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お天気豆知識

気象現象の基礎知識の記事一覧

No.46

2004.11 Categories気圧

真空、気圧、ヘクトパスカル

地上天気図を見ると、低気圧や高気圧の中心付近に数字が書いてあります。単位はhPa(ヘクトパスカル)で圧力(気圧)の強さを表しています。今でこそ気圧あるいは真空の存在は一般的になっていますが、古代の学者の間ではそれらについての議論は哲学的な議論の対象でした。古代ギリシャの哲学者は真空の存在を無視しており、アリストテレスも自然界は真空の存在を嫌うと主張しました。


(図1)ガリレオによる真空の実験

真空が存在するであろうことを初めて実験で示したのは地動説で有名なガリレオ(Galileo Galilei:1564-1642)でした。
ガリレオはシリンダーに水を入れてすき間がないように栓をし、(図1)のように逆さにして砂を入れた容器をそれに吊るしました。するとシリンダーの中には水の上の部分に空間が出来ました。彼はそこが「真空」だと主張しました。


(図2)ベルティの実験

1641年にはローマの学者ガスパロ・ベルティ(Gasparo Berti:1600-1643)が別の実験で、「真空」の存在を示しました。(図2) 彼は先の曲がった高さ12mのチューブの両端にバルブをつけてチューブの中には水を入れ、両方の口は水の入った容器の中に沈めました。最初に上のバルブを開き、次に上のバルブを閉じて下のバルブを開けました。するとチューブの中の水はある高さまで落ち、チューブの中の上部には空間が出来ます。次に上のバルブを開くと、空気が大きな音を立ててチューブの中に入っていきました。つまり、チューブの上部に出来た空間は真空だったわけです。

この実験のことは、フローレンスの哲学者トリチェリー(Evangelista Torricelli:1608-1647)に伝わり、1644年には有名なトリチェリーの実験が行われています(図3)。
実験では片方が閉じた1mのガラスのパイプに水銀を満たし、水銀が入った容器の中にそれを立てました。すると、パイプの中の水銀は下がり、パイプの上部に空間が出来ます。そこが「真空」です。また、パイプの中に残った水銀の高さは約76cmでした。大気圧とパイプの中に残った水銀柱の重さが釣り合ったため、水銀がパイプの中に残っていたわけです。次に、容器の上部に水を入れてパイプを水のあるレベルまで引き上げました。パイプの口が水面に達すると、パイプの中に水が勢いよく入っていきました。この実験から、トリチェリーは「人間は大気という海の底に住んでいる(noi viviano sommersi nel fondo d’un pelago d’aria elementare)」と考えました。


(図3)トリチェリーの実験

トリチェリーの実験は同時代の人々に関心を持たれ、例えばローマの貴族フェルディナンド2世の兄弟であるカーディナル・ジョヴァニ・カルロ(Cardinal Giovanni Carlo)が1645年に、形や長さの違うパイプを使い、更にパイプを斜めにして同じ実験をしています。しかし、パイプの形が違っていても、パイプの中に残った水銀柱の高さは一緒でした(図4)。つまり、パイプの中に残る水銀柱の高さは、空気の圧力だけに関係しているからです。


(図4)空気の圧力の実験

フランス人のパスカル(Blaise Pascal:1623-1662)は、(図4)のような実験を長さ12mのパイプと赤ワインを使って行いました。なぜ赤ワインを使ったかというと、水より軽いからだということで、赤ワインを使うという発想はフランス人ならではですね。更にパスカルは「大気という海の底」に住んでいるのならば、海は深さにより水圧が違うのだから、山の上で同じ実験をするとどうなるだろうと考えました。しかし、パスカルはパリに住んでいて近くには山がありません。また彼は体が弱くて山に登る体力が無かったので、南フランスに住んでいた彼の義兄であるぺリエリ(Florin Perier:1605-1672)により、実験は1648年に(図3)の中央にあるような装置を使って行われました。ペリエは、まず山の麓で2本の真空を持つ水銀の入ったガラス管により、水銀柱の高さが71.2cmであることを確認し、そのうちの一本を麓に残してジャスタン神父に観察していてもらい、他の一本を持って山に登り麓より1000m高いところでの計測では62.7cmとなりました。頂上のいろいろな場所で計測しても、水銀柱の高さは同じ値を示し、また標高が違うと水銀柱の高さが違うこともわかりました。麓に戻って計測すると、両方の水銀柱の高さは同じになりました。「人間は考える葦である」と言ったのもパスカルで、圧力の性質を現した「パスカルの原理」も彼によるものです。

今年(2004年)は上陸する台風が多く、中心気圧は○○○ヘクト・パスカルの台風というのを聞く機会が多かったです。気圧の単位である「ヘクト・パスカル」は、彼の名前から来ており、記号で「hPa」と書くとき真ん中にあるにもかかわらず大文字の「P」を使うのも名前に由来しているからです。気圧の単位として1992年12月以前は「ミリバール(mb)」が使われており、1945年12月15日まで「ミリメートル水銀柱(㎜Hg)」が使われていました。Hgは水銀の水銀の化学記号です。また、日本で気象観測が始まった1875年6月1日から、1882年6月30日までは気圧の単位として、「インチ水銀柱」が使われていました。

気圧の単位が「ミリメートル水銀柱(㎜Hg)」がら「ミリバール(mb)」に変わったときは同じ気圧を表すのに数値そのものが変わったため単位の換算をしなければならず、気象庁にだいぶ苦情があったそうです。でも「ミリバール(mb)」から「ヘクト・パスカル(hPa)」に変わったときは、呼び方が変わっただけで単位の換算の必要がないため、苦情は少なかったそうです。ただ、「ミリバール」になれた私は、口の動きが多い「ヘクトパスカル」と言うときに舌をかみそうになります。

No.37

2004.2 Categories地球規模の空気の流れ

地球規模で吹く風

 日本列島は偏西風帯にあるということをよく聞くと思います。このため、高気圧や低気圧がほぼ西から東に移動し、天気も西から崩れてくることが多いことは経験済みです。日本の南は、年間を通してみると高気圧帯となっています。その中心は北緯30度付近です。さらに南に下がっていくと赤道付近にかけて東よりの風が卓越しています。
(図1)は冬と夏の平均地上天気図です。(図1)はこちらをクリック
この図から、北半球、南半球とも30度付近には高気圧帯があり、特に大西洋ではっきりしていることがわかります。北半球では高気圧から時計回りに風が吹き出すことを頭に入れてこの図を見ると、この高気圧帯の極側、北半球の北側では西よりの風が吹きやすくなっています。一方、赤道付近が低圧部になっていて、30度付近にある高気圧帯から赤道付近にかけては東寄りの風が吹きやすくなっています。北半球ではこの東寄りの風が吹きやすい地帯を北東貿易風帯と呼んでいます。
 帆船航海時代にはこのような地球規模で吹く風を利用しないと太平洋や大西洋を渡ることはできませんでした。大西洋を最初に横断してアメリカ大陸をヨーロッパに紹介したのはコロンブスですが、地球規模で吹く風をうまく利用したからこそできたことです。小倉義光著の一般気象学第2版(東京大学出版会)にそのことが書かれていますのでここで紹介します。 

 1492年コロンブスが帆船で初めて大西洋を横断するのに成功したが、それも彼が今日でいう北東貿易風を巧みに利用したからであった。それ以前にもすでに何人かの航海者は大西洋東部を探検し、アゾレス諸島に達していた。アゾレス諸島は、37°Nでスペインのほぼ真西にある。しかしコロンブス以前の人はアゾレス諸島からさらにまっすぐ西に進もうとして、その緯度帯に卓越する偏西風帯にさまたげられた。ところがそれより半世紀も前からポルトガル人は、アフリカ大陸の沿岸に沿って航海するのに、北東貿易風を利用していた。低緯度に行けば東寄りの風があることを知っていたのである。それでコロンブスはスペインを出発すると、まず南下してカナリー諸島に達し、そこから貿易風を利用して速やかに大西洋を横断することに成功したわけである(図2)。帰途はまず北上して偏西風帯に入り、アゾレス諸島に到着した。


(図2)コロンブスの最初の航海航路と、そのとき吹いていた風 (Gedzelman, 1980)

 16世紀から19世紀にかけての帆船によるヨーロッパとアメリカの貿易では、(図3)のようにコロンブスが航海した航路に近い航路で大西洋を横断しています。ヨーロッパからアフリカ西海岸を南下して赤道を越え、そこで奴隷を積んでアフリカを離れ、南半球の南東貿易風を利用してアメリカに渡ります。 

 アメリカでは砂糖や綿、ラム酒を積んで偏西風を利用して大西洋を渡りヨーロッパに戻ります。(図3)からわかるように北緯30度付近の大西洋中央は横断していません。最初に書いたようにこの緯度帯は高気圧帯のため風が弱く、ここに入ってしまうと船の動きが遅くなります。このため積んでいた食料の品質が低下し、積んでいた馬は船員により食べられてしまうので、この緯度帯は当時、ホース・ラティテュード(馬の緯度)と呼ばれていました。

No.31

2003.8 Categories

カミナリ

 ピカッ、ゴロゴロ。夏が来ると共に、カミナリの季節となります。関東地方の群馬県や栃木県の山沿いでは8月は月平均10~12回の雷雨があります。2~3日に1回は起きていることになります。


(写真1) かなとこ雲(1999年7月25日)
      大阪府枚方市にて撮影

雷雨を起こす雲は遠くから見るとムクムクと空高くまでそびえ立っている入道雲、つまり積乱雲です。積乱雲のてっぺんは1万mくらいで、さらに発達し、雲の頭が朝顔の花みたいに開いたかなとこ雲(写真1)では1万2千mくらいの高さです。地上では大粒の雨を降らせるこれらの雲でも、頭の方の雲粒は氷でできています。
積乱雲やかなとこ雲の中では激しい対流が起きています。例えばビーカーの中で味噌汁を温めると味噌の粒が上がったり下がったりグルグル回っているのがみえるでしょう。これが対流です。雲の中での上昇気流の速さは秒速10mになることもあります。10mというと雨が降っているとき、傘をさしていても横殴りの雨でびしょ濡れになってしまうほどの強さです。また、下降気流も強く雷雨の降る前には強い風が吹きます。
次は稲光についてです。雲から地面への放電、つまりカミナリが落ちるために必要な電圧は1億~2億ボルトくらいです。普通家庭で使う電気は100ボルトですから、その強さはすごいもので、落雷のため大木でも裂けてしまいます。
稲光は1回の放電で地面に届くわけではありません。空気中や雲の中には電気の通りやすいところがあり、そこを少しずつ何回にも分けて放電が起こり、やっと地面に届くのです。そこは電気が通りやすくなっており、逆に地面から雲に向かって放電が起こり、これで目に見える稲光ができます。ただ、その速さはとても速いため、一度に地面に落ちたように見えるのです。このように、電気の通りやすいところを探しながら放電するため、ギザギザの形にもなります。
中には地面に届かず途中で終わってしまう稲光もあります。カミナリは地面に、つまり下に落ちるとはかぎりません。雲から雲へ横に放電されることもあります。高い山でカミナリ雲の中に入るとカミナリは横や下から来ることもあります。
カミナリの音は、放電の時は強い電圧、電流も3万アンペアでそれが瞬間的に流れるため、その通り道は何万度という高温が一瞬のうちに発生します。その時の高い熱で急に膨らんだ空気が、周りの空気を押しのけ、またそれがもとに戻って空気を振動させ、あの「ゴロゴロ」という音を出します。

No.24

2003.4 Categories水蒸気

空気中の水の振る舞い

  晴れたり曇ったり雨が降ったりと毎日の天気の変化は、空気中の「水」が大きな役割をしています。雲や雨は空気中の水蒸気が変化してできたものですし、蒸し暑いのは空気中に水蒸気がたくさん含まれているからです。「水」は自然界の中で温度が変わることにより、液体(水)・気体(水蒸気)・固体(氷)と状態を変えます。水は状態が変わるとき、様々な振る舞いをします。
水が凍るときは、体積が約1割増加します。厳寒のとき、水道管が破裂するのはこのためです。その他にも、栓をしたままジュースやビールを冷凍庫の中に入れておくと、栓が取れて中身が吹き出して凍っています。湖が凍ると、諏訪湖の「御神渡り」のように氷が割れて、その割れ目が湖を横断します。
水は比熱(熱容量)が大きく、土(陸地)に比べると、暖まりづらく冷えにくい物質です。このために海岸地方は内陸に比べて冬は温暖であり、夏は涼しくなります。陸地は1日の温度変化がありますが、湖や海はほぼ一定となります。日中は陸上が海上よりも温度が高いため、陸上で上昇気流ができて海から陸に向かって風が吹きます。夜は陸上の方が海上に比べて温度が低いため、海上で上昇気流ができ陸から海に向かって風が吹きます。(バックナンバー「窓際の冷たい風と地球規模の空気に流れ」参照)
気象現象で「水」の最も重要な性質は、水蒸気になったり氷になったりするときに、周囲(自然界では空気)と熱のやりとりをすることです(図1)。水が蒸発するとき、周りから熱(気化熱)を奪います。反対に水蒸気が水(水滴)になることを凝結といい、凝結の熱(潜熱)を出し周りを暖めます。


(図1)水の変化と熱量

夏、地面の打ち水が涼しく感じるのは、その水が蒸発するときに周りから熱を奪うからです。冷たい飲み物をコップに入れて暖かい部屋に置いておくと、コップの周りに水滴が付き、コップの中身はぬるくなります。これは冷たいコップに水蒸気が着き、水蒸気が冷やされて水滴に変わったからです。「水蒸気が冷やされて」と書きましたが、見方を変えると、水蒸気の「熱」がコップに伝わっています。
台風付近では、熱帯海域の高温多湿な空気が上昇して凝結(水蒸気が水滴に変わる)して雲粒になります。このときに出す多量の潜熱(1グラムの水蒸気が凝結すると約600calの熱を放出する)は、その周りの空気を暖めて軽くし上昇気流を強めるため、台風をますます発達させるエネルギー源となっています。夏、入道雲(積乱雲)の急激な発達でも、水蒸気が雲粒に変わるときに放出される「熱」が大きな役割を担っています。

No.15

2002.11 Categories地球規模の空気の流れ

窓際の冷たい風と地球規模の空気の流れ


(図1-1) 日中の空気の流れ

(図1-2)夜の空気の流れ
(図1)海陸風

  冬、暖房の効いた部屋でも窓ガラスの近くに行くとスースーします。熱気球でもわかるように、空気は暖まると軽くなって上昇し、冷えると重くなって下降します。窓ガラスに接した空気は冷やされて重くなって下降し、そこに周りから暖かい空気が補充され、窓ガラスの近くで対流が起きています。つまり、空気の流れができて、スースーするわけです。
話のスケールを大きくして、海岸地方での空気の流れを考えてみます。高気圧に覆われたよく晴れた日、日中は海から陸に向かって風が吹き、夜になると陸から海に向かって風が吹きます。陸地は水に比べて、暖まりやすくさめやすい性質があります。このため、太陽が出ている日中は陸地の方が海水よりも温度が高くなり、陸地にある空気も海上にある空気より温度が高くなります。このため、日中は陸上で上昇気流が起き、海上から空気が流れ込んで「海風」となります(図1-1)。夜になると、海上に比べて陸地の温度が低くなるため、上昇気流は海上の方に起き、陸から海に向かって空気が流れ「陸風」となります(図1-2)。このような空気の流れ方で吹く風を「海陸風」といいます(図1)。
さらに話のスケールを大きくして、地球全体のことを考えてみましょう。赤道付近は常に暑いのですが、北極・南極は氷の世界です。両極地方と赤道地方には大きな温度差があります。今までの話から、赤道方面では上昇気流、両極地方では下降気流となりやすく、地上では赤道方面に向かって両極地方から空気の流れができそうなことが想像できます。
しかし、実際にはそのようになっていません。それは、地球が自転しながら太陽の周りを公転しているからです。しかも、地球の自転軸は公転面に対して傾いています。さらに、地球上には海や陸があり、陸地の上にはヒマラヤのような高い山もあります。このため、地球上の空気の流れは複雑怪奇(?)な流れとなっています。しかし、複雑怪奇な流れも平均化してみると、ある程度規則性のある流れとなっており、各緯度帯で特徴のある流れとなっています。
赤道方面から北上しながら平均的な空気の流れを見てみましょう(図2)。赤道付近で上昇した空気は、緯度30度の少し南で下降気流となります。日本に夏の晴天をもたらす大平洋高気圧はこの下降気流によりできたものです。太平洋高気圧は背が高く、上空の天気図でもその位置に高気圧があります。このため、夏は晴天が続きやすくなります。冬の地上天気図ではよくわかりませんが、上空の天気図を見ると、日本の南海上は高圧帯となっています。
太平洋高気圧の南側では北東の風が吹きやすくなっています。だいたい、ハワイ諸島の緯度帯です。この風は一年中ほぼ安定しているため、この緯度帯の天気も安定しています。この辺りを北東貿易風帯といっています。一方、日本の上空では西よりの風が吹きやすくなっており、高気圧や低気圧はその流れに動かされます。そのため、日本の天気は西から天気が変化してくることが多くなります。


(図2)地球規模の大気の流れ

No.11

2002.10 Categories温度

高いところはなぜ寒いの

 タバコの火を直接さわればやけどをしますし、タバコの火の不始末から火事というニュースを聞くこともあります。タバコの火はかなり高温だということがわかります。実際、火のついたタバコは700℃以上の高温になることもあるそうです。しかし、火がついたタバコを指に挟んでいても、タバコを吸っていて火が口の近くにあっても熱くありません。それは空気が熱を伝えにくい物質だからです。
我々は空気を断熱材として、有効に利用しています。衣服を着るのもそうで、繊維の間にある空気が断熱材の役目をしています。家の中では襖や障子も紙の繊維の間に含まれている空気が断熱材です。
ある空気塊が上昇したときのことを考えます。空気は上空ほど気圧が低くなっていますから、空気塊が上昇するとその圧力は周りの気圧よりも高いため空気塊は膨張します。この空気塊と周りの大気との間に熱交換がない場合、空気塊の温度は下がります。
逆に、空気塊が下降するときは、空気塊の圧力が周りよりも小さくなるため圧縮されます。その結果、空気塊の温度は上がります。自転車に手押しポンプで空気を入れると、ポンプの下の方が熱くなることを経験している方もいるかと思います。
空気塊が上昇するとともに気温が低くなる割合を専門用語では「気温減率」といっています。気温減率は、空気塊中で水蒸気の凝結が起こっていない場合、つまり雲粒が発生していないときは、<1kmにつき約10゜C>となります。ところが、水蒸気が水滴に変わり始めると温度の下がり方が違ってきます。
それは、空気塊が上昇して膨張し、温度が下がり水蒸気が雲粒に変わり始めると、その空気塊中の水蒸気が水滴に変わるときに発生する熱が放出されるためです。このため上昇による空気塊の気温が低くなる割合は、雲粒ができない場合よりも小さくなり、次のようになります。

対流圏下部の暖かい空気(2~3km)4゜C/kmくらい
対流圏中部(4~6km)6~7゜C/kmくらい
対流圏上部(7~8km以上)10゜C/kmに近づく
(水蒸気がもともと少ないため)

気温減率を知っていると生活面、特にレジャー面では便利です。地上より早く始まる紅葉を見に高原や山に行くときのことを考えてください。気温減率は雲粒が発生する場合とそうでない場合では違いますが、平均して6.5゜C/1kmとなります。毎日の天気予報で翌日の予想気温がわかりますから、これから行く所とその近くの気温予想地点の標高差に気温減率をかけ、予想気温から引けばよいのです。

例えば標高差が1000mあれば平地よりも約7゜C低い気温となります。衣服の調節ができ、寒い思いをしなくてすむでしょう。もっとも、その気温が今住んでいる所ではいつ頃の季節に相当するか、わかっていなければなりません。

No.10

2002.10 Categories水蒸気

 テレビやラジオの天気予報で「濃霧注意報が出ています」とか「海上濃霧警報が出ています」というのを耳にすることがあります。また霧のため、いつも見えていた丘や建物、入り江や岬、島が見えない、港全体が見えないという経験をお持ちではないでしょうか。
霧は極小さな水の粒、例えば霧吹きでできる水の粒よりもさらに小さな水の粒が空気中に浮かんでいる状態で、水平方向に見える距離が1km以下の時をいいます。ちなみに水平方向に見える距離が1km以上10km未満の時は靄(もや)といいます。


(写真1)沸騰したヤカンの口
から出た湯気の様子

霧はどのようにしてできるのでしょうか。空気には水蒸気という形で水が含まれています。気温によって空気中に含まれる水蒸気の量は決まっています。暖かい空気はたくさんの水蒸気を含むことができますが、冷たい空気は少ししか含むことができません。このため、何かの原因で気温が下がると余分な水蒸気は水の粒となって目に見えてくるのです。
この現象は私たちの身近なところでも見ることができます。(写真1)のように沸騰したヤカンの口から湯気が出てきます。よく見るとヤカンの口のすぐ近くは透明です。これはヤカンの口から出たときはまだ温度が高く、水蒸気の状態だからです。口から少し上の方では、冷やされ余分な水蒸気が水の粒となって目に見えてくるのです。

自然の中で空気が冷やされる原因はいくつかあります。濃い霧で有名な三陸沖の場合はどうでしょうか。三陸沖には親潮という冷たい海流が流れており、夏になるとこの上に太平洋高気圧から暑い湿った空気が流れ込んできます。すると冷たい親潮でこの空気が冷やされます。このため余分な水蒸気は水滴となって空気中に浮かび霧となります。このような霧を移流霧といいます。風向きによってはこの霧が陸に入ることもあります。
空気が沿岸の山に沿って上昇するときにできる霧もあります。高度が上がるほど気温は下がるため、山の斜面に沿って上昇した空気は冷やされ余分な水蒸気は水滴となって空気中に浮かび霧となります。このうような霧は滑昇霧といいます。滑昇霧にしても移流霧にしても、それほど背の高いものではありません。このため沿岸にある1000mくらいの山を越えることはできず、沿岸では霧でも内陸では晴れていることがあるのです。

一方内陸では、放射霧と呼ばれる霧が発生します。気温は、日の出る少し前が最も低くなります。すると空気中の余分な水蒸気が水滴となって霧が発生します。しかし、太陽が昇り気温が高くなるとこの霧は消えてしまいます。放射霧は秋に、しかも日中雨が降り、夜になってよく晴れた時に発生しやすいのです。北海道の旭川やシベリアのような寒い地方では冬に小さな氷の粒でできた霧も発生します。これに光があたるとキラキラと輝いて美しいそうです。

No.8

2002.10 Categories気圧

高さと気圧

  ニュートンが木から落ちるリンゴを見て、重力の存在に気が付いたという話は有名です。地球上では、重力によってあらゆる物が、地面の方向に引きつけられています。空気も例外ではなく重力により地上に引きつけられています。このため、ある高さの大気の層は上にある空気の重さで押しつけられているため、下層ほど密になっており気圧も高くなります。
気圧は一定面におよぼす力で表し、平均的に見ると高さ0mの地表での気圧は約1013hPaです。地上の気圧が1013hPaということは、深さ10mの水中で受ける圧力と同じです。気圧とは、地表のある一定の断面積を考えると、その上にある地表から大気の上限まで連なる大気の柱(気柱)の重さということになります。ところが、気圧すなわち大気の圧力は、我々の身体はもちろん、全ての面に垂直に、その面が上向きでも下向きでも横向きでも、面の向きに関係なく等しい力で働いているため、空気の重さは感じません。
高い所に行くと、その上にある空気の量が少なくなるわけですから、高さが増すに連れて気圧は低くなります。高さが増すことによる気圧の下がり方は、大気の比較的低い層では1kmについて100hPa、つまり10mについて約1hPaの割合で低くなります。また、ある高さ以上になると気圧は高さとともに急激に低くなっています。
高い所や、山に登ると以下のようなことが起こります。



お湯は100℃で沸騰しますが、これは1気圧(1013hPa)でのこと。高度が高くなれば気圧が低くなるため、沸騰する温度も下がります。このため、高い山の上でご飯を炊くと芯ができてしまいます。

高い山の上は気圧が低いため、ビールの蓋を開けるときは、地上よりも中身が勢いよく吹き出るため注意が必要です。また、高い山の上で、ビールなどのアルコール類を飲むと、地上で飲むよりも早く酔います。

山に登る際、カートリッジの万年筆を持っていったところ、山の上で万年筆からインクが出てしまっていることに気が付きました。これは、カートリッジの中に残っていた空気は地上と同じ圧力を持っているため、外との気圧差によりカートリッジの中に入っている空気がインクを押し出したからです。
キャンディーなどには一個づつ個別包装された物があります。この袋は地上ではペチャンコですが、山の上に行くとパンパンになるくらいに膨らみます。袋の中に入っている気体の圧力は地上と同じなため、山の上に持ってきたことにより、周囲との気圧差で膨らんでしまったからです。キャンディーに限らず、しっかりと閉じた袋に入った物には同じようなことが起こります。

No.7

2002.9 Categories地球規模の空気の流れ

地球規模の大気の流れ(エネルギー輸送)

 鍋とかやかんに水を入れ、ガスコンロなどで熱すると対流を起こしながら温まっていきます。このときのエネルギー源はガスコンロなどの熱です。地球の大気も低気圧や高気圧が来たり、台風が来たりなどして動いていますが、このような地球大気が運動するためのエネルギー源は、太陽からの光(放射)です。太陽光線が地球に当たる際には、平行光線として考えます。しかし、地球は「ほぼ球」であるため、高緯度の地域では太陽光線が斜めに当たるようになり、地球が太陽から受ける放射エネルギー(熱量)は赤道付近に比べて小さくなります。
ところで、あらゆる物体はその温度に比例して、赤外線の形で熱量を空間に放射しています。地球も宇宙空間に電磁波の形で熱量を放射しています。地球が宇宙空間に放射している熱量は、高緯度ほど小さくなりますが、緯度による差はそれほど大きなものではありません。


(図1)地球規模のエネルギーの流れ
「大気」「海洋」の矢印で、太く長い矢印は南北熱輸
送量が大きいことを表します。

話を元に戻しますが、太陽から受ける熱量は高緯度ほど小さいにもかかわらず、地球から出る熱量が緯度による差が少ないため、1年を通してみると、緯度40゜より高緯度の地域は、地球が受け取る熱量よりも地球から出ていく熱量の方が多くなります。緯度40゜より低緯度の地域では、その逆で地球が受け取る熱量の方が出ていく熱量よりも多くなっています。それならば、低緯度の地域には熱がたまり年々高温となり、高緯度の地域は冷え続け年々温度が低くなってもよさそうですが、そのようなことは起きていません。なぜかというと、海洋と大気が低緯度の余分な熱量を高緯度側に運んでいるからです。(図1)に地球規模でのエネルギーの流れを示しました。
大気も海洋も低緯度から高緯度に直接流れてもよさそうですが、少々複雑ですが規則性のある流れとなっています。それは、地球が「球」であり、太陽の周りを公転し、公転面に対し自転軸が少々傾いていて、大きな大陸があり、ヒマラヤのように高い山岳地帯があるからです。低緯度から高緯度への熱量の輸送の結果生じた平均的な流れのうち、大気の流れは大気大循環ともいっています。海洋では海流ができています。
話のはじめの方で、高気圧や低気圧、台風のことをいいましたが、これらは地球上のエネルギー分布のアンバランスを直そうとして生じた現象です。この中で生きている人間としては、台風や低気圧で大きな災害を受けなくてはならないのはしんどいですよね。しかし、避けられない事ならばその情報を早く察知して、その被害をいかに少なくするかが重要となります。天気予報があるのもそのためです。

No.6

2002.9 Categories水蒸気

雨が降るしくみ

  できるだけ濃い塩水や砂糖水を作り、それを冷やしていくと塩や砂糖が結晶となって現れてくることを経験した方もいるかと思います。これは、水の温度によって塩や砂糖を含むことができる量が決まっているからです。つまり、水の温度が高いとたくさんの塩や砂糖を含むことができますが、水の温度が低いと少ない量しか含むことができないのです。空気中に含まれる水蒸気の量も同じで、気温が高いと含むことができる水蒸気の量は多くなり、気温が低いと少なくなるのです。


(図1)雲粒と雨粒の大きさの比較
(参考文献: 水野量著「雲と雨の気象学」朝倉書店,2000)

水蒸気を含んだ空気がゆっくりと冷やされると、飽和水蒸気圧が低くなりやがて相対湿度が100%以上の過飽和という状態になります。過飽和の状態の空気に、細かい粒を入れるなどして刺激と与えると、水滴(雲粒)ができます。雲粒の直径は5~10μm(1μmは1000分の1mm)程度で、空気1cm3あたりの雲粒の数は100~1000個程度です。雲粒の落下速度は非常に小さく、すぐに蒸発してしまいます。雲の中では、常に雲粒の発生と蒸発を繰り返しています。
雲から雨が降る、あるいは雪が降るのは、雲の中で大きな降水粒子(雨粒や雪などの総称)が数多く作られ、それが地上まで落下したからです。ところが、雨粒の典型的な大きさは1mmで、1m3の空気塊中の雨粒の数は100~1000個です。大ざっぱな見方をすると、100万個の雲粒が集まって、やっと1個の雨粒を作っていることになります。(図1)に雲粒と雨粒の大きさの比較を示しました。
小さな雲粒から雨粒になる降水の仕組みには2つの型があります。ひとつは氷の微少な結晶(氷晶)が元で降る冷たい雨(氷晶雨)、もうひとつは水粒だけの雲から降る暖かい雨です。日本では、冬と春秋に降るやや強い雨は冷たい雨といわれます。夏は暖かい雨が多く、場合によっては冷たい雨が降るともいわれています。「冷たい雨」、「暖かい雨」という言葉を使いましたが、降ってくる雨が氷水のように冷たかったり、ぬるま湯のような雨が降るわけではありません。「冷たい雨」、「暖かい雨」とは雨の最初が、氷(冷たい雨)か水(暖かい雨)かの違いです。
空気中での水滴の落下速度は、水滴(雨粒)が大きいほど速くなります。大きい雨粒は、落下しながら途中にある小さな水滴(雲粒や小さな雨粒)を併合しながら落下します。しかし上昇流が強いと地上に落ちて雨にはならず、上昇しながら雲粒をくっつけて大きな雨粒に成長します。上昇流に打ち勝つ大きさに成長すると、再び落下しながら雲粒をくっつけ、さらに大きな雨粒となり地上まで落下して雨となります。ただし、雨粒が大きくなりすぎると分裂し、再び雲粒をくっつけて大きな雨粒に成長しながら上昇します。(図2)


(図2)雨滴の成長と上昇気流

このように冷たい雨でも暖かい雨でも、強い上昇気流がある背の高い雲の中では、大粒の雨が降るため、短時間で強い雨が降ります。大粒の雨を降らせる雲は、強い上昇気流(数m/sときには数10m/s)がある発達した積乱雲です。一方、低気圧や温暖前線付近では上昇流が弱く(1~10cm/s)、しとしとと降る地雨性の雨をもたらす乱層雲が主です。
集中豪雨には発達した積乱雲がつきもので、大雨となるときは雨の降るときものすごい音がします。雨の降る音が大きく、その時間が長いときは雨量も多くなります。
ところで、雨粒の形を球形で表現しましたが、実際にはその大きな雨粒ほど(図3)のようにつぶれた形となります。


(図3)風洞実験で求めた落下中の雨粒の形(H.R.Pruppacher and K.V.Beard)

※飽和水蒸気圧
気体中に含むことができる水蒸気の量には限度があり、これ以上含むことができないという状態を飽和といいます。この時の水蒸気圧を飽和水蒸気圧といいます。飽和水蒸気圧は温度、圧力に影響されます。気体の温度が上がると飽和水蒸気圧も上がります。つまり、より多くの水蒸気を含むことができるようになります。

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