スマートフォンサイトを見る

お天気豆知識

水蒸気の記事一覧

No.88

2008.5 Categories水蒸気

過冷却、過冷却水滴、雨粒の形成

 1731年12月15日のとても寒い日、ストックホルムでの出来事です。スウェーデンの学者、テリーワールド(M.Triewald)は不思議な現象をみることができました。彼がある貴族の宮殿で、溜められた水に触ったところ、その水は直ちに氷に変りました。彼は1772年にロンドンの王立科学院にその現象を報告しましたが、なぜそのようなことが起こったかは説明できませんでした。
 この不思議な現象が科学的に説明されたのは180年後のことです。ドイツの科学者ウェーゲナー(Alfred Wegener)は1911年に2つの重要な説を出しました。

● 水は融点(0℃)以下でも液体のままである(過冷却といっています)。
● 氷の粒(氷晶)が空気中にあると、その氷の粒は水蒸気を引き寄せる。それは氷の粒の周りの水蒸気圧が水滴の周りの水蒸気圧よりも低いからである。

ウェーゲナーはこの2つの説から、もし氷晶と水滴が同時に存在したら、水滴は蒸発し氷晶が成長すると考えました。


(図1)ベルシェロンの観察(0℃以下だと霧が
林の小道に入らないが、0℃以上だと霧が入っ
てくる)

 ところで、“ウェーゲナー”という名前、聞いたこと、何か本で読んだことありませんか。彼こそが大陸移動説を唱えた人です。
 ウェーゲナーの2つの説は10年後、スウェーデンの気象学者ベルシェロン(Tor Bergeron)の観測により確かめられました。それは1922年2月、ベルシェロンが休暇で滞在したオスロの郊外のモミの木の林に包まれた丘へと続く小道を歩いていたときのことです。その小道が丘の脇にあるあたりで、林はいつも過冷却水滴の霧(層雲)に包まれていました。しかし、気温が0℃以下の時には霧が林の中まで入っていないのですが、気温が0℃以上だと霧が林の中まで入っていました(図1)。
 ベルシェロンはウェーゲナーの説に基づいて次のように結論しました。氷点下だと流れてきた過冷却水滴の霧粒が木々に触れて氷となります。氷と水の飽和水蒸気の違いから、後から流れ込んできた霧粒が蒸発し、木々の氷が成長し、林の中に霧がないのだと。ベルシェロンは更に研究を続け、1933年に雲粒形成の説を出しました。ベルシェロンの雲粒形成の説はドイツの物理学者フィンデセン(Walter Findeisen)により練られ、雨粒形成の理論が出されました。これは、ベルシェロン-フィンデセンの説として知られています。教科書に出ている、“冷たい雨”の説です。


(図2)雨の降る仕組み(冷たい雨)

 “冷たい雨”ができる仕組みは(図2)を見ながら読んでください。
低気圧や前線のそばではゆっくりとした上昇気流で上空に空気が運ばれます。空気が上昇するにつれて気圧が下がって膨張し、上昇した空気の気温が下がります。すると、飽和水蒸気圧も下がり、水蒸気は凝結し始め小さな水滴(雲粒)に変ります。水滴が小さいと氷点下40度近くまで、凍らずにいることができます。過冷却水滴ですね。ところが上空には小さなチリが飛んでいて、それが過冷却水滴にぶつかると直ちに氷(氷晶)に変ります。雲の中では氷晶と過冷却水滴が混在した状態となりますが、飽和水蒸気圧が大きい水滴が蒸発し、飽和水蒸気圧が小さい氷晶の方が成長します。氷晶が上昇気流に打ち勝つほどの大きさに成長すると落下し始めます。落下中に他の雲粒とぶつかって更に大きくなります。それが融けずに地面に達すると雪になり、融ける最中に地面に達したのが霙(みぞれ)、融けて地面に達すると雨になります。

No.24

2003.4 Categories水蒸気

空気中の水の振る舞い

  晴れたり曇ったり雨が降ったりと毎日の天気の変化は、空気中の「水」が大きな役割をしています。雲や雨は空気中の水蒸気が変化してできたものですし、蒸し暑いのは空気中に水蒸気がたくさん含まれているからです。「水」は自然界の中で温度が変わることにより、液体(水)・気体(水蒸気)・固体(氷)と状態を変えます。水は状態が変わるとき、様々な振る舞いをします。
水が凍るときは、体積が約1割増加します。厳寒のとき、水道管が破裂するのはこのためです。その他にも、栓をしたままジュースやビールを冷凍庫の中に入れておくと、栓が取れて中身が吹き出して凍っています。湖が凍ると、諏訪湖の「御神渡り」のように氷が割れて、その割れ目が湖を横断します。
水は比熱(熱容量)が大きく、土(陸地)に比べると、暖まりづらく冷えにくい物質です。このために海岸地方は内陸に比べて冬は温暖であり、夏は涼しくなります。陸地は1日の温度変化がありますが、湖や海はほぼ一定となります。日中は陸上が海上よりも温度が高いため、陸上で上昇気流ができて海から陸に向かって風が吹きます。夜は陸上の方が海上に比べて温度が低いため、海上で上昇気流ができ陸から海に向かって風が吹きます。(バックナンバー「窓際の冷たい風と地球規模の空気に流れ」参照)
気象現象で「水」の最も重要な性質は、水蒸気になったり氷になったりするときに、周囲(自然界では空気)と熱のやりとりをすることです(図1)。水が蒸発するとき、周りから熱(気化熱)を奪います。反対に水蒸気が水(水滴)になることを凝結といい、凝結の熱(潜熱)を出し周りを暖めます。


(図1)水の変化と熱量

夏、地面の打ち水が涼しく感じるのは、その水が蒸発するときに周りから熱を奪うからです。冷たい飲み物をコップに入れて暖かい部屋に置いておくと、コップの周りに水滴が付き、コップの中身はぬるくなります。これは冷たいコップに水蒸気が着き、水蒸気が冷やされて水滴に変わったからです。「水蒸気が冷やされて」と書きましたが、見方を変えると、水蒸気の「熱」がコップに伝わっています。
台風付近では、熱帯海域の高温多湿な空気が上昇して凝結(水蒸気が水滴に変わる)して雲粒になります。このときに出す多量の潜熱(1グラムの水蒸気が凝結すると約600calの熱を放出する)は、その周りの空気を暖めて軽くし上昇気流を強めるため、台風をますます発達させるエネルギー源となっています。夏、入道雲(積乱雲)の急激な発達でも、水蒸気が雲粒に変わるときに放出される「熱」が大きな役割を担っています。

No.10

2002.10 Categories水蒸気

 テレビやラジオの天気予報で「濃霧注意報が出ています」とか「海上濃霧警報が出ています」というのを耳にすることがあります。また霧のため、いつも見えていた丘や建物、入り江や岬、島が見えない、港全体が見えないという経験をお持ちではないでしょうか。
霧は極小さな水の粒、例えば霧吹きでできる水の粒よりもさらに小さな水の粒が空気中に浮かんでいる状態で、水平方向に見える距離が1km以下の時をいいます。ちなみに水平方向に見える距離が1km以上10km未満の時は靄(もや)といいます。


(写真1)沸騰したヤカンの口
から出た湯気の様子

霧はどのようにしてできるのでしょうか。空気には水蒸気という形で水が含まれています。気温によって空気中に含まれる水蒸気の量は決まっています。暖かい空気はたくさんの水蒸気を含むことができますが、冷たい空気は少ししか含むことができません。このため、何かの原因で気温が下がると余分な水蒸気は水の粒となって目に見えてくるのです。
この現象は私たちの身近なところでも見ることができます。(写真1)のように沸騰したヤカンの口から湯気が出てきます。よく見るとヤカンの口のすぐ近くは透明です。これはヤカンの口から出たときはまだ温度が高く、水蒸気の状態だからです。口から少し上の方では、冷やされ余分な水蒸気が水の粒となって目に見えてくるのです。

自然の中で空気が冷やされる原因はいくつかあります。濃い霧で有名な三陸沖の場合はどうでしょうか。三陸沖には親潮という冷たい海流が流れており、夏になるとこの上に太平洋高気圧から暑い湿った空気が流れ込んできます。すると冷たい親潮でこの空気が冷やされます。このため余分な水蒸気は水滴となって空気中に浮かび霧となります。このような霧を移流霧といいます。風向きによってはこの霧が陸に入ることもあります。
空気が沿岸の山に沿って上昇するときにできる霧もあります。高度が上がるほど気温は下がるため、山の斜面に沿って上昇した空気は冷やされ余分な水蒸気は水滴となって空気中に浮かび霧となります。このうような霧は滑昇霧といいます。滑昇霧にしても移流霧にしても、それほど背の高いものではありません。このため沿岸にある1000mくらいの山を越えることはできず、沿岸では霧でも内陸では晴れていることがあるのです。

一方内陸では、放射霧と呼ばれる霧が発生します。気温は、日の出る少し前が最も低くなります。すると空気中の余分な水蒸気が水滴となって霧が発生します。しかし、太陽が昇り気温が高くなるとこの霧は消えてしまいます。放射霧は秋に、しかも日中雨が降り、夜になってよく晴れた時に発生しやすいのです。北海道の旭川やシベリアのような寒い地方では冬に小さな氷の粒でできた霧も発生します。これに光があたるとキラキラと輝いて美しいそうです。

No.6

2002.9 Categories水蒸気

雨が降るしくみ

  できるだけ濃い塩水や砂糖水を作り、それを冷やしていくと塩や砂糖が結晶となって現れてくることを経験した方もいるかと思います。これは、水の温度によって塩や砂糖を含むことができる量が決まっているからです。つまり、水の温度が高いとたくさんの塩や砂糖を含むことができますが、水の温度が低いと少ない量しか含むことができないのです。空気中に含まれる水蒸気の量も同じで、気温が高いと含むことができる水蒸気の量は多くなり、気温が低いと少なくなるのです。


(図1)雲粒と雨粒の大きさの比較
(参考文献: 水野量著「雲と雨の気象学」朝倉書店,2000)

水蒸気を含んだ空気がゆっくりと冷やされると、飽和水蒸気圧が低くなりやがて相対湿度が100%以上の過飽和という状態になります。過飽和の状態の空気に、細かい粒を入れるなどして刺激と与えると、水滴(雲粒)ができます。雲粒の直径は5~10μm(1μmは1000分の1mm)程度で、空気1cm3あたりの雲粒の数は100~1000個程度です。雲粒の落下速度は非常に小さく、すぐに蒸発してしまいます。雲の中では、常に雲粒の発生と蒸発を繰り返しています。
雲から雨が降る、あるいは雪が降るのは、雲の中で大きな降水粒子(雨粒や雪などの総称)が数多く作られ、それが地上まで落下したからです。ところが、雨粒の典型的な大きさは1mmで、1m3の空気塊中の雨粒の数は100~1000個です。大ざっぱな見方をすると、100万個の雲粒が集まって、やっと1個の雨粒を作っていることになります。(図1)に雲粒と雨粒の大きさの比較を示しました。
小さな雲粒から雨粒になる降水の仕組みには2つの型があります。ひとつは氷の微少な結晶(氷晶)が元で降る冷たい雨(氷晶雨)、もうひとつは水粒だけの雲から降る暖かい雨です。日本では、冬と春秋に降るやや強い雨は冷たい雨といわれます。夏は暖かい雨が多く、場合によっては冷たい雨が降るともいわれています。「冷たい雨」、「暖かい雨」という言葉を使いましたが、降ってくる雨が氷水のように冷たかったり、ぬるま湯のような雨が降るわけではありません。「冷たい雨」、「暖かい雨」とは雨の最初が、氷(冷たい雨)か水(暖かい雨)かの違いです。
空気中での水滴の落下速度は、水滴(雨粒)が大きいほど速くなります。大きい雨粒は、落下しながら途中にある小さな水滴(雲粒や小さな雨粒)を併合しながら落下します。しかし上昇流が強いと地上に落ちて雨にはならず、上昇しながら雲粒をくっつけて大きな雨粒に成長します。上昇流に打ち勝つ大きさに成長すると、再び落下しながら雲粒をくっつけ、さらに大きな雨粒となり地上まで落下して雨となります。ただし、雨粒が大きくなりすぎると分裂し、再び雲粒をくっつけて大きな雨粒に成長しながら上昇します。(図2)


(図2)雨滴の成長と上昇気流

このように冷たい雨でも暖かい雨でも、強い上昇気流がある背の高い雲の中では、大粒の雨が降るため、短時間で強い雨が降ります。大粒の雨を降らせる雲は、強い上昇気流(数m/sときには数10m/s)がある発達した積乱雲です。一方、低気圧や温暖前線付近では上昇流が弱く(1~10cm/s)、しとしとと降る地雨性の雨をもたらす乱層雲が主です。
集中豪雨には発達した積乱雲がつきもので、大雨となるときは雨の降るときものすごい音がします。雨の降る音が大きく、その時間が長いときは雨量も多くなります。
ところで、雨粒の形を球形で表現しましたが、実際にはその大きな雨粒ほど(図3)のようにつぶれた形となります。


(図3)風洞実験で求めた落下中の雨粒の形(H.R.Pruppacher and K.V.Beard)

※飽和水蒸気圧
気体中に含むことができる水蒸気の量には限度があり、これ以上含むことができないという状態を飽和といいます。この時の水蒸気圧を飽和水蒸気圧といいます。飽和水蒸気圧は温度、圧力に影響されます。気体の温度が上がると飽和水蒸気圧も上がります。つまり、より多くの水蒸気を含むことができるようになります。

PC用サイトを見る

Contactお問合せ

PC用サイトを見る

気象情報Weather Information
健康予報BioWeather
生気象学についてAbout BioWeather
コラムColumn

スマートフォンサイトを見る

ページ上部へ
Page
Top

Menu