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お天気豆知識

空気の流れの記事一覧

No.35

2003.12 Categories空気の流れ

カルマン渦

 棒やバットを振ると、「ブーン」という音がしますね。あるいは、風の強い日は電線が鳴ります。これらは、空気を切るときのバットの周りや、空気が流れている(風が吹いている)ときに電線の周りで出来る渦が関係しています。  円柱形の物体が空気の中を動くとき、あるいは空気が円柱形の物体の周りを流れて条件が整うと(図1)に示したように、風下方向に渦が交互に発生します。
これを「カルマン渦」と呼んでいます。


(図1)カルマン渦

条件には、風速、円柱の直径、空気の密度、空気の粘っこさが関係しているわけですが、ここでの詳しい説明は省略します。ただ、棒やバットをゆっくり振ったときや、風が弱いときはこのような音は出ませんから、風の強さと関係していることがまず想像つきます。
 風が吹くと円柱形の物体の風下にカルマン渦が発生します。


(図2)円柱の周りのカルマン渦

渦は物体の左右で交互に発生するため、円柱形の物体は振動し(図2左)折れることもあります。これを防ぐには、(図2右)のように円柱形の周りに螺旋状の物を付けます。そうすることにより、渦の出来方が不規則になり、物体は振動しなくなり折れません。
 カルマン渦による振動は円柱形の物体だけでなく、自動車、船、飛行機など高速で動く物に伴って発生、横揺れの振動を引き起こし、騒音や金属疲労の原因となっています。

 カルマン渦を実験的に表現するには、古くは10世紀初頭の古今時代にその記述があるという「墨流し」の技法を使うとできます。バットに牛乳を薄めて入れ、墨汁を含ませた筆をその中に入れてまっすぐに動かすと、後ろに渦模様が出来ます。これがカルマン渦列です。筆の動かす速度を変えると渦模様のできかたが違ってきます。

 カルマン渦は、もっとスケールの大きいところでも発生していて見ることが出来ます。 それは、気象衛星画像です。


(図3)2003年12月7日12時の
気象衛星画像(可視画像)

枠内拡大図
済州島の南側(下)の雲列

 (図3)は可視画像ですが、日本海や東シナ海では少し筋状の雲列があります。四国沖や紀伊半島沖の太平洋側にも少し筋状の雲列があります。強い北寄りの風によりこれらの雲列が発生した、冬型気圧配置の気象衛星画像です。
朝鮮半島の南(下)にある済州島の南側(下)の雲列に注目して下さい。雲の列が蛇行しているのがわかるでしょうか(右の拡大図参照)。済州島が原因でその風下側には(図1)のようなカルマン渦が発生し、雲の列が蛇行したようになっています。

 天気予報などで気象衛星画像を見るとき、冬型の日はこんな所に注目するのもいかがでしょう。寒さを忘れるかも。

 今回の話は、私が学生時代に気象学を教わったI教授から聞いた話が基になっています。何故か、このような話はよく覚えています。

No.34

2003.11 Categories空気の流れ

一杯のコーヒーと冬の筋状雲


(図1)

(図2)

 冬の寒い日、温かい一杯のコーヒーは心和ませるものがあります。
温かいコーヒーの入ったカップに、冷たいミルクを注ぐとどうなるでしょう。コーヒーの表面に豹の毛皮のような斑模様ができませんか。できれば、温められたカップに入れたコーヒーの方がいいかもしれません。ミルクを注ぐときは、カップの縁から静かに注いだ方が効果的です。ミルクが入ると、下からミルクが沸き上がってきて、コーヒーの表面は白いところとそうでないところ、あるいは色の濃いところと薄いところができ、(図1)のようになります。
 コーヒーの表面は空気にさらされているので、表面の温度は下がり、カップの底の方と比べると温度差ができます。
ところで、すべての物質に言えることですが、体積が同じで温度が違うある物質(ここではコーヒーですね)の重さを比べると、温度の低い物の方が重くなります。科学的な用語を使うと、同じ物質では温度が低い物の方は密度が高くなります。入れ物に入った液体の中では密度が高い部分は下に行き、密度が低い部分は上に行きます。このような現象を「対流」と言っています。ところが、カップの中のコーヒーで上と下の密度が違っても一度に上下が入れ替わることができません。(図2)のように上に揚がる(上昇)部分と、下に降りる(下降)部分ができるため、表面に斑模様ができます。コーヒーだけでなく、温かいみそ汁でも味噌粒が上下にグルグル動いているのを見たことでしょう。これも同じ原理で、お椀の中で対流が起きているからです。
 同じことは気象現象でも起こっています。特に夏の晴れた日中は、地面が太陽で温められますから、上空との温度差が広がります。まさにコーヒーカップの中、お椀に入ったみそ汁と同じ状況ですね。このため対流が起き、空気中に含まれる水蒸気も上昇して、綿雲が浮かびます。あるいは、余り厚くない雲に覆われていても、夜になるとその雲の上の面では放射冷却により熱が奪われるので、雲の下の面との間に温度差ができます。同じように上昇する部分と下降する部分ができ、下降する部分では雲が消えてしまい、雲に隙間ができます。


(図3)フライパンにサラダ油を入れ、
表面にココア等の粉を浮かせ、
しばらくしてからフライパンを傾けると…

 次は実験です。きれいなフライパンにサラダ油を入れて温めます。油がもったいないし、フライパンを傾けたりするので、深さは2cmぐらいがいいかもしれません。 天ぷらを作るわけではないので、それほど高温にする必要もないでしょう。油が温まったら火を止め、小麦粉、黄粉、ココアの粉など、フライパンの色を考えて選んで何か粉を入れて下さい。油の表面に斑模様が現れてから(図3)のようにフライパンを傾けると・・・、今度はココアの粉が筋状に並びます。フライパンの中のサラダ油は表面が空気にさらされているので、上下で温度差があることがわかります。フライパンを傾けると、サラダ油は動きます、つまり「流れ」がサラダ油の中にできました。底では油とフライパンとの間に摩擦があるため、サラダ油の中では下の方は上の方に比べると流れる早さが遅くなります。このように上に行くほど温度が低く、上に行くほど流れが速い液体の中では、上昇するところと下降するところが線状になるため、粉が筋状に並んだのです。

 空気中でも、上空に行くほど風の強さが増し、上空に行くほど温度が低くなると、(図4)のように空気が上昇する場所と下降する場所が線状に並びます。 


(図4)上昇域と下降域が空気の流れの方向と線状に平行に並び、
上昇域には雲が発生する。

空気が上昇する場所には雲が発生するため、雲は筋状に並びます。
冬型の気圧配置(図6)のときの気象衛星画像(図5)を見て下さい。


(図5)冬型の気圧配置の気象衛星画像
2003年1月30日午後3時

(図6)冬型の気圧配置
2003年1月30日午後3時の天気図

 日本海西部だけでなく、太平洋側でも雲が筋状に並んでいるのがわかります。冬型の気圧配置になると、風は上空に行くほど強くなりますし、大陸からやってくる空気は冷たく乾燥しています。その空気が海上を渡ると下から暖められ、上空との温度差が大きくなります。まさに、フライパンに入れたサラダ油を温めた場合と同じですね。海から水蒸気の補給を受け空気は、線状に並んだ上昇気流域で雲が発生するため、雲が筋状に並びます。水蒸気を多量に含んだ空気が上昇すると、大気の安定度が悪くなり、個々の雲は垂直方向に発達した積乱雲となります。雲の高さは夏の積乱雲のように1万数千mまで発達することはありません。でも積乱雲ですから冬の日本海側では雷が起き、海上の方が多いですが竜巻が発生することもあります。
 実験は、「HANDS-ON METEOROLOGY」(ZBIGNIEW SORBJAN,1997,AMS)を元に書きました。私もフライパンと油を使った実験のことは知っていましたが試してないので、家で行おうとしましたが、家内にあっさり「ダメ!」と言われてしまいました。もし試すときは、くれぐれも火の取り扱いには注意をし、火傷をしたり火災を起こさないようにして下さい。

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