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異常気象時代のサバイバル

No.38

2015.08.26

吉野正敏

ヨーロッパの酷暑 ― 2015年夏

猛暑のヨーロッパ

 日本は2015年の7月・8月、近年にない猛暑を経験した。各地で猛暑日の日数が多く、また、これまでの記録にないほどの高温が発生した。バイオクリマの観点から、これらの高温の現象を特に時間スケール・空間スケールで整理して捉えることの重要性を前回の連続エッセイ[37]で述べた。
 この時間スケール・空間スケールは、日本以外のアジアの諸国でも、ヨーロッパの諸国でも同じだが、高温の程度は地域によって異なる。日本では、あまりにも日本自体の異常の程度がひどかったため、外国の状態の報道は少なかった。そこで、今回はヨーロッパについて書いておきたい。

猛暑の展開

 2015年のヨーロッパの猛暑は6月に始まった。6月30日、スペインのマドリッドでは40℃の高温に見舞われるようになった。
 地中海沿岸地域はいわゆる地中海式気候、すなわち、冬雨気候の地域で、夏には中緯度高気圧に覆われ、晴天日が続き、日中高温になる。この高気圧は大西洋のアゾレス諸島からイベリア半島、地中海を覆い、南ロシアまで強く発達するのが例年の状況である。南ヨーロッパ諸国はもちろんこの高気圧の支配下におかれる。2015年の場合、6月末にはこの高気圧の異常な発達がみられ高温が出現した。
 7月3日には、フランス・ドイツを含む北西ヨーロッパまで33~35℃の地域が拡大し、ドイツのミュンヘンは35℃まで上がった。

2015年7月のヨーロッパ

 南ヨーロッパの代表的な地点における7月の気温変化を見よう。(表1)は7月11日から22日までの地中海沿岸を中心とした7都市の状況である。最右端のアンタリア(トルコ)は地域としては近東に属するが参考として入れた。この表で明らかなようにイベリア半島のスペインの首都マドリッドでは7月12日から40℃、14日・15日には41℃となった。もちろんヨーロッパにおける最高の記録である。

(表1)2015年7月11日~22日の南ヨーロッパにおける気温(ドイツ気象台のデータによる)

日付地点名      
 マドリッドミラノローマウィーンブダペストドブロフニクアンタリア

11日39333327263031
1240343631253040
1340333126263037
1441343426343035
1541343426293035
1640353832323339
1737363735353435
1837363735343540
1937353636
2038363632363437
2139353735343831
2238373737373641

 その後、イベリア半島では高温が連続した。高温は北イタリアに波及し、7月16日以降35℃以上が続いた。高温な地域は東方にさらに拡大し、ハンガリー・クロアチア南部、さらにトルコにまで至った。


(図1)(上)2015年7月13日のヨーロッパにおける予想最高気温(℃)の分布。
(下)同じ日の天気図。気圧の単位はヘクトパスカル。
(いずれもドイツ気象台のデータによる)

 7月13日の気温分布を(図1)(上)に示す。40℃以上の地域がイベリア半島の南部にあり、30℃以上の等温線が地中海の北沿岸地域、すなわち、イタリア・クロアチアのアドリア海岸・ギリシャ・トルコ南西部海岸地域を囲んでいる。緯度から言うとマドリッドが北緯約41度、ローマが約42度だから、日本を考えると青森・札幌付近の北日本に相当する。われわれとしては、この点を頭に入れておかねばならない。

中緯度高気圧との関係

 大西洋のアゾレス高気圧は北半球を取り巻く中緯度高気圧の1部分である。北太平洋高気圧の1部分である小笠原高気圧と日本の天気・天候が深く関わっているのと同じである。(図1)(下)には7月13日の天気図を示した。イベリア半島西方の大西洋上、アゾレス諸島付近に中心を持つ1025ヘクトパスカルの高気圧の東端がイベリア半島西方に見える。イギリス付近には1010ヘクトパスカルの低圧部があり、ヨーロッパは典型的な夏型気圧配置である。
 イベリア半島の高温はこのように乾燥した高気圧の晴天の条件下にもたらされた。そうして、この高温な地域は季節の進行とともに勢力を強め、東欧を巻き込みながら、次第に東に移動し、地中海東部、ギリシャ・トルコにまで達した。
 中緯度高気圧は中近東の乾燥地帯にまで及ぶから、沙漠地帯では非常な高温になる。今回は詳しくは触れないが、7月13日バグダッドでは45℃、ドバイでは47℃、クエートでは46℃の記録が報じられている。今年の異常高温を半球スケールで検討しなければならない。

課題

現在の段階でわかっていることから今後の研究課題を以下にまとめておきたい。

(1)北半球の中緯度高圧帯の発達と、最近の地球温暖化との関係。
(2)北太平洋高気圧の強弱・位置のずれなどと、日本の天候を支配する小笠原高気圧の強弱・位置・形状の変化、季節(期日)のずれ。
(3)半球規模、特に、北アメリカ・中近東・東アジアなど、他地域との比較。
(4)北緯35~45度の比較的高緯度で6月から異常高温が出現する理由。昼間の長さ・太陽高度・地面付近の風速など、日中の熱収支の解明。
(5)バイオクリマには、このような高温の年による変動の対策樹立、医療救急施設・医療品・作物の耕作計画などが特に重要。

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