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お天気豆知識

氷の記事一覧

No.36

2004.1 Categories

霜と霜柱

 筆者は、20代後半まで東京都世田谷区に住んでいました。冬の寒い朝、外はあちこち霜で白くなっていました。特に駐車中の車はボディーも窓も霜で真っ白でした。窓と言えば、部屋の窓の内側には霜でいろいろな模様が出来ており、花が咲いたようになっていました。毎朝いろいろな窓霜の模様を見るのが楽しみでしたし、それに日が当たって解けてキラキラ光りながら流れ落ちて行くのを見るのがおもしろかったです。時には指で絵を描いたりとか。外に出ると、土があるところには霜柱ができており、その上を歩くとサクサクと音がして崩れていくのがおもしろく、わざと霜柱の上を歩いたものです。

 霜と霜柱はどちらも氷ですが発生の仕方に違いがあります。霜は冷たい地表物に触れた空気中の水蒸気が昇華して出来た氷です。このため、霜はすでに出来た氷の上に次の氷が出来て成長していきます。大学を卒業した年の3月に友人と伊奈谷の駒ヶ根に行き、千畳敷山荘(標高約2,600m)に泊まりました。現在、そこはすべてホテルとなっていますが、当時はホテルと山荘とがあり、貧乏学生だった我々は山荘の方に泊まりました。もちろん外は雪で真っ白です。我々が泊まった大部屋にはストーブがありましたが、隙間から入り込んだ雪が解けずに隅っこの方に埃のようにたまっており、窓には霜の花が咲いていました。しかし窓霜は解けることがなかったのでしょう、レリーフ彫刻のように盛り上がっていたのには驚きました(写真1)。


(写真1)千畳敷山荘の窓霜

 一方、霜柱は地中の水分が凍って出来た氷です。その氷が出来るときの水分補給は地中の深い方から行われるために、霜柱は下で成長し先に出来ている氷を上へ上へと押し上げるため、柱のような氷となります。このため、地表面にある物を持ち上げてしまい、(写真2)のように庭にまかれた小石も持ち上げてしまいます。


(写真2)庭にできた霜柱

 霜柱は土があるところならどこでも発生するかというとそうではありません。関東ローム層の土粒の大きさがその発生に丁度良いそうです。岩波書店の中谷宇吉郎全集第2巻(岩波書店,2000年)に自由学園で行われた「霜柱の研究」について書かれたものが載っています。それによると紅殻の粉や澱粉類、ガラスを砕いた粉などを用いて霜柱の発生実験をしていますが、赤土だけから霜柱が発生したそうです。その赤土も、粒の粗い物と細かい物に分けて発生実験をしたところ、粒が粗くても細かすぎても霜柱は発生しなかったそうです。なお、中谷宇吉郎氏は世界で初めて雪の人工結晶を作られた方で、これらの文章は戦前に書かれた物です。

 筆者は、10年ほど大阪府枚方市に住んでいましたが、枚方では霜は見ても霜柱は見たことがありませんでした。2年ほど前から横浜市青葉区に住んでいますが、冬の寒い朝は霜柱が出来ており、何か懐かしいものを見たような思いでした。また、そこには小さな足跡が付いていたり、2本の白い筋が出来ているのを見ることがあります。学校に行く途中の子供たちによるものでしょう。今も昔も変わらないなと思いました。

No.19

2003.1 Categories

雪まくり

 子どもの頃、東京都世田谷区に住んでいた私は、雪は珍しいので雪が積もった後は大喜びして外で遊んだものです。雪はまさに自然が与えてくれたおもちゃです。しかし成人してからは、雪が降り積もった日は通勤のことを考えると憂鬱になります。特に首都圏は雪に弱く、少しでも雪が積もろうものなら、たちまち交通が大混乱となってしまうからです。


(図1)雪まくり

しかし一面の銀世界は綺麗ですし、雪は自らすばらしい造形をします。社会人になって間もない頃、高橋喜平氏による「雪と氷の造形」(朝日新聞社刊)を手にしたときは驚きました。この本にはさまざまな自然による雪や氷による造形の写真が出ており、表紙にバームクーヘン状になった雪の写真が出ていました。このようになった雪を「雪まくり」といいます。(図1)は雪まくりの一部をスケッチしたものです。

この本には、平地に雪が積もったあと、急に気温が0度前後になり、突風が吹くと、雪が海苔巻き状になって転げていくと書かれています。木の枝の雪が斜面に落ちてできることもあるそうです。
このような現象はヨーロッパでは早くから知られており、イギリスではスノーローラー、ドイツではシェネーウェルチェンなどと呼ばれているそうです。日本でも江戸時代から知られていて、山形県庄内地方では、その形が米俵に似ていることから、「雪俵」と呼んでいたそうです。
「雪まくり」という言葉は、山陰地方で斜面の雪が転がり落ちて大きくなったものをいっていたそうです。大正時代初めに気象学者の岡田武松博士が、平地の雪が突風で転がってできるものにこの「雪まくり」を使ったので、それが用語として定着したそうです。
以前、秋田県出身の上司に「雪まくり」の話をしたら、「チョ、チョッと雪の表面をはがし、斜面を転がすと簡単にできる。」と言っていました。この本にも雪国の子どもは斜面で雪を転がしてバームクーヘンのようになるのを見て喜んでいたと書いてありました。上司も子どもの頃はそうだったのかもしれません。そういえば、私も子どもの頃に雪だるまを作ろうとして雪玉を転がしてもきれいな球にならず、雪が板状にはがれ海苔巻き状に大きくなっていったのを覚えています。


(写真1)清水寺本堂の屋根にできた「雪まくり」

(写真1)は京都清水寺の本堂(有名な清水の舞台のあるところ)の屋根に出来た「雪まくり」です。「雪と氷の造形」の表紙のように見事なものではありませんが、海苔巻き状というか渦巻き状の雪の玉がわかるでしょうか。


(写真2)地主神社の屋根にできた「雪まくり」

(写真2)は幾つもの「雪まくり」が清水寺の脇にある地主神社の屋根にできています。いずれも屋根のテッペンから落ちた雪が斜面を転がりながら作った「雪まくり」です。


(写真3)子安の塔からの清水寺本堂

(写真3)は同じ日に正面に見える「子安塔」付近から「舞台」を写したものです。写真の好きな地元タクシーの運転手さんが、「今日は仕事を休んできた。清水寺がこれだけ綺麗に雪化粧するのも珍しい。」と言っているのが聞こえました。雪の京都はなかなか趣があっていいものです。その後、これだけ清水寺が真っ白になったのを見ることはできませんでしたし、屋根にできた雪まくりを見ることはありませんでした。

参考文献:「雪と氷の造形」(朝日新聞社 1980)

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