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異常気象時代のサバイバル

No.10

2014.05.28

吉野正敏

サバイバルの後 ― 東日本大震災に学ぶ ―

われわれはどうなるか

 この連続エッセイではサバイバル事件に至るまでの事象を、いろいろ述べてきた。しかし、大事件を乗り越えてサバイバルできたら、その後はどうなるのか、どんな世界なのかについては、考えたことはなかった。
 最近、2011年3月11日に起こった東日本大震災の津波による人的被害について、サバイバル後はどうなったかを知るために、種々のデータや文献を集めている。それらを読み、分析したり、まとめたりしているうちに、それらは、“極端な異常気象によって発生したサバイバル事件後の状態”を類推するのに非常に役立つことがわかった。そこで、今回はその一端を紹介したい。 

時間経過にともなう人間と社会

 捉え方の整理をまずしたい。(表1)に経過時間の大まかな分類を示す。

(表1)東日本大震災後、被害者の人間生活と社会に現れた内容による期間の分類

期間地震・津波発生からの時間スケール

短期間1週間ないし1カ月まで
中期間3~4か月まで
長期間1~2年まで

 どうしてこのような分類をしたのか、根拠を示せと言われても返答できない。現在のところ、被害者の生活、取り巻く社会に現れた事象によって直観的に分類したとしか言いようがない。強いて言えば、結果から逆に、このように期間を分類すると大地震・大津波の影響によって発生した事象の内容の差が明らかであり、特徴を捉えるのに好都合だと言うことである。なお、3年くらい以後の事象もあるだろうが、現在の時点では具体的なことはもちろん未経験だから論及できない。

短期間について

 死者数は60歳以上の人が65%に達した。その内の92.5%が津波による溺死であった。これは高齢者の避難が困難なことを意味している。また、以前の連続エッセイ“暮らしの中のバイオクリマ[8]”の(表3)に示したように、岩手県・宮城県では働き盛りの年齢層20~29歳、30~39歳では男が女より多かった。これは、消防団員の犠牲者、港にいた水産業関連の人たちの犠牲者が多かったためであろう。しかし、年齢層40~49歳以上では女のほうが男より多かった。また、犠牲者数の極大は、男は70~79歳の層に出るが、女は80歳以上の層に出た。しかも女の方が男より多い。
 この明瞭な差はどうして生じるのか。高齢化社会の内容、避難に対する体力・判断力・行動力などの性差があると考えられる。避難行動における差として今後の避難計画・避難所の設計において考慮しなければならない。
 火災はこれまで生気候の分野に入っていなかった。しかし、三陸海岸にはたくさんの漁港があり、漁船が集まり、漁業関係施設・加工工場・市場などに人が集まり、オイルタンクが並ぶ。今回の津波では、発生したがれきに、流された自動車のガソリンタンクから漏れ出たガソリンにバッテリーの火花により着火した。今回発生した371件の火災の内、159件が津波による火災であった。これまで、大地域における延焼に関しては風の影響しか研究されておらず、火災学ではもちろん、生気候学でも、津波後のがれきの発生・流動・堆積・着火・延焼を研究しなければならない。
 津波直後の1日ないし1週間においては、病院やクリニックなどの医療施設、薬品確保特に避難者の常備薬支給、医師・薬剤師・看護士などの確保など、いわゆる医療体系の整備・運営が最重要課題である。特に過疎化した高齢化社会では、通院の交通手段、薬剤の配布、在宅医療・看護などが平常時以上に困難になる。高齢者向けの日用品・食品の支給ばかりでなく、心理的孤立感を和らげる手段も求められる。

中期間の諸問題

 漁港のハエの問題があった。周辺の避難所の生活を脅かした。5月上旬から目立ち始めた。6月は平年を9℃も上回る暑さと、殺虫剤不足で、駆除が追い付かず、ひどい状況となった。避難所で69人の食中毒が報告された。
 この期間の一つの大問題はがれきの撤去である。がれきとはコンクリート片、たたみ、木材、家電製品、看板、自転車、汚泥、その他、ありとあらゆるものが含まれる。2011年7月初めの県別の推定量と仮置き場への搬入量は(表2)に示す。

(表2)2011年7月上旬におけるがれきの推定量と搬入量

県名都市名推定量(万トン)搬入量(万トン)搬入率(%)

岩手県51.4
 宮古市86.036.8 
 陸前高田市86.535.6 
宮城県31.3
 石巻市616.388.5 
 東松島市165.739.4 
福島県26.8
 いわき市88.026.1 
 南相馬市64.018.3 

データは朝日新聞による

 この表で選んだ都市は、県別に見て、がれき推定量の多い上位2都市である。県全体で見ると岩手県が多い。しかし、都市別に見ると宮城県の石巻市、東松山市、仙台市が多い。
 この期間になると、心の安らぎが求められる。例えば、この地域では例年は5月下旬~6月上旬が新茶の茶摘みだが、2011年は6月14日になった。10~20日の遅れだが、これが飲めたことはサバイバルの課題を脱出した証拠でもあり、例年の状態を取り戻しつつあることの心の支えでもある。 

長期間の問題

 死者の内、直接死の他に、体調悪化による関連死が課題になった。まだ統計が充分に取れてないが、直接死と同じ程度の数に達するとも言われる。また関連死の90%以上が66才以上という報告もある。復興庁が2012年5月13日に発表したが、関連死者数は津波後、1週間以内が355人、1週間~1ヶ月が510人、1~3ヶ月が459人、3~6ヶ月が235人、6ヶ月~1年が73人であった。地震・津波に遭遇した心理的ショック、避難生活の疲労が体調を崩す原因だが、このような時間的変化についての詳しい研究が待たれる。
 この他、サバイバルに関わる長期間の問題は多方面に渡る。紙面の都合もあり、いずれ再論したい。


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