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お天気豆知識

天気現象の不思議の記事一覧

No.101

2009.6 Categories光学現象

空の光の現象


(写真1)光冠(2004年7月下旬、横浜市都筑区)

 空の光の現象というとまず思い出すのは虹ですね。「ハロー(暈)、太陽柱」では太陽の周りにできる光学現象を紹介しました。雲などが関係した光学現象はこの他にもあります。
 (写真1)は巻積雲のコーナーにも載せましたが、虹色の光の環が映っています。‘光冠(こうかん)’といいます。英名は‘コロナ(Corona)’です。この写真のように巻積雲を通して太陽や月を見るときにそれを取り囲むように虹色の環が現れるだけではなく、高積雲や高層雲を通して太陽を見るときにも現れます。月に対しても現れます。ところで、光は波の性質を持っています。波が物に当たるとその向こう側に回りこむ‘回折(かいせつ)’という現象が起こります。この現象は小さな水滴の雲粒で光が回折されたときに発生します。その部分の雲粒の大きさはそろっていて、雲粒が小さいほど大きなリングができます。そのリング大きさは、太陽や月を中心とした視角で5度以内です。


(写真2)彩雲(2009年2月中旬)

 (写真2)には雲の所々に色が薄い虹色の光が見えます。‘彩雲(さいうん)’といいます。‘慶雲(きょううん)’、‘瑞雲’などとも呼ばれていて、古くから良いことが起こる前兆とも言われていました。英語ではイリデセンス(Iridescence)、ギリシャ神話の虹の女神イリス(Iris)からきています。西洋でもこの現象を美しいと思われていて、このような名前が付いたのでしょう。この現象は雲のヘリの雲粒の消えかかっている部分にできます。この現象も巻積雲や高積雲の水滴の雲粒による回折現象です。そこでは部分的に見ると雲粒の大きさがそろっていますが、縁の部分全体で見ると雲粒の大きさがそろっていません。このため、不規則な虹色のような模様ができます。
 光冠、彩雲とも太陽の近くにできるので、見るときは太陽の強い光で眼を傷めないように注意してください。‘雲粒は水滴’と書きましたが、数千メートルの高さにある雲なので、0℃以下の水滴の雲、つまり過冷却水滴による雲粒です。
 層積雲などが集まって大きな塊になった雲の隙間から光が差し込むと(写真3)のように光の筋が見えます。(写真3)では差し込んだ光が海面で反射されてキラキラ輝いていて、スポットライトに照らされた舞台みたいですね。このような現象を‘御光’といいます。雲の向こう側にに太陽があると、その雲の高さの違いにより、太陽からの光がさえぎられるところと、上空に届くところができて、上空に向かって光の筋ができます。(写真4)は積乱雲の向こう側に沈んだ太陽が作った‘御光’です。


(写真3)下向き御光
(2003年11月下旬、沼津の海岸)

(写真4)上向きの御光
(2004年7月上旬、横浜市都筑区)

 空の光の現象で忘れてはいけないのが夕焼けや朝焼けですね。どちらも太陽高度が低いので、空気中を通過する光の距離が長くなります。その結果、波長の短い青系統の光は届かず、波長の長い赤系統の光だけが届きます。そのため照らされたものすべてを赤系統の色に染めてしまいます。
 (写真5)は2005年2月末に横浜市都筑区で撮影した夕焼けです。よく見ると右下に小さく光った2つの雲がありますが、これは飛行機雲です。その雲の長さは短く、発生してもすぐ消えていることから、上空の空気は乾燥しています。この日は冬とはいえ、移動性高気圧に覆われて穏やかな晴天になりました。写真下のほうがオレンジ色で上の方が青系で、その間はグラデーションになっています。空気中にたまったチリなどが赤く染まったのでしょう。
 (写真6)は2008年9月下旬に横浜市都筑区で撮影した夕焼けです。この日は前線が日本海から南下し、翌日には太平洋側に抜けて季節が一気に変わりました。南下してくる前線に向かって流れ込んだ下層の南寄りの空気の流れの中に山岳で波動ができ、たくさんの層積雲によるレンズ状の雲ができました。それらが夕日に照らされてオレンジ色に染まり、なんともいえぬ不思議な光景になりました。


(写真5)丹沢山塊、富士山をシルエットにした夕焼け
(2005年2月下旬、横浜市都筑区)

(写真6)地形性雲の夕焼け
(2008年9月下旬、横浜市都筑区)

No.100

2009.5 Categories光学現象

ハロー(暈)・太陽柱

 虹は太陽と反対方向にできます。これは太陽光が水滴の中で反射(屈折もあります)されてできるからです。ところが、太陽を取り囲むような(写真1)のような虹色の光の輪ができることがあります。これを「暈(かさ)」または、「ハロー」といいます。何故このようなことが起こるかというと、氷でできた六角柱の雲粒がプリズムのように光を屈折させるからです(図1)。


(図1)日暈のできる仕組み

(写真1)太陽を中心とした視角が22度の暈
(横浜市都筑区)

(写真2)太陽を中心とした視角
が22度の暈
(上)と46度の暈(下)横浜市都
筑区 (22度の暈のところにある六
角形のものはカメラのレンズによる
もの)

(写真3)単独で現れた46度の暈
(東京都千代田区)

 「暈」は太陽を中心とした角度(視角)で、(写真2)のように22度と46度の位置にできます。これらを作る雲は巻層雲です。「日暈、月暈は雨の前触れ」というような天気俚諺がありますが、この現象のことです。暈を作っている薄い雲が厚くなって暈が見えなくなり、太陽は輝きを失ってぼんやりします。やがて太陽がわからなくなるほど雲が厚くなり、その下に別の黒い雲が現れるとまもなく雨が降り始めます。
 私は、22度の暈をよく見ることがありますが、46度の暈はなかなかお眼にかかれませんでした。皆さんはいかがですか。ときには(写真3)のように46度の暈が単独で出ることもあるので、不思議な虹だなと思うこともあるでしょう。
 太陽の方向にできる光の現象はこれだけではありません。太陽を中心とした視角は22度の位置なのですが、太陽とほぼ同じ高さが特別に光ったり、暈のその部分が他よりはっきりした虹色になったりすることがあります。(写真4)で画面の右側にある明るい部分のことで「幻日」といいます。暈は六角柱の氷の雲粒で太陽光が屈折してできましたが、幻日の場合は六角形の平らな氷の雲粒の面に太陽光が反射してできます。


(写真4)22度の暈と幻日(画面右側):横浜市青葉区

(写真5)環天頂弧
(上部にある上方にはねた虹色の弧)

 太陽を中心と視角で46度の位置で太陽の上の方向に、暈と逆向きの弧を描く虹色の光の帯ができます。これを「環天頂弧」といいます。(写真5)で画面上方にある虹色の光の弧がその現象です。この現象も六角形の平らな氷の雲粒が関係しています。しかし、太陽光が六角形の平らな氷の雲粒に反射しているのではなく、屈折することにより発生します。(写真4)と(写真5)は同じ日に撮影しました。カメラのレンズの関係で1枚の写真に入れることができませんでしたが、同時にあらわれた現象です。


(写真6)太陽柱(冬の日の出のとき):大阪府枚方市

 太陽が地平線に近い位置にあるとき、太陽の上と下に光の柱(写真6)が出ることがあります。これを「太陽柱」といいます。緯度の高い寒い地域で発生しやすいのですが、(写真6)の太陽柱は大阪府の北部にある枚方市で撮影しました。この現象も六角形の平らな氷の雲粒によるもので、太陽光線がその雲粒で反射してできています。


(写真7)人工光でできた光柱(横浜市青葉区)

 光の柱は太陽の光だけでできるわけではありません。人工的な光、つまり照明によってもできます。もちろん見ることができるのは夜です。(写真7)が人工光によってできた光柱です。この日(2009年1月下旬横浜市青葉区)は雪が降っていて、スーパーマーケットの屋上にある広告塔にあてられた照明の光が雪の結晶に反射してできました。30年近く前に買った「Rinbows, Halos, and Glories」という本で人工的な光による光の柱があることは知っていましたが、初めて見ることができました。(写真4)も太陽が上下方向に伸びているように見えます。太陽柱気味になっていたのかもしれません。

 太陽の周りにできる光の現象はこの他にもあります。(図2)はデンマーク人の天文学者ヘルベリウス(Helvelius)が1661年2月20日にグダンスク市(現ポーランドか)で観測した現象のスケッチです。


(図2)七つの太陽と名づけられた光学現象のスケッチ(ヨハン・ヘルベリウス 1662年)

 図の下の方にある、目や鼻が書かれたのが太陽です。その周りの円が22度の暈でその外側の円が46度の暈です。さらに、天頂を取り囲む円形の環もあります。太陽柱の説明は緯度が高い地域で現れやすいと書きましたが、緯度が高い地域ではおもしろい現象があるのですね。ヨーロッパではこれらの現象を観測しているグループのホームページもあり、いろいろな写真を見ることができます。
 今回紹介した現象を見ると美しいし、不思議な感じがします。でもそのほとんどが太陽のまわりにできる現象なので、見るときは太陽を手で隠すなどして、眼を傷めないように充分に注意してください。「視角」の測り方は「巻積雲」にあるので見てください。

No.71

2006.12 Categories局地的な気象現象

竜巻、トルネード

 今年(2006年)は11月前半までに竜巻による被害が3回もありました。9月には宮崎県延岡市で、家屋の被害があっただけでなく、特急が脱線転覆しました。11月7日には北海道のオホーツク海側にある佐呂間町では家屋に被害だけでなく、死傷者も出てしまいました。その2日後の9日には北海道の西にある、奥尻島で被害が出ています。佐呂間町では人が空中に巻き上げられて飛ばされたり、飛んできた物が民家の壁に突き刺さっていました。いかに強い風であったかがわかります。
 日本では竜巻といっていますが、アメリカではトルネードと言っていますね。歴史上で最も激しいといわれているトルネードは1925年にアメリカの中央部の平原に発生したものでした。その幅は1.6kmもあり、3時間も猛威を振るい、死者が689人という被害でした。最大瞬間風速は約117m/sであったと言われています。
 トルネードはこのようにとてつもない強い風が吹くため、思いもよらぬ被害が出てしまいます。1973年に出版された「たつまき-渦の驚異-(上)」(藤田哲也著)に、その被害のようすが書かれていますので、幾つか紹介します。
 1919年6月にミネソタ州ファーガスフォールでは、大きな木の幹が真っ二つに裂け、どこからか飛んできた自動車が、その裂け目に入ってしまいました。その瞬間、木の裂け目が閉じてしまい、車がペシャンコになりました。いつ起こったか書いてありませんが、インディアナ州のエルクハード市では、高速で飛びまわっていた一枚のトタン板が、子供の体を二つに断ち切ってしまいました。
 トルネードの被害は、人間や家屋だけでなく家畜におよびます。1943年6月には、ミシガン州ランソン市の町外れでは、崩れかかった鶏舎の中に、30羽の羽を抜かれて丸裸の鶏が、死後硬直のまま死んでいました。また、1917年6月にはカンザス州トペカ市のすぐ近くでは、被災地を歩いていた人が、逆さになって落ちている箱を何気なく蹴飛ばしたところ、中から丸裸の鶏が1羽飛び出して、歩き始めたそうです。トルネード、竜巻の中心は気圧がとても低くなっています。藤田哲也博士は、「鶏が中心に巻き込まれると、羽の根元の中の空気が膨張してつけ根がゆるみ、グラグラし始め、強風がグラグラしている羽を抜いてしまうのだろう」と解説しています。


(図1)トルネード発生のときの大気の立体図(春)

 アメリカでトルネードが発生しやすい地域はアメリカの中央平原で、季節は5月を中心に、3月から9月の間です。(図1)は、春にトルネードができるような積乱雲が発生するときの立体的な大気の状態です。地上から見ていきましょう。低気圧の中心から延びる、温暖前線と寒冷前線に挟まれた地域(暖域と言います)に、メキシコ湾から暖かく湿った気流が入っています。その気流は、暖域では大気下層(約1,500m)にも入っています。一方、寒冷前線に向かって乾燥した寒気が流れ込んでいます。この気流は大気の中層(約3,000m)から降りてきた気流で、ロッキー山脈の東側に沿って北極やカナダ方面から流れ込んできたものです。上層(約5,500m)では地上の低気圧に対して、西の方に気圧の谷があり、更に上層(約9,600m)にはジェット気流があり、北上するような流れとなっています。上層の気圧の谷の西側や北上するような流れのジェット気流のところでは、地上の上昇気流を強めています。もう一度地上に眼を移しましょう。寒冷前線の東側では乾燥した寒気が暖かく湿った空気を押し上げています。このため、この地域では(図中、トルネード発生域)大気の状態が不安定になって巨大な積乱雲が発生し、トルネードが発生しやすくなります。

 (図2)は11月に北海道で竜巻が発生した日の地上天気図です。共通していることは、竜巻が発生した所に対して、低気圧が北の方にあり、寒冷前線のすぐ東側になっています。まさに低気圧の暖域です。天気図は省略しますが、上層ではジェット気流が北に向かうような流れとなっていて、気圧の谷は北海道よりも西にありました。大気の下層には暖かく湿った空気が、中層以上にはシベリアから来た乾燥した寒気が流れ込みやすくなっていました。今回、低気圧暖域の寒冷前線の近くでは積乱雲が発生、発達しやすい条件が揃っていました。


(図2)北海道で竜巻が発生した日の地上天気図

 (図3)は延岡で竜巻が発生した日の地上天気図です。台風13号が九州の西を北上中で、延岡は台風の中心と太平洋高気圧の間になっています。このようなところ、つまり台風の東側では、台風に向って下層に暖湿気流が入り、大気の状態はとても不安定となっています。このため、発生した積乱雲が発達し、竜巻も発生しました。一般に、台風の進行方向右側は、強い風が吹きやすいだけでなく、下層に湿った気流が入るため、大気の状態が不安定となって、竜巻の発生しやすい地域です。


(図3)延岡で竜巻が発生した日の地上天気図
(2006年9月17日12時)

No.64

2006.5 Categories光学現象

虹の不思議

 虹というと、私は雨上がりの空を連想してしまいます。また、虹を見るとなんだかうれしくなってきます。皆さんもご存知のように、虹は太陽光線が水滴や雨粒で屈折・反射されてできたものです。虹が作られる基本的な説明は、デカルトにより1673年に「方法序説および論説集」でおこなわれました。 しかし、デカルトは虹が雨の水滴に入るときに屈折し、水滴の中を進んだ光が水滴と空気の境で反射され、水滴から空気中に出るとき再び屈折してできることは説明しましたが、色が付くことは説明できませんでした。虹に色が付くことの説明は約30年後に万有引力の法則で有名なニュートンが行っています。ニュートンは太陽光線がいろいろな色(波長)の光が集まったもので、屈折率が波長によって違うことを示して、虹に色が付くことを説明しました。可視光線の水による屈折率は波長の短い光ほど大きいので、紫色の光は大きく曲げられ、赤い光は小さく曲げられます。このため、虹は紫色の光が内側で赤が外側となっています。


(写真1)主虹と副虹(横浜市青葉区にて)

(図1)虹の仕組み

 (写真1)のように虹が2本出ることがあります。左の虹と右の虹で色の並びが逆になっています。また、右の虹と左の虹では明るさが違っています。専門的には左の虹(下側)を「主虹」と言い、右の虹(上側)を「副虹」と言います。主虹と副虹は(図1)のように水滴に出入りする光の入射角がちがいます。このため、副虹は色の並びが主虹の反対となってしまいます。また、副虹は水滴内で2回反射するため主虹よりも暗くなってしまいます。普通よく見る虹は1本ですね。これは主虹が見えているので、内側が紫で外側が赤となっています。
 太陽光線はいろいろな角度から入ってくるのではなく、平行光線となっています。虹を見た人と太陽を結ぶ線(図1の中では虹を見ている女の子と太陽を結ぶ緑色の線)に対して、太陽と反対方向で約42度付近の位置に主虹ができます。副虹は約51度付近です。
 (写真1)で主虹と副虹の間の空が暗いことに気がついたでしょうか。これも主虹と副虹が現れたときの大きな特徴です。ちなみに、主虹の下側(写真では左側)が最も明るく、副虹の外側(写真1では右側)がやや暗くなり、主虹と副虹の間が最も暗くなります。


(写真2)過剰虹〈オレンジ色の矢印〉(岩手県釜石
市にて)

 主虹のすぐ内側に薄い別の虹、あるいは虹色の縞模様が見えることがあります(写真2)。
これは「干渉虹」、あるいは「過剰虹」と呼ばれています。過剰虹の間隔や幅は雨滴の大きさによって変わってきます。いろいろな大きさの雨滴があるときには、明瞭な色の帯が見られなくなりますが、雨粒の揃った穏やかな雨に対して過剰虹ができやすくなります。


(写真3)枝分かれした虹(大阪府枚方市にて)

(写真3)は主虹と副虹です。しかし、主虹が枝分かれしていました。主虹側の虹はどちらも光源と観察者を結ぶ線に対して、光源の反対側に約42度の位置にできます。つまり、1つは太陽光線が直接雨粒で屈折反射されてできた虹で、もう1つは太陽光線がどこかに反射して、その反射光が光源となってできた虹だろうと考えています。しかし何に反射したか分かりません。

No.48

2005.1 Categories光学現象

楕円形の太陽と太陽の蜃気楼

 ガラスの容器に砂糖水を入れしばらく置くと、底の方の濃度が高くなります。それにレーザービームを当てると、光は底の方に向かって曲がります。これは砂糖液の濃度により、光の屈折率が違うためです。レーザービームですが、講演会で講演者がスクリーンに映し出された画像を指し示しながら説明するとき、手には小さな懐中電気みたいな物を持っていて画面にピンクの小さな光を当てていますがこれがそうです。これを使えばレーザービームを出すことができ、家庭でもこの実験はできます。ただし、この光を直接見たり人に当てたりしないでください。


(図1)

 光の屈折はどのような媒体(水や空気のこと)の中でも起こり、その屈折率は光が通過する媒体の密度によって異なります。当然、空気中を通過する光も空気密度の違いによる屈折の影響は受けます。 br地球規模のことを考えると、気圧は地上に近いほど高いので、空気密度も地上に近いほど大きくなります。空気による屈折の影響は星や月、太陽が地表近くに見えるときほど大きくなります。 ここでは太陽を例にしますが、(図1)に示したように、日の出日の入りの時に目にする太陽の位置は、光が空気中を通過する距離が長いため空気密度の違いによる屈折の影響を受け、実際よりも高い位置にあります。つまり、太陽の上端は実際よりも上に見え、下端も実際より上側に見えています。しかし、下端の方が上端よりも大気中を通過する距離が長いため屈折の影響を強く受けて、それぞれの実際の太陽の位置との差は、下端は上端よりも大きくなります。このため、太陽は(図1)に示したように扁平な太陽となります。

(写真1)と(写真2)は伊豆西海岸の松崎で2003年1月11日の日没時に伊豆西海岸にある松崎町で撮影しました。


(写真1)

(写真2)

(写真1)の太陽は少し扁平し楕円形となっていることがわかるでしょうか。まさにここで説明した現象です。

 今でこそ航海にはGPSが大活躍でしょうが、昔は星の位置を頼りに航海をしていました。もし航海している人が地平線近くの星の角度を測って、地球上でその船の位置を決める際には、地球大気の屈折で起こる誤差を補正するための数表を使って位置を決めていました。

 (写真2)で海面と太陽の間にもう一つ太陽があるように見えます。次はその説明です。光の屈折率は通過中の媒体の密度によると言いましたが、空気の密度は空気の温度によって変わります。シベリア高気圧のところで話しましたが、同じ体積の空気を比べると、冷たい空気の方が密度は高く当然屈折率も大きくなります。


(図2)逆転層がある時

空気が熱い地面や暖かい海水面に接すると、下の方は空気の温度が高くなり、(図2)に示したような高さ方向の温度分布となります。このような状況では地上にある物は逆さまに見えます。


(図3)下層の温度が極端に高い時

空気の温度は上空に行くほど低くなりますが、(図3)に示したように地上よりも上空の温度が高い層がある場合は、地上にある物は浮き上がって見えます。これらは、蜃気楼が見えるときの原理です。

 この日没の写真を撮影した日の駿河湾の海面温度は、気象庁の資料によると大体18℃から19℃でした。一方、駿河湾周辺のアメダス観測点の日没頃の気温は8℃から12℃でした。暖かい海面に接した空気は暖められ、駿河湾周辺での高さ方向の温度分布は(図2)に示したようになっていたと考えられます。このため、実際の太陽の下に太陽の蜃気楼が現れ、(写真2)のように、太陽の下に太陽があるような日没風景になったと思います。

 地表の物が浮き上がって見える現象は、私が釜石に住んでいるとき、港の岸壁から湾口の沖にある岩礁が浮き上がって見えることがありました。残念ながらその様子は写真に撮ってありません。この例は、日本気象学会のホームページの中で、学会誌の「天気」、2003年1月号の中に写真と学術的な解析が載っています。

No.39

2004.4 Categories局地的な気象現象

春、ある晴れた日の朝

 地球上のあらゆる物体から宇宙空間に向かって赤外線のかたちで熱エネルギーが放射されています。その量は物体の温度に関係しています。日中は太陽から多量の熱エネルギーが地球に到着するため、地球から出て行くエネルギーと差し引きすると、太陽から受ける熱エネルギーの方が多くなります。このため、日の出と共に気温は上昇します。反対に夜間は太陽からの熱エネルギーが来ないため、地球から熱エネルギーが出て行く一方で、気温は下がります。秋から春にかけてよく晴れた日は、日が落ちると共に気温が下がるのはよく経験することです。
(図1)は日中と夜間の熱エネルギーのやりとりの様子です。


(図1)地球から宇宙空間に向かって絶えず熱が放射される。
夜間は、太陽からの熱エネルギーが来ない。

 夜間、地表面からの熱エネルギーの放射により地表面の温度が下がり、地面に接している空気も冷やされて温度が下がります。このような現象を放射冷却と言います。物体は冷やされると体積が縮み、密度が高くなります。空気も冷やされると密度が高くなり、つまり重くなります。斜面で放射冷却が起こるとどうなるでしょう。
(図2)を見てください。


(図2)夜間、放射冷却で出来た冷気が斜面を下り、底に冷気湖が出来る。

放射冷却により冷やされ、重くなった空気は斜面に沿って低い方へ移動し、窪地や谷底には冷気が溜まります。ときには広い範囲に冷気が溜まり、まるで湖のようなので、「冷気湖」と言います。
 (表1)は、2003年5月2日の関東地方にある熊谷、秩父、前橋の気象台や測候所の最低気温のデータです。

(表1)2003年5月2日の最低気温
場所最低気温出た時刻
秩父4.6℃午前5時10分
熊谷7.3℃午前3時41分
前橋7.7℃午前4時58分

この日は、東北南部から西は高気圧のベルトに覆われ、等圧線の間隔は広くなっていました。つまり風は弱く良く晴れています。前橋は熊谷や秩父よりも北に位置し、赤城山の裾野の緩やかな斜面にあります。熊谷は関東平野の平らな所にあり、秩父は秩父盆地の中です。盆地にある秩父の最低気温が一番低くなっています。熊谷は北にある前橋よりも低い最低気温となっています。
 最低気温は、ほぼ午前4時前後と午前5時前後に出ているので、この時刻の気温と風のデータを見てみましょう(表2)。

(表2)2003年5月2日の気温と風
場所要素午前4時午前5時
秩父気温5.2℃4.7℃
風速0.8m/s0.6m/s
熊谷気温7.5℃7.9℃
風速0.6m/s1.2m/s
前橋気温8.3℃7.9℃
風速3.0m/s1.9m/s
(1)盆地の中にある秩父が気温が最も低く、風はほとんど吹いていません。
(2)午前4時の熊谷と前橋を比べてみると、熊谷のほうが気温が低くなっていて風速も前橋より弱くなっています。平地にある熊谷は放射冷却で冷やされていますが、前橋は放射冷却でできた冷たい空気が移動中であることがわかります。
(3)午前5時の熊谷と前橋を比べても気温は同じですが、風速は前橋のほうが大きく、空気が移動中であることがわかります。

 秩父はこの時刻はまさに冷気湖の中にあることが分かります。気温は北に行くほど低くなりそうですが、前橋と熊谷を比べるとそのようになっていないことが分かります。前橋は斜面にあるため、冷えて重くなった空気が低い方へ動いています。一般に空気が動く、つまり風が吹くと上下方向で空気がかき混ぜられて冷気が溜まらず、気温は下がりにくくなります。
 お茶畑では茶摘みの八十八夜の頃霜が降りると、お茶として収穫する新芽がだめになります。お茶畑に大きな扇風機が置いてありますが、これは人工的に風を起こして空気をかき混ぜ、気温が下がるのを防ぐためです。

No.36

2004.1 Categories

霜と霜柱

 筆者は、20代後半まで東京都世田谷区に住んでいました。冬の寒い朝、外はあちこち霜で白くなっていました。特に駐車中の車はボディーも窓も霜で真っ白でした。窓と言えば、部屋の窓の内側には霜でいろいろな模様が出来ており、花が咲いたようになっていました。毎朝いろいろな窓霜の模様を見るのが楽しみでしたし、それに日が当たって解けてキラキラ光りながら流れ落ちて行くのを見るのがおもしろかったです。時には指で絵を描いたりとか。外に出ると、土があるところには霜柱ができており、その上を歩くとサクサクと音がして崩れていくのがおもしろく、わざと霜柱の上を歩いたものです。

 霜と霜柱はどちらも氷ですが発生の仕方に違いがあります。霜は冷たい地表物に触れた空気中の水蒸気が昇華して出来た氷です。このため、霜はすでに出来た氷の上に次の氷が出来て成長していきます。大学を卒業した年の3月に友人と伊奈谷の駒ヶ根に行き、千畳敷山荘(標高約2,600m)に泊まりました。現在、そこはすべてホテルとなっていますが、当時はホテルと山荘とがあり、貧乏学生だった我々は山荘の方に泊まりました。もちろん外は雪で真っ白です。我々が泊まった大部屋にはストーブがありましたが、隙間から入り込んだ雪が解けずに隅っこの方に埃のようにたまっており、窓には霜の花が咲いていました。しかし窓霜は解けることがなかったのでしょう、レリーフ彫刻のように盛り上がっていたのには驚きました(写真1)。


(写真1)千畳敷山荘の窓霜

 一方、霜柱は地中の水分が凍って出来た氷です。その氷が出来るときの水分補給は地中の深い方から行われるために、霜柱は下で成長し先に出来ている氷を上へ上へと押し上げるため、柱のような氷となります。このため、地表面にある物を持ち上げてしまい、(写真2)のように庭にまかれた小石も持ち上げてしまいます。


(写真2)庭にできた霜柱

 霜柱は土があるところならどこでも発生するかというとそうではありません。関東ローム層の土粒の大きさがその発生に丁度良いそうです。岩波書店の中谷宇吉郎全集第2巻(岩波書店,2000年)に自由学園で行われた「霜柱の研究」について書かれたものが載っています。それによると紅殻の粉や澱粉類、ガラスを砕いた粉などを用いて霜柱の発生実験をしていますが、赤土だけから霜柱が発生したそうです。その赤土も、粒の粗い物と細かい物に分けて発生実験をしたところ、粒が粗くても細かすぎても霜柱は発生しなかったそうです。なお、中谷宇吉郎氏は世界で初めて雪の人工結晶を作られた方で、これらの文章は戦前に書かれた物です。

 筆者は、10年ほど大阪府枚方市に住んでいましたが、枚方では霜は見ても霜柱は見たことがありませんでした。2年ほど前から横浜市青葉区に住んでいますが、冬の寒い朝は霜柱が出来ており、何か懐かしいものを見たような思いでした。また、そこには小さな足跡が付いていたり、2本の白い筋が出来ているのを見ることがあります。学校に行く途中の子供たちによるものでしょう。今も昔も変わらないなと思いました。

No.35

2003.12 Categories空気の流れ

カルマン渦

 棒やバットを振ると、「ブーン」という音がしますね。あるいは、風の強い日は電線が鳴ります。これらは、空気を切るときのバットの周りや、空気が流れている(風が吹いている)ときに電線の周りで出来る渦が関係しています。  円柱形の物体が空気の中を動くとき、あるいは空気が円柱形の物体の周りを流れて条件が整うと(図1)に示したように、風下方向に渦が交互に発生します。
これを「カルマン渦」と呼んでいます。


(図1)カルマン渦

条件には、風速、円柱の直径、空気の密度、空気の粘っこさが関係しているわけですが、ここでの詳しい説明は省略します。ただ、棒やバットをゆっくり振ったときや、風が弱いときはこのような音は出ませんから、風の強さと関係していることがまず想像つきます。
 風が吹くと円柱形の物体の風下にカルマン渦が発生します。


(図2)円柱の周りのカルマン渦

渦は物体の左右で交互に発生するため、円柱形の物体は振動し(図2左)折れることもあります。これを防ぐには、(図2右)のように円柱形の周りに螺旋状の物を付けます。そうすることにより、渦の出来方が不規則になり、物体は振動しなくなり折れません。
 カルマン渦による振動は円柱形の物体だけでなく、自動車、船、飛行機など高速で動く物に伴って発生、横揺れの振動を引き起こし、騒音や金属疲労の原因となっています。

 カルマン渦を実験的に表現するには、古くは10世紀初頭の古今時代にその記述があるという「墨流し」の技法を使うとできます。バットに牛乳を薄めて入れ、墨汁を含ませた筆をその中に入れてまっすぐに動かすと、後ろに渦模様が出来ます。これがカルマン渦列です。筆の動かす速度を変えると渦模様のできかたが違ってきます。

 カルマン渦は、もっとスケールの大きいところでも発生していて見ることが出来ます。 それは、気象衛星画像です。


(図3)2003年12月7日12時の
気象衛星画像(可視画像)

枠内拡大図
済州島の南側(下)の雲列

 (図3)は可視画像ですが、日本海や東シナ海では少し筋状の雲列があります。四国沖や紀伊半島沖の太平洋側にも少し筋状の雲列があります。強い北寄りの風によりこれらの雲列が発生した、冬型気圧配置の気象衛星画像です。
朝鮮半島の南(下)にある済州島の南側(下)の雲列に注目して下さい。雲の列が蛇行しているのがわかるでしょうか(右の拡大図参照)。済州島が原因でその風下側には(図1)のようなカルマン渦が発生し、雲の列が蛇行したようになっています。

 天気予報などで気象衛星画像を見るとき、冬型の日はこんな所に注目するのもいかがでしょう。寒さを忘れるかも。

 今回の話は、私が学生時代に気象学を教わったI教授から聞いた話が基になっています。何故か、このような話はよく覚えています。

No.34

2003.11 Categories空気の流れ

一杯のコーヒーと冬の筋状雲


(図1)

(図2)

 冬の寒い日、温かい一杯のコーヒーは心和ませるものがあります。
温かいコーヒーの入ったカップに、冷たいミルクを注ぐとどうなるでしょう。コーヒーの表面に豹の毛皮のような斑模様ができませんか。できれば、温められたカップに入れたコーヒーの方がいいかもしれません。ミルクを注ぐときは、カップの縁から静かに注いだ方が効果的です。ミルクが入ると、下からミルクが沸き上がってきて、コーヒーの表面は白いところとそうでないところ、あるいは色の濃いところと薄いところができ、(図1)のようになります。
 コーヒーの表面は空気にさらされているので、表面の温度は下がり、カップの底の方と比べると温度差ができます。
ところで、すべての物質に言えることですが、体積が同じで温度が違うある物質(ここではコーヒーですね)の重さを比べると、温度の低い物の方が重くなります。科学的な用語を使うと、同じ物質では温度が低い物の方は密度が高くなります。入れ物に入った液体の中では密度が高い部分は下に行き、密度が低い部分は上に行きます。このような現象を「対流」と言っています。ところが、カップの中のコーヒーで上と下の密度が違っても一度に上下が入れ替わることができません。(図2)のように上に揚がる(上昇)部分と、下に降りる(下降)部分ができるため、表面に斑模様ができます。コーヒーだけでなく、温かいみそ汁でも味噌粒が上下にグルグル動いているのを見たことでしょう。これも同じ原理で、お椀の中で対流が起きているからです。
 同じことは気象現象でも起こっています。特に夏の晴れた日中は、地面が太陽で温められますから、上空との温度差が広がります。まさにコーヒーカップの中、お椀に入ったみそ汁と同じ状況ですね。このため対流が起き、空気中に含まれる水蒸気も上昇して、綿雲が浮かびます。あるいは、余り厚くない雲に覆われていても、夜になるとその雲の上の面では放射冷却により熱が奪われるので、雲の下の面との間に温度差ができます。同じように上昇する部分と下降する部分ができ、下降する部分では雲が消えてしまい、雲に隙間ができます。


(図3)フライパンにサラダ油を入れ、
表面にココア等の粉を浮かせ、
しばらくしてからフライパンを傾けると…

 次は実験です。きれいなフライパンにサラダ油を入れて温めます。油がもったいないし、フライパンを傾けたりするので、深さは2cmぐらいがいいかもしれません。 天ぷらを作るわけではないので、それほど高温にする必要もないでしょう。油が温まったら火を止め、小麦粉、黄粉、ココアの粉など、フライパンの色を考えて選んで何か粉を入れて下さい。油の表面に斑模様が現れてから(図3)のようにフライパンを傾けると・・・、今度はココアの粉が筋状に並びます。フライパンの中のサラダ油は表面が空気にさらされているので、上下で温度差があることがわかります。フライパンを傾けると、サラダ油は動きます、つまり「流れ」がサラダ油の中にできました。底では油とフライパンとの間に摩擦があるため、サラダ油の中では下の方は上の方に比べると流れる早さが遅くなります。このように上に行くほど温度が低く、上に行くほど流れが速い液体の中では、上昇するところと下降するところが線状になるため、粉が筋状に並んだのです。

 空気中でも、上空に行くほど風の強さが増し、上空に行くほど温度が低くなると、(図4)のように空気が上昇する場所と下降する場所が線状に並びます。 


(図4)上昇域と下降域が空気の流れの方向と線状に平行に並び、
上昇域には雲が発生する。

空気が上昇する場所には雲が発生するため、雲は筋状に並びます。
冬型の気圧配置(図6)のときの気象衛星画像(図5)を見て下さい。


(図5)冬型の気圧配置の気象衛星画像
2003年1月30日午後3時

(図6)冬型の気圧配置
2003年1月30日午後3時の天気図

 日本海西部だけでなく、太平洋側でも雲が筋状に並んでいるのがわかります。冬型の気圧配置になると、風は上空に行くほど強くなりますし、大陸からやってくる空気は冷たく乾燥しています。その空気が海上を渡ると下から暖められ、上空との温度差が大きくなります。まさに、フライパンに入れたサラダ油を温めた場合と同じですね。海から水蒸気の補給を受け空気は、線状に並んだ上昇気流域で雲が発生するため、雲が筋状に並びます。水蒸気を多量に含んだ空気が上昇すると、大気の安定度が悪くなり、個々の雲は垂直方向に発達した積乱雲となります。雲の高さは夏の積乱雲のように1万数千mまで発達することはありません。でも積乱雲ですから冬の日本海側では雷が起き、海上の方が多いですが竜巻が発生することもあります。
 実験は、「HANDS-ON METEOROLOGY」(ZBIGNIEW SORBJAN,1997,AMS)を元に書きました。私もフライパンと油を使った実験のことは知っていましたが試してないので、家で行おうとしましたが、家内にあっさり「ダメ!」と言われてしまいました。もし試すときは、くれぐれも火の取り扱いには注意をし、火傷をしたり火災を起こさないようにして下さい。

No.19

2003.1 Categories

雪まくり

 子どもの頃、東京都世田谷区に住んでいた私は、雪は珍しいので雪が積もった後は大喜びして外で遊んだものです。雪はまさに自然が与えてくれたおもちゃです。しかし成人してからは、雪が降り積もった日は通勤のことを考えると憂鬱になります。特に首都圏は雪に弱く、少しでも雪が積もろうものなら、たちまち交通が大混乱となってしまうからです。


(図1)雪まくり

しかし一面の銀世界は綺麗ですし、雪は自らすばらしい造形をします。社会人になって間もない頃、高橋喜平氏による「雪と氷の造形」(朝日新聞社刊)を手にしたときは驚きました。この本にはさまざまな自然による雪や氷による造形の写真が出ており、表紙にバームクーヘン状になった雪の写真が出ていました。このようになった雪を「雪まくり」といいます。(図1)は雪まくりの一部をスケッチしたものです。

この本には、平地に雪が積もったあと、急に気温が0度前後になり、突風が吹くと、雪が海苔巻き状になって転げていくと書かれています。木の枝の雪が斜面に落ちてできることもあるそうです。
このような現象はヨーロッパでは早くから知られており、イギリスではスノーローラー、ドイツではシェネーウェルチェンなどと呼ばれているそうです。日本でも江戸時代から知られていて、山形県庄内地方では、その形が米俵に似ていることから、「雪俵」と呼んでいたそうです。
「雪まくり」という言葉は、山陰地方で斜面の雪が転がり落ちて大きくなったものをいっていたそうです。大正時代初めに気象学者の岡田武松博士が、平地の雪が突風で転がってできるものにこの「雪まくり」を使ったので、それが用語として定着したそうです。
以前、秋田県出身の上司に「雪まくり」の話をしたら、「チョ、チョッと雪の表面をはがし、斜面を転がすと簡単にできる。」と言っていました。この本にも雪国の子どもは斜面で雪を転がしてバームクーヘンのようになるのを見て喜んでいたと書いてありました。上司も子どもの頃はそうだったのかもしれません。そういえば、私も子どもの頃に雪だるまを作ろうとして雪玉を転がしてもきれいな球にならず、雪が板状にはがれ海苔巻き状に大きくなっていったのを覚えています。


(写真1)清水寺本堂の屋根にできた「雪まくり」

(写真1)は京都清水寺の本堂(有名な清水の舞台のあるところ)の屋根に出来た「雪まくり」です。「雪と氷の造形」の表紙のように見事なものではありませんが、海苔巻き状というか渦巻き状の雪の玉がわかるでしょうか。


(写真2)地主神社の屋根にできた「雪まくり」

(写真2)は幾つもの「雪まくり」が清水寺の脇にある地主神社の屋根にできています。いずれも屋根のテッペンから落ちた雪が斜面を転がりながら作った「雪まくり」です。


(写真3)子安の塔からの清水寺本堂

(写真3)は同じ日に正面に見える「子安塔」付近から「舞台」を写したものです。写真の好きな地元タクシーの運転手さんが、「今日は仕事を休んできた。清水寺がこれだけ綺麗に雪化粧するのも珍しい。」と言っているのが聞こえました。雪の京都はなかなか趣があっていいものです。その後、これだけ清水寺が真っ白になったのを見ることはできませんでしたし、屋根にできた雪まくりを見ることはありませんでした。

参考文献:「雪と氷の造形」(朝日新聞社 1980)

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