乾燥空気と湿潤空

 まずは基本的なことをおさえておきましょう。(図2)は観測された気温の高さ方向の分布と、上昇する空気塊の気温の変化のようすを表しています。左右の図ともオレンジの線は、ある地点で観測した気温の高さ方向の分布です。左右の図の違いは各高さの気温が同じでも、右の図は地上付近の空気が左よりも湿っていると考えてください。


(図2)空気の温度変化(地上付近の湿度は右の方が高い)
イ:凝結高度 ロ:自由対流高度
湿った空気の方が、凝結高度が低くなり、自由対流高度も低くなる。

 空気塊は何かの力を受けて上昇します。どちらの場合も、空気塊の中で水滴が発生する(凝結が始まる)までは、気温は100mにつき1℃の割合で低下します(図2中、緑色の線)。 凝結が始まると、気温低下は100m毎に約0.6℃の割合で低下します(図2中、青色の線)。凝結が始まる高さを凝結高度(イ)と言います。さらに上昇を続けると、オレンジの線と交わっています。そこを自由対流高度(ロ)と言います。自由対流高度よりも高いところでは、上昇してきた空気塊の方が周囲の空気よりも温度が高くなっています。
 地上付近の湿度が高い空気が上昇したとき(図2右)は、湿度が低い空気が上昇するとき(図2左)よりも、水滴が出来る高度(イ:凝結高度)が低くなります。このため、湿った空気塊が上昇した場合のほうが、観測された周囲の空気と同じ気温になる高度(ロ:自由対流高度)も低くなります。上昇した空気塊が自由対流高度よりも高い所に行くと、周囲の空気よりも温度が高いため、上昇した空気塊が自由対流高度より高いところまで上昇できれば、外から力を加えなくてもその空気塊は上昇していきます。
 自由対流高度よりも高いところで、ある高さの観測された気温と上昇してきた空気塊の気温の差をみると、湿った空気塊の方が温度差が大きいことがわかります。上昇してきた空気塊と周囲の温度差が大きければ大きいほど、上昇する力(上昇気流)が強くなります。
 読んでいて頭が痛くなりませんでしたか?つまり、下層の湿度が高い空気は湿度が低い空気よりも小さな力で持ち上げるだけで、外から力を加えなくても上昇できる高さにたどりつけます。おまけに上昇する力も大きくなっています。このため、天気予報の解説で、「暖かく湿った空気が入るので、大気が不安定で・・・・」と言っているのです。
 下層の空気塊を上昇させる原因は、日射、低気圧や前線、山岳などがあります。このようなところに暖かく湿った空気が流入すると、激しい上昇気流により積乱雲が発生します。そして大粒の雨が降って時間当たりの雨量が多くなります。暖かく湿った気流の流入が長続きすると、積乱雲が次々に発生して強い雨が続き大雨になります。

No.69

2006.10 Categories大気の安定不安定

大気の安定・不安定(その1)

 空気を入れて膨らましたゴム風船を持ち上げ、手を離すと落ちてしまいます。しかし、水素やヘリウムを入れて膨らましたゴム風船の場合は、手をはなすと空に向かって上がっていきます。空気を入れて膨らましたゴム風船は、入れた空気の重さだけでなく、風船自身の重さも加わるので、周りの空気よりも重くなって落ちます(下降)。息を吹き込んで膨らませた風船には、空気の主成分の窒素よりも重い二酸化炭素や水蒸気が含まれているため、余計に重くなります。空気よりも軽い水素やヘリウムを入れて膨らましたゴム風船は、周りの空気よりも軽いので上がって(上昇)いきます。


(図1)ヘリウムを入れた風船と空気を入れた風船

 空気の塊をある高さに持っていった場合はどうでしょう。風船と同じで、上昇した空気の塊と周りの空気の重さの違いによります。上昇して空気の塊の重さが周囲の空気より軽ければ上昇し、重ければ下降します。


(図2)大気の安定・不安定

 上昇させた空気の塊の温度が周りの空気よりも低い場合(図2右)を考えてみましょう。同じ量の物質は、温度が低い方が密度は高く、温度が高い物質よりも重くなります。空気も同じで、同じ量の空気を比べた場合、温度の低い空気の方が温度の高い空気よりも密度が高くなります。空気の塊が上昇すると、高い所は気圧が低いので、上昇した空気の塊は膨張して温度が下がります。上昇した空気の温度が周りの空気より下がると、密度は周囲の空気より高く重くなり、もとの高さに戻ってしまいます。
 次に上昇させた空気の塊の温度が周囲の空気よりも高い場合(図2左)を考えてみましょう。上昇した空気は周囲の空気よりも温度が高いということは、上昇した空気の塊の方が周囲の空気よりも密度が小さく軽いということです。このため、上昇した空気の塊はさらに上昇していきます。
 このように、空気の塊をある高さに持ち上げた場合、元の位置に戻ろうとするような状態を、“安定した大気”と言います。逆に、空気の塊をある高さに持ち上げると、さらに上昇していくような状態を“不安定な大気”と言います。ヘリウムを入れた風船でも重りをつけると、上昇も下降もしない場合があります。もちろん、空気の塊をある高さに持ち上げて、上昇も下降もしない場合があります。このような状態は“中立な大気”と言います。
 空気の塊が上昇する場合の温度の低下は、上昇する空気の塊の中で水滴が出来るかどうか(凝結が起こっているかどうか)によって違います。上昇していく空気の中で凝結が起こっていない場合は、100mにつき約1℃ずつ温度が低くなります。「空気中の水蒸気の振る舞い」で書きましたが、水蒸気が凝結する場合には周囲に熱(凝結熱)を出します。このため、上昇する空気の塊の中で凝結が起こっているとき、つまり水滴が出来ているときは、100mにつき約0.4℃ずつ温度が低くなります。凝結すると水蒸気の量が減るので、凝結熱も少なくなりますね。上昇しながら水滴ができて、上昇している空気の塊の湿度が小さくなると、気温が下がる割合は、100mにつき1℃に近づいていきます。
 毎日の天気予報で「大気が不安定で・・・」と言っていることがありますが、大気の安定、不安定は雲の発生や発達、大雨と関係しています。

No.62

2006.3 Categories天気図

高層天気図と温度

 電車が走る音は、私が子供の頃は「ガタンゴトーン、ガタンゴトーン……」でしたが、今なら「ゴーッ」かもしれません。現在のレールは繋ぎ目の少ないロングレール(写真1右)が主流ですが、昔は(写真1左)のような繋ぎ目だけでした。(写真1左)から分かるように繋ぎ目には隙間があります。だから電車の走る音は「ガタンゴトーン、ガタンゴトーン……」でした。もし(写真1左)の繋ぎ目で、そこに隙間が無かったらどうなるでしょう。夏の暑い日には熱でレールが延びて盛り上がり、電車が走れなくなります。そのようなことが起こり、電車が走れなくなったというのを、ニュースで聞いたことがありました。


(写真1)線路の繋ぎ目

 このように金属は暖められると延びます。しかし、長さが変わっても重さは変わりません。さて、空気の場合はどうなのでしょう。空気の重さは圧力、気圧です。地上での気圧は同じで、暖かい空気の柱と冷たい空気の柱を考えると、ある気圧になる空気の柱の長さ、高さが違います。冷たい空気の方が暖かい空気よりも、柱の高さが短くなります。(図1)を見てください。例えば、地上の気圧が1000hPaで、暖かい空気の柱と冷たい空気の柱で500hPaの気圧になる高さを比べると、冷たい空気の柱の方が暖かい空気の柱よりも、500hPaの気圧となる高さが低くなります。


(図1)冷たい空気の柱と暖かい空気の柱の高さの比較

 (図1)のようなことは天気図ではどうなのでしょう。(図2)の500hPa高層天気図を見てください。


2005年8月8日午前9時                 2005年12月13日午前9時
(図2)500hPa高層天気図

 左は太平洋高気圧に覆われ、東北地方南部より西の日本各地で最高気温が30度を超えた日の500hPa天気図で、右は冬型の気圧配置となり、関が原付近の雪で東海道新幹線が遅れた日の500hPa天気図です。点線は気温が等しいところを結んだ線、等温線です。夏の天気図(左)は-6℃の等温線が日本付近にあり、中国大陸東岸から台湾にかけては-3℃の等温線があります。一方、冬の天気図(右)は-30℃の等温線が本州中部を東西に伸びていて、北海道北部から樺太には-42℃の等温線があります。冬の天気図ではとても冷たい空気が日本列島の上空にあることが分かります。
 今度は実線を見てください。前にもお話しましたが、実線は気圧が500hPaとなる高さの等しいところを結んだ線で、等高度線と言います。左の夏の天気図で日本列島付近にある等高度線は、5,880mか5,820mです。一方、冬の天気図(右)は5,400mの等高度線が本州の南海上から九州を通っています。その差は約400mとなっています。地上気圧は両方の天気図で同じではないですが、冬の方が、気温が低いときの方が、500hPaとなる高さが低いことが分かります。
 500hPaよりももっと高いところでも、(図1)のようなことは同じで、空気の柱の温度が低い方が、ある気圧になる高さが低くなります。我々が生活していて、いろいろな気象現象が起こっているところを対流圏と言い、その上には成層圏があります。対流圏と成層圏の境目を圏界面と言いますが、冬の圏界面は夏よりも低くなっています。同じ空でも、冬の方が空が低い?と言えるかもしれません。(図1)のように、「暖かい空気のほうが、冷たい空気よりも、ある気圧になる高さが違う」ということは、さまざまな気象現象を理解するための、重要な性質の一つです。

No.61

2006.2 Categories天気図

高層天気図と風

 「高層天気図」では、いろいろな高さの天気図が作られ、使われ方もさまざまであることをお話しました。今回は高層天気図と風の関係をお話しましょう。地図を見ると、川の流れは等高線をほぼ直角に横切るように流れています。地上天気図で、気圧の高い方から低い方に向かって等圧線に対してある角度で風が吹きますが(空気が流れる)、高層天気図ではどうなるのでしょう。もともと空気は気圧の高い方から低い方へと流れようとします。しかし、地表面との摩擦がほとんど無い高いところ、つまり高層天気図を作る高さになると、地球が自転していることにより、ほぼ等圧線(高層天気図では等高度線)に沿って空気が流れます。北半球では、高度の低い方が左になるようにして、等高度線に沿って空気が流れています、風が吹きます(図1)。


(図1)等圧線、等高度線と空気の流れ(風の吹き方)<北半球の場合>

 空気の流れる速さ、風の強さはどうなるのでしょう。急な斜面でボールは勢いよく転がります。地図で等高線の間隔が狭いところを流れる川では、流れが速くなっています。地上天気図も等圧線の間隔が狭いと、強い風が吹きます。高層天気図も同じで、等高度線間隔が狭いところでは、強い風が吹きます(図2)。


(図2)等高度線間隔と風速

 それぞれの観測所で観測された風は、高層天気図に矢羽根で風向と風速が表現されています。軸が風向を表し、それに付いている棒や旗が風速を表します。棒が1本だと10ノット、2本だと20ノット、三角の旗が1つで50ノット、2つで100ノットという具合です。半分の棒は5ノットを意味していて、これらの組み合わせで風速を表します。例えば(図3)右図で赤丸をつけた地点を見ると、軸が西南西から東北東に向かっていて、三角の旗が1つ、棒が4本、半分の棒が1本となっています。これは、西南西の風で95ノット、約43m/sの風が吹いていることを意味します。時速に直すと約155kmとなります。特急電車並みの早さで空気が流れている、風が吹いています。
 (図3)は去年(2005年)の8月8日(左)と12月13日(右)の500hPa天気図です。去年は夏が暑く、真冬の寒さが12月に入ったら急に訪れました。8月8日は東北南部より西で日中の最高気温が30℃以上の真夏日となりました。12月13日は冬型の気圧配置が強まり、関が原付近の雪でこの冬初めて東海道新幹線が遅れました。


2005年8月8日午前9時(日本時間)         2005年12月13日午前9時(日本時間)
(図3)500hPa高層天気図

(図3)の天気図には太い線や細い線(どちらも実線)がありますが、この線は気圧が500hPa となった高さを表しています。つまり等高度線です。点線は等温線です。等温線のことは考えず、等高度線と、風のデータだけに注目して両方の天気図を比べてください。日本付近の等高度線の間隔を見ると、12月13日の天気図は間隔が狭く、8月8日の天気図は間隔が広くなっています。風速を表す記号も、12月13日の天気図の方が三角の旗が付いていて、棒もたくさん付いています。一方、8月8日の天気図は、三角の旗は見ることができず、棒が付いていても1本と2本で、中には半分の棒だけのところもあります。12月13日の天気図のほうが、8月8日の天気図よりも日本付近の上空で強い風が吹いていることが分かります。共通していることは、軸の向きがほぼ等高度線に沿っていることです。  上空の強い風は、地上で生活しているとあまりピンときません。しかし、旅客機の運行には影響があります。東西方向に飛行するような路線、例えば東京と九州を飛行する場合で、(図3)右の12月13日のように上空で強い西よりの風が吹いているときは、東京から九州に向かうときよりも、九州から東京に向かうときの方が、飛行時間が短くなります。日本からアメリカに向かう場合は上空の西寄りの風が強い所を飛ぶと、燃料代が節約できるそうです。

No.59

2005.12 Categories天気図

高層天気図

 「天気図」では地上天気図のことをお話しました。気象の観測は地上だけでなく、上空の温度や湿度、風や気圧の観測も世界中で同時に行われています。どうやって観測するかというと、水素またはヘリュームガスを入れた大きなゴム風船に観測機器をぶら下げて(ラジオゾンデ)放ちます。ラジオゾンデは上昇しながら測定し、電波でデータを送ってきます。このデータを使えば、いろいろな高さの天気図、高層天気図を作ることができます。

 地上天気図は海面上の気圧分布ですが、高層天気図はある気圧になった高さの分布を示した天気図です。毎日の天気予報に使われる天気図は、下から850hPa天気図、700hPa天気図、500hPa天気図、300hPa天気図です(図1)。


(図1)高層天気図の種類

① 850hPa天気図
 上空約1500mの高さの天気図で、地表面の摩擦や熱などの影響がどうにかなくなる高さです。例えば、晴れた日には太陽の光で地面が温められると、それに接している空気も暖められます。しかし、850hPa面の高さになると、その影響がほとんどなくなります。このため、どのような性質の空気、つまり“暖かい空気が覆っているか”、“冷たい空気が覆っているか”などの判断に使います。もちろんこれ以上の高さの高層天気図は地表面の影響がさらに小さくなります。
 この高さの湿度と気温を組み合わせて、大雨になるかどうかの判断にも使います。よく天気予報で、「暖かく湿った空気が入り込むため大雨になります。」と言っているのを聞いたことがあると思いますが、この高さの空気のことを言っています。

② 700hPa天気図
 上空約3000mの高さの天気図です。気圧の谷や峰の動きや、それに関連した寒気や暖気のようすが分かります。少し専門的な話になりますが、この高さで上昇流や下降流を計算し、これより下の850hPa面の水蒸気の状態と組み合わせて、どの地域に雨が降りやすくなるかの判断に使います。“雨雲”もこの高さです。
 この高さで、気圧の谷が来れば天気が悪くなり、気圧の峰が来れば天気が良くなるのは地上だけでなく山でも同じです。日本アルプスがこの高さなので、日本の高い山に登る人は、この高さの天気図は重要です。


(図2)2005年2月1日午前9時の500hPa天気図

③ 500hPa天気図
 上空約5500mの高さの天気図です。いろいろな気象現象が起きている対流圏のほぼ中間に位置していて、対流圏のほぼ平均的な空気の流れを見ることができます。台風はこの高さの空気の流れに流されます。
 冬に天気予報で、「日本の上空(主に輪島や秋田)に氷点下××度の空気が入っているため、日本海側では大雪・・・」と言っていますが、この高さの天気図のことです。
(図2)は2005年2月1日午前9時の500hPa天気図です。地上天気図は西高東低の冬型で、この冬一番の寒気が入りました。高知市ではこの日に6cmの雪が降り、18年ぶりの大雪になりました。九州の南にある種子島でも6年ぶりに雪が降りました。
 黒い実線は気圧が500hPaとなっている高さを表しています。点線は温度が等しいところを結んだ等温線です。北陸地方で大雪の目安となる-36度の等温線が関東から瀬戸内海付近まで南下しています。-40度以下を観測したところは赤紫に色を付けました。日本列島の上空に、とても冷たい空気の入っていることが分かります。
 北海道の西に「L」のマークがありますが、500hPaの高さの低気圧の中心です。矢羽根は風の強さと風の向きを表しています。高層天気図と風については別の機会に説明しましょう。

④ 300hPa天気図
 対流圏の高いところで、約9000mの高さの天気図です。地球をグルット回っているジェット気流がどこにあるかを判断します。ジェット気流の位置や強さは、冬の寒気の様子や、日本の東海上から大陸まで連なる梅雨前線のような大規模な前線と密接な関係があります。
 国際線のジェット機はこれよりも高いところを飛びますが、強いジェット気流を利用したり避けたりして飛ぶので、航空機の運行にも欠かせない天気図です。

No.58

2005.11 Categories天気図

天気図

 各地にある気象台や測候所では、毎日決まった時間に天気だけでなく、気圧や風、温度・湿度、降水量(雨や雪の量)などを観測しています。このような観測は、地球上の全ての観測所で同時に行われています。それぞれの観測所で得られた結果を天気図に記入し、同じ気圧のところを結んで線(等圧線)を引くと天気図が描けます。

 しかし、観測所は場所により高さが違います。各観測所の気圧をそのまま地図に記入して等圧線を描くと、高いところにある観測所ほど気圧が低いため、高度の高い地域は必ず低圧部となってしまいます。そんな不自然なことはないですよね。天気図には海面上の値になおされた気圧(海面更正値)を記入して等圧線を描きます。地上天気図とは、つまり新聞やテレビで見る天気図は高さ0m、海面と同じ高さの圧力分布図です。

 天気図には高気圧・低気圧が記入されていますが、何hPa 以上を高気圧と呼び、何hPa 以下を低気圧と呼ぶのかという疑問をもったことはないでしょうか。「高さと気圧」では高さ0mの標準的な気圧は1013hPaだと書きましたが、1013hPaを境にしてそれより気圧が高い地域を高気圧、それより気圧が低い地域を低気圧にしているのではありません。1枚の天気図の中で、周辺よりも気圧が高く等圧線が丸く閉じているところが高気圧で、低気圧は周囲より気圧が低く等圧線が丸く閉じているところです。

 高気圧の中心は広いので、尖った一点ではなく、地形図で言うならば高原のようなものです。低気圧は噴火口や盆地に対応します。また、地形図と同じように、等圧線(等高度線)が谷状になっているところを気圧の谷、尾根状になっているところを気圧の尾根(気圧の峰ともいう)と呼びます。


(図1)2005年11月7日12時の地上天気図
 赤い両矢印:気圧の谷 青線:気圧の峰

 (図1)を見てください。高気圧は揚子江河口付近や日本の南海上、北海道の東海上にあります。低気圧は関東の東海上と北海道の西の海上とシベリアにあり、アリューシャン列島にもあります。気圧の谷は、渤海から中国大陸かけて(赤の両矢印)あります。気圧の峰は日本の南海上にある高気圧をほぼ東西に貫くような位置(青の二重線)にあります。前線も描かれています。線の右に半円が並んでいるのが温暖前線で、やはり線の右に三角が並んでいるのが寒冷前線です。北海道の西にある低気圧からは途中まで半円と三角が線の右側に同じ方向を向いて交互に並んでいます。これが閉塞前線です。この天気図にないですが、線の上に半円、下側に三角があり、それが交互に並んだのは停滞前線です。

 高気圧や低気圧に白抜きの矢印があってその脇に数字が書いてあります。例えば、関東沖の低気圧ならば、「20KT」と書いてあります。矢印は北東に向いています。「KT」は速度で、「ノット」です。2倍すると時速になります。関東沖の低気圧は「北東方向に時速40kmで進んでいます。」ということを表しています。高気圧や低気圧の場合は、半日程度はこのままの方向と速さで進みますから、いつごろどこに高気圧や低気圧が進み、天気がどうなるか、大体見当がつけられます。


(図2)2005年10月16日9時の地上天気図

 (図2)は今年(2005年)の10月16日9時の地上天気図です。 日本の南海上には台風20号がありますね。この台風はなかなく動かなくて、「いろいろ予定があるのにどうなるだろう。」と、気をもんだと思います。矢印が東北東に向いていて、速度は「ゆっくり」となっています。しかし、台風の進路予測では北上して日本に向かうようになっていました。台風は、進路を変えたり、スピードが速まったりすることがよくあるので、「今こう進んでいるから、こっちにはこない。」と思わないで、必ず台風情報を、最新の台風情報を確かめてください。

 (図2)の天気図を見ると、本州の太平洋側に半円と三角がそれぞれ反対方向を向いて互い違いに並んでいる線がありますね。これが停滞前線です。

No.51

2005.4 Categories大気の立体構造

空気層の名前とその性質

 前回第50号<空気の成分、水蒸気は?>で、空気はほとんどが窒素で占められており、その成分構成比は高さの違いでは変化しない、と書きました。では高さの違いによる気温の変化はどうなっているのでしょうか。

 その調査は、フランスの科学者デ・ボール(Leon Philippe Teisserenc de Bort)によって行なわれました。デ・ボールは1899年から1902年にかけて、人が乗っていない水素を入れた小さな気球に温度計を付けて飛ばし、測量で使うセオドライト2台使ってその気球を追跡し(図1)、方位角(北から東回りに測った角度)と仰角を観測しました。2台のセオドライトで同時観測をすると、気球の位置と高さがわかります。


(図1)2台のセオドライトによる気球の観測のイメージ図

 デ・ボールはこの調査により、気温が高さとともに低くなっていることを発見し、大気の低い部分をトロポスファー(troposphere:日本語では対流圏)と名づけました。トロポスファーはギリシャ語で、“tropos”ですが、“回転”あるいは“混合”を意味し、“sphere”は“空間”を意味します。さらにデ・ボールはトロポスファーより高いところに空気の軽い層があると考え、そこをストラトスファー(stratoshphere:日本語では成層圏)と名づけました。  やがて、無人気球で観測する方法は上空を安全に観測する方法として使われるようになり、1939年には現在世界各国で高層観測に使われている、気球に観測機器と発信機を付けたラジオゾンデによる高層観測を、ロシアの気象学者マルコーノフ(Pavel A Molchanov)が初めて行ないました。
 戦後は気象ロケットの観測により更に上空の気温分布などがわかりました。上空の大気層の呼び方は研究者により違っていましたが、1961年にWMO(世界気象機関)の高層気象専門委員会で勧告した分類が使われています。

 地上から約10kmまでを対流圏、約10kmから約50kmまでを成層圏、約50kmから約80kmを中間圏、約80kmから約500kmを熱圏と呼んでいます。


(図2)大気の名前

 対流圏では上空に行くほど気温が低くなり、いろいろな運動により空気が上下方向にかき混ぜられます。雲や雨などの気象現象や、台風や低気圧など日々の天気変化と関係ある大気運動はほとんど対流圏内で起こっています。
 成層圏では、高さが増しても気温がほとんど変わらない層があり、更に高いところでは高さが増すと気温が高くなります。 このため、成層圏では大気の上下方向の運動は起こりにくく、風は対流圏よりも弱くなります。しかし、成層圏の風や温度の変化は地球全体の気候に大きな影響を及ぼしています。成層圏はとても乾燥していますが、ごくわずかにある水蒸気により雲が発生します。この雲は高緯度で観測され、真珠のような光沢をしているので、真珠母雲と呼ばれています。太陽から来る強い紫外線から地球を守っているオゾン層は成層圏にあります。
 中間圏では再び高さが増すと気温が低くなります。電離層は電子密度の分布により、下からD層、E層、F層があり、その分布は熱圏に渡っています。中間圏には電離層の一番下にある、D層があります。
 熱圏では高さが増すに連れて気温が高くなります。ただし、熱圏では空気が非常に希薄なので、我々が仮にここに居ても皮膚に衝突する分子や原子の数は少なく、熱を感じることはないでしょう。熱圏が高温なのは、太陽からの紫外線を吸収するためです。そのため熱圏の温度はその時々の紫外線の強さに影響され、例えば、日中と夜間では数百度の温度差があるそうです。高緯度で見ることが出来るオーロラは熱圏で発生します。

No.50

2005.3 Categories空気の成分

空気の成分、水蒸気は

 人間は生きていくために、空気中の酸素(O2)を吸って二酸化炭素(CO2)を出しています。(図1)はある一定量の乾燥空気の成分比です。


(図1)乾燥空気中の成分比

この図からわかるように、空気の約78%が窒素(N2)で、酸素は約21%です。空気は窒素と酸素の占める割合が多く、その他のガスが空気中に占める割合はごくわずかです。この構成比は、上空80kmまでほとんど変わりません。ちなみに、我々の生活に影響する天気現象は地上から10kmぐらいの範囲で起こっています。

 空気中のガスの成分比が上空でもほとんど変わらないことを最初に確かめたのは誰でしょう。それはフランス人の科学者ジェイン・ビオット(Jean Biot)とジョセフ・ロイス・ガイルザック(Joseph Louis Gay-Lussac)です。彼らは1804年8月27日に水素ガスを充填した気球にゴンドラを付けて、高度約7,000mまで上昇しました。勿論、現在の航空機のような気密室付きのゴンドラではありません。彼らは上空の空気のサンプルを取って地上に戻ってから分析し、窒素と酸素の成分比が地上と同じことから、上空の空気も窒素と酸素の構成比は地上と同じと結論しました。彼らは動物も乗せて上昇し、高度が高くなると動物がどうなるかも観察しました。三週間後ガイルザックは一人で上昇し、高度とともに温度がどのように変化するかを観測しました。

 さて話は変わりますが、我々の生活に大きく影響する天気現象の、「雲、雨、雪……」はすべて空気中の水蒸気が変化して出来たものです。しかし、空気中の水蒸気が空気中に含まれる割合は一定していません。冬型の気圧配置のとき、太平洋側、特に関東の平野部では乾燥した晴天となります。洗濯物はよく乾き、乾した布団は乾燥してふっくらとなり、寝るとき暖かくて気持ちがいいですね。反対に梅雨期はじめじめした天気となり、このような天気のとき洗濯物はさっぱり乾きません。それどころか、大雨が降って川が氾濫したり、土砂崩れを起こすなど大きな災害となることもあります。水蒸気は水に変わるときに空気中にエネルギーを出し、水が蒸発して水蒸気になるときに回りからエネルギーを取り込みます。このエネルギーのやり取りが雲を発達させたり、台風の発達や衰弱にも大きく影響します。毎日の天気を左右する空気中の水蒸気は時間や場所(上空も含みます)によって大きく変化し、天気予報では神出鬼没の水蒸気の動きをいかに正確につかむか悩まされています。でも、水蒸気の量が絶えず変化するので天気の変化があり、日々の生活や毎日見る景色に彩を添えてくれます。


夕焼けに彩を添える雲
(水蒸気の量が時間・場所で変化するから現れる)

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