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異常気象時代のサバイバル

No.36

2015.05.27

吉野正敏

富山県砺波の局地風とサバイバル

局地風とサバイバル

 日本の局地風の分布を本州の中部地方以北で見ると、陸から海に向かう風向のものが多い。日本海側では、中部地方の福井県から東北地方の秋田県まで、南ないし東の局地風が卓越する。一方、太平洋側では、静岡県、神奈川県、関東平野では北ないし北西・西の局地風、東北地方では西の局地風が卓越する。
 ここで言う“局地風”とは、つぎのような定義・状態の風である。(1)局地的というスケールは、県全体・地方のようなスケールではなく、数kmから、10~20kmくらいの地域スケールで、(2)その地域だけに、ある特定の気圧配置の時吹き、(3)特定の季節によく発達し、(4)日中か、夜間か、日の出頃か、など、日変化が明瞭なことが多く、(5)特別の名前、たとえば、“空っ風”、“比叡おろし”など、の名前で土地の人びとに呼ばれている。
 一般論で言うと、寒候季は特に海上の方が低い気圧になり、陸上は高い気圧になるので陸から海に向かう風向が多くなり強くなる。日本は冬型気圧配置(西高東低)の時東アジアでは西風が強いので、当然、太平洋側では加速され、強くなる。このような気圧配置の時、日本海沿岸では雪となり、今回述べるような風は吹かない。春になって、日本海に低気圧が入る場合、富山県の砺波平野・富山平野では南よりの風が発達する。典型的な南よりの局地風が山地から平野部に出た地域で強くなる。秋、台風が日本海を北ないし北東に進む時、やはり南よりの局地風が強くなる。
 局地性が強いので、かえって県全体、国全体の問題にならない場合もあり、これがサバイバルなどの極限状態の時、そこの地域社会、あるいは住民個人の教育・強力な対策を必要とする。

砺波平野の井波風と庄川ダシ

 砺波平野の井波風、庄川ダシは教科書にも出てくるほどの上記の定義に合う局地風である。しかも、両者は、発生する時の気圧配置や日変化(強くなる時間帯)など、対照的に異なる。(表1)には、それらをまとめた。

(表1)砺波平野における井波風と庄川ダシの比較(吉野による)

局地風名井波風庄川ダシ

主な気圧配置日本海に温帯低気圧、または熱帯低気圧(台風)。移動性高気圧・中部地方に形成される局地高気圧。
発生原因南よりの風が八乙女山系を吹き越し風下に形成された下降気流が地上に降りたところ。夜間に形成される山風が谷間から扇状地に吹き出した範囲。
風の特徴フェーン現象により昇温し乾燥。間歇的な周期あり。乱れは小。
季節冬型気圧配置の真冬を除く各季節。上記の気圧配置の各季節。
日変化特になし。日中強くなることが多い。夜半から、早朝・午前中(山風の吹き出す時間)。
人間活動への影響延焼・飛び火による大火の危険。強い場合、自転車交通・歩行困難。適度の風速の場合は乾燥し(旧種田村)種籾の生産に有利。

 (表1)を見れば井波風と庄川ダシとの対照的な違いがわかるであろう。このように特徴や状態が異なる局地風が砺波地方という比較的狭い地域に吹くことは、住民にとって厳しい環境となる。井波風で、過去、集落が大火によって灰燼に帰したことがある。また台風によって樹齢推定で350年のスギの大木が根返り倒木することがある。2004年10月20日、台風により住吉神社だけでも大木15本、中小木18本が倒木した記述がある。この時、“風除堂”(吹かんどう。風が吹かないことを祈るお堂)が全壊した。

防風林・防風垣・防風施設

 防風林・防風垣・防風施設を完備した砺波の散村風景は有名である。周囲は広い水田、その中に囲まれた1軒1軒が見事な防風林に囲まれて散らばる大きな農家群は、日本の原風景の一つである。


(写真1)砺波平野の散村の農家。手前は田植え直後の水田。
(写真はすべて2015年5月、吉野撮影、不許複製)

 (写真1)に示したように屋敷の南に面した側は高いスギなどを仕立て、中層木は広葉樹が主で母屋が見えないほど密である。その下は、撮影当時ちょうど赤い新葉(アカメガシワ)の防風用の生垣があり、最下は石垣である。石垣は洪水対策である。
 生垣の部分が、板と白壁の塀に瓦を葺いたりっぱな例(写真2)もある。そのような場合、強風で塀が倒されないように裏側で頑丈な錘(コンクリートの柱)が支えている(写真3)。


(写真2)石垣・コンクリート・板・白壁・瓦屋根を持つ防風垣。

(写真3)同上の裏側(敷地内の側)の防風垣の倒壊予防策。

 これらの写真から、南風の強さが想像できよう。
 石垣は洪水対策のために築かれるのだから、当然、洪水の危険が大きい庄川に近いところの屋敷を取り囲む。しかし、防風を主目的とする高く、厚く立派なものもある。その例を(写真4)に示す。この家は、古文書で知られている限りでも、天正17年(1589年)にさかのぼる中世末以来の土豪である。したがって、現在、このような立派な例がたくさんあるわけではない。しかし、500年以上に渡る砺波平野の人たちの自然災害に起因するサバイバル対策を知るよい証拠である。


(写真4)防風を主目的とする見事な石垣。
その上の生垣の高さと比較すればよくわかるであろう。

 なお、(写真4)の背後に見られる白い建物は砺波地域消防組合井波庄川出張所(旧井波消防署)である。ここで観測している風向・風速などの気象観測値はこの地域の消防活動ばかりでなく、井波風・庄川ダシの研究に欠くことができない。

井波風の鉛直断面

 2015年5月5日8時、八乙女山系を越して砺波平野に吹き降りてきた南よりの風が井波付近でバウンドし跳ね上がり(ハイドロウリック・ジャンプ、跳ね水現象と呼ぶ)、小さな積雲を生じているさまが観察できた(写真5)。この日の砺波アメダス観測所の記録では7時に風向はS、風速は1.1m/s、8時にはSSE、3.7m/sであった。その前後の時間はWSWであった。この日、強くはなかったが、雲の動きで井波風の鉛直断面が捉えられた。


(写真5)八乙女山系の風下斜面上の雲。
(上)2015年5月5日8時00分。(下)同8時06分。
砺波市庄川町庄よりSW方向を撮影。したがって、画面左から右にS~SEの風が吹く。

 なお、画面下部のミニゴルフ場の樹木は、2~3本で孤立樹のような樹形になっているが、1本の樹木と見れば、偏形度1、風向Sを示す。この地点が庄川ダシの地域であることをしめす。また、写真でははっきり見えないが、対岸の堤防近くの樹高約10mの針葉樹も、偏形度1を示す。したがって、5月5日のような状況が頻度高く発生していることがわかる。これを土地の人びとは庄川ダシと呼んでいることが理解できる。


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